ウィークエンド・ディナー

2014年03月30日

Weekend Dinner その8「 かーにばる/蟹(頬)張る」

                   by そむりえ・まっつ (拳学研究会所属)


 2013年の武藝館Newsのヘッドラインは何と言っても札幌稽古会の設立でしょうか。
 新会員の皆さんの、道を追及する清新な姿勢からは、学ぶ事への本質的な喜びが溢れており、「本物」を味わうことは人生を豊かにする事なのだと、改めて確信しました。

 そんな情熱漲る新メンバーを迎えた年の瀬に、本部道場に一つの荷物が届けられました。
 中にはなんと、北海道名産の「毛蟹」がぎっしり・・・
 札幌稽古会・佐藤 剛 会長の心尽くしでした。

 そして新年を迎えた1月某日、
 本部道場の新年会の席でいよいよ毛蟹達の封印が解かれます(解凍のコトです・・)。

 今回は蟹にまつわる、ある一夜のエピソードです。


  * * * * * *


 今宵は古参門人池田夫妻のお宅で肩肘張らないホームパーティースタイルで新年を祝います。池田夫妻の手により、すっきりとセンス良くまとめられた空間・・・寛ぎます。

 メインの毛蟹は冷蔵庫に移して半日を経るも、未だしっかと凍ったままです。
 でもそこは美味求真に妥協のない食いしん坊メンバーです。

  師父:「カニを袋に密閉して氷水で解凍しなさい・・・」

 水の有する高い熱伝導率を利用して、
 鮮度を最大限に保ちつつ、解凍スピードも速い、目から鱗な解凍法です。

 蟹を待ちつつ宴の開宴です。
 2014年はどんな年になるのでしょうか、武藝館開門から20周年の節目の年です。
 寛いだ中でも、皆の表情には鋭さが垣間見えたのでした・・・


  

 今夜のキックオフはこちら「アヤラ・ブラン・ド・ブラン・ミレジメ2005」です。

 シャンパーニュの真珠と称される、好立地な村の葡萄からなる銘醸品です。
 白い花、シトラスの香り、丸みのあるミネラル、きめ細かい泡立ちと、
 食欲を掻き立てる要素に充ちています。少し儚げなアフターの後ろ姿も魅力的です。

 前菜には各種のサラダ、生ハムとチーズ、自家製のピクルス等々が並びます。

 「ツナソースのサラダ」に使われたイエロートマトは健康クラスの門人が育てた品です。
 ヒデコ・シェフの丁寧な仕事とも相まって、食感と甘味のバランスが絶妙!
 頂く食事に「心」が感じられると、何故か五割増しで美味しく感じられるものです。


  

 個人的には「ひよこ豆のフムス」がお気に入りです。
 粗く挽き潰した力強い豆の風味が、エクストラバージンオリーブオイルの香りと絶妙に合います。実に明日への活力が充ちてくる、元気になる一品です。


  

 こちらは内山事務局長の手作り、「タラの白ワイン蒸し セロリ添え」です。
 火の通し方が絶妙なので身は瑞々しく、ホロリほぐれて甘い、シャンパンとの相性も抜群です。本当のタラの旨味を堪能させて頂きました。


 さて、蟹の解凍の具合は如何でしょうか?
 2時間程が経過して、そろそろ良いのではとの期待が高まります・・・が、残念!
 氷を抱いた毛蟹達の沈黙は解かれず・・・とあらば、
 食いしん坊達には更なる決断が迫られます。

  師父:「やりたくはないのだが・・・ ”風呂” で解凍しよう」

 背に腹は代えられません、涙(?)を呑んで常温の水で解凍の加速を試みます。
 ふと、過去にも似たようなエピソードがあった事を思い起こします。
 かつて師父がある門人から活きた伊勢海老を大量に贈られた際も、
 風呂桶に海老を放って、活きたままの大海老を存分に堪能した(!)との事でした・・・


  

 中継ぎには「大七 純米 生酛」と「奈良漬の大根巻」です。
 国内外の評価も高く、世界的にも銘酒の地位を確立した「大七」のスタンダードです。

 旨味が濃いのに飲み口は軽く爽やか、沁み沁みとした味わいの奥行きがあり、
 どんな料理とも合う懐の深さがあります。

 奈良漬も大根と共に頂く事で、風味の角が和らげられ、丁度良く舌を休ませてくれます。
 更にそこで炊き立てご飯の塩むすびにかぶりつくと・・・もう完璧です。

 素性の良い日本酒を開けたてで飲む、漬物と米の相性を堪能する・・・
 本当に美味いな・・・!
 と日本人に生まれた幸せを実感する瞬間です。

 BGMにはサラ・マクラクランの「Angel」です・・・

  師父:「シティ・オブ・エンジェルか、久しぶりに聴くな。また観てみようかな・・」

 本日のBGMには、こちら、
 「Bugeikan MAX 2007(Edited by Shifu Yohgen)」が大活躍です。


  

 本邦初公開の、武藝館レアアイテムの一つです。
 「ちょっと」懐かしい洋楽の名曲達がCD2枚組に織り込まれています。
 世界広しと言えども、ベスト・リミックス・アルバムを編集している武術道場が他にあるでしょうか?

 さらに驚きの裏ジャケットがこちらです。


  

 ハッブル宇宙望遠鏡が捉えた「いっかくじゅう座 特異変光星V838」です。
 武藝館の象徴たる「Tai-ji symbol」そっくりの自然の神秘・・・心憎い演出ですね。

 さてさて、さらに1時間程を経て、三度目となる解凍の確認ですが・・・
 未だ毛蟹達は氷の微笑をまとったまま、その身を委ねようとはしません。
 流石に食いしん坊達も喉から手が出てくる非常事態です。

 そして毛蟹達を目覚めさせる為、
 クシャナ殿下の「薙ぎ払え!!」に匹敵する覚悟で、師父の最終指令が発令されます。

 ファンヒーターの前にアルミ箔を敷いて毛蟹達を並べます。
 更にヒーターと正対する位置に熱の反射板を仮設して解凍の効率を高めます。


  

 うーむ、もはや異次元の光景です・・・どうしてこうなった・・・?


  

 当初の予定とは異なりますが、メインディッシュに進みます。
 メインには「ラムチョップの香草パン粉焼き」を、
 そして合わせる赤ワインは「シャトー・ラグランジュ 2005」です。

 2005年はボルドーワインの大当り年です。そろそろ飲み頃に掛かってきました。
 黒スグリ、チョコレート、すみれ、ハーブの香りが混然として、
 舌に沁みこみ、歯茎で感じる滑らかなタンニンの刺激が魅惑的です。
 端正で折り目正しいボルドーの特徴が良く表現されたワインです。

 仔羊も肉質がキメ細かく繊細な味わいで、
 ハーブの香りがワインとも協奏して絶妙な取り合わせです。
 付け合せの蕪もキメの細かい食感が、仔羊のそれと相まっていて良い取り合わせです。

 開宴から5時間・・・24時を回り、宴も終盤に突入です。
 毛蟹の様子は・・・ようやくの「OK!」です。
 すったもんだがありましたが、どうやら凍った時間も動き始めるようです。


  

  

 待ちに待った毛蟹です。
 毛蟹にしては大振りな身は、
 佐藤会長が逸品を選りすぐってくれたからに違いありません。
 何かとても長い旅路を経て辿り着いたような感慨を覚えます。

 師父自ら率先して毛蟹をテキパキと解体し、手際良くパーツに切り分けられていきます。

 その味はというと・・・

 「旨っ!」

 「ミソの味が濃いー!」

 「待った甲斐があった・・・!」

 つややかなで弾力のある身、噛みしめると芳醇な海の味が広がります。
 ミソは濃厚なのに生臭みがなく、日本酒にもご飯にも最高に合います。




 と、ひとしきり盛り上がった後は、皆、黙々と蟹の身を解しにかかります。
 人間、カニを食べる時には無口になるものです。

 存分に蟹を頬張る・・・かーにばる。
 北の大地に蒔かれた種の芽吹きに思いを馳せながら、夜は更けるのでした。


                              (了)


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2010年02月25日

Weekend Dinner その7 「ほんまもん」

                   by そむりえ・まっつ (拳学研究会所属)



 立春を迎えた週末・・・
 一年で最も寒い峠を越え、春に向かい始めたその日の宴は、
 かってないほどに「凄味」に充ちた世界を拓いてくれました。

 ありとあらゆる物事に値札が付けられ、圧倒的な速度で流れていく現代にあって、
 「本物」である事とは、如何なる意味を持っているのでしょうか?
 巷ではデジタルの時流に乗ってフェイクやコピーがあらゆる領域を埋め尽くしています。
 そんな時代でも「本物」を伝える人たちは、己が利得を省みず、
 粛々と道を歩み続けています。

  「一流を身に付けるためには、一流を味わわなければならない・・・」

 常々、師父は述べられます。

 武藝館で供される食饌(しょくせん)は、常に「本物」が吟味されています。
 その中にあってもこの日の食卓を彩った逸品は、ひと際、深い余韻を残してくれました。
 小生の拙い筆では、その真価をお伝えするには甚だ心許ないのですが、
 せめてその一端でもお伝えできればと思います。

 久々のウィークエンド・ディナー・・・
 「ほんまもん」の世界をご賞味(見)下さいませ。


   *  *  *  *  *  *


 立春寒波が列島を吹き抜けた週末・・・
 深深と冷え込んだその日の稽古は、深夜の一時半にまで及びました。
 稽古で火照った心身には、寒気も涼気と覚えるほどです。

 身支度を整えて師父のお宅を詣でますと、常とは違う居間の佇まいに一寸驚きます。
 どうやらリビングに隣り合う和室が今宵の宴席のようです・・・

 座敷の奥には三分咲きの紅梅が活けられ、 
 壁には古色を帯びた大和歌(やまとうた)の短冊が掛けられています。
 凛然として見事な空間に、身の内の引き締まる感覚を覚えます。

  筆者:「牧水・・・? これは若山牧水の直筆ですか?」

  師父:「そう、姉から譲り受けたんだ。家の蔵に眠っていたそうでね・・・
      意外と柔らかい字を書く人だったようだね・・」


  【 何となきさびしさ覚え山さくら花ちるかげに日をあをぎみる 】


  師父:「本来、大和言葉は、語頭に濁音や半濁音はなく、濁音を読むときにも
      軽く柔らかく読んだのだよ・・・試しに詠んでみなさい」

  筆者:「なにとなき/さひしさおほえ/やまさくら/はなちるかけに/ひをあをきみる」


 確かに・・・本来の日本語の響きとは、なんとも柔らかく繊細な味わいに充ちています。
 旅と酒を心底から愛した歌人、その春を言祝ぐ心情が木霊する・・・
 そんな心境に誘われます。


  師父:「さて・・・、今日の主役はこちらでね・・・」



  



 いずれも、古都・奈良大和が誇る老舗の逸品・・・

 「今西本店 純正奈良漬」と、「嬉長 純米酒」です。


 果たして、これが本当に奈良漬なのか・・?
 色は照り映えるような射干玉(ぬばたま)の黒。
 あまりにも雅やかな色艶に驚きます。

 日本酒も香りが素晴らしい!
 力強くて芳醇。
 嬉長、つまり「嬉しい事が長く続くように」と名付けられた通りの、生命の水です。

 瓜、胡瓜、西瓜・・・漆黒に輝く香の物に箸を伸ばします。
 その味わいは・・・例えるならお酒の精気を凝らせて一塊と成したら、
 斯くの如く成ろうかと云う程に、純粋で鮮烈な味感です。
 事前に奈良漬と知らなければ、未知の食べ物と判じてしまうほど、
 既知の奈良漬とはその在り方がまったく異なります。

 奈良漬の余韻の残るまま「嬉長」を口に含みます。
 舌に沁み込む味わいの深さ、鼻を抜ける鮮やかな香気に眼を開かされます。
 ただ美味しいだけでは無く、何かに芯を揺さぶられる心地です。

 漬物と日本酒だけの食卓ですが、なんと深い衝撃に充ちている事でしょうか!


  師父:「これが、 ”ほんまもん” の奈良漬と、日本酒だよ・・!!」

  S先輩:「あぁ・・・ウーン・・・(もぐもぐ・・・無心)」

  玄花后嗣:「どこか懐かしさを覚える味ですね・・・」

  師父:「大和の地は、祖先(藤原氏)とは縁の深い地だからね。
      何かが響き合うのかもしれない・・・」

  筆者:「純粋な味ですね・・・」


 そう・・・奈良漬の頭に付く「純正」は伊達ではなく、
 現在の日本で「純正」を名乗る事を公に認められた唯一の奈良漬なのです。

 奈良漬とは蔬菜の塩漬けを酒粕に漬け込んだ漬物で、
 奈良朝の時代から「糟漬(かすづけ)」として貴顕の珍重を得てきました。

 素材は野菜と塩と酒粕だけ。
 幾度も新しい酒粕に漬け替えて作られる・・・なんとも手間暇の掛かる漬物です。
 昨今では中国産の野菜を添加物と漬け込み、一年も経ずして世に出回る物が多いようですが、この「今西」の奈良漬には、一切の手抜かりもありません。

 厳選された素材のみを用い、漬け替えること六回以上、
 漬ける期間は十年(!)にも及びます。
 そうして始めて、古より伝わる本来の奈良漬と成るのです。

 日本に唯の一軒のみの「本物」となってしまった現在・・・
 「果たしていつまで続けられるものか・・・」
 そう言いながらも、古式の製法を守り伝えておられるのです。

 そしてまた、今宵の日本酒「嬉長」も古式を守り伝える酒蔵の銘品です。
 古来より「奈良流は酒造り諸流の根源なり」と言われる奈良は、
 日本清酒発祥の地であるとされています。
 その古の都、平城(なら)の、生駒山を仰ぎ見る地で酒造りに勤しむこと四百有余年・・
 生駒の地に湧く神水と、伊勢神宮の御神米を造る水田の米から醸される銘酒です。

 以前に武藝館にご縁のある方より師父に贈られて、
 皆その味わいの奥深さに感じ入ったとの逸話もある品で、
 今回、満を持しての登場となりました。

 「現代の名工」にも選ばれた杜氏の山根氏は、
 『自分が守り通していくという気概を常に持って後進の育成も手がけたい』
 と、気を吐きます。

 この両者に共通する気概は何処から生じるのでしょうか?


  師父:「やはり、永い歴史を経てきた土地の人間は気骨が違うな・・・
      無名の職人でも実に見事な作品を造るから、驚いてしまうよ」

 手酌でご愛用の備前のぐい飲みに日本酒を注がれ、
 恐懼する我々にも手ずからに杯を充たして頂きます・・・
 その仕草、その拍子がはっとするほど綺麗で、眼を惹きつけられます。

  師父:「月下独酌・・・というのも、私は好きだがね」

 莞爾(かんじ)と笑みを零(こぼ)され、掌中の杯を口元に運ばれます。

  師父:「でも、こんな繊細な文化は、中国には無いな。
      大和し美し────────この国の文化というのは、本当に凄いものだ・・」


 ・・・確かに、
 日本の文化には徹底して余分を削ぎ落とし、
 繊細に純度を高めていく方向性があるように思われます。
 今夜の宴で供された、酒食も、器も、書も、一見質朴ながらも、
 深い文化の香りに充ちています。

 平生、師父は述べられます。

  『太極拳は ”引き算” なのだ・・』

  『余分を捨てて、もう引けるものが何も無いところに、太極拳の原理がある・・』

 師父の表現からは、日本の文化に通底する香りが感じられます。
 その表現自体、師父が日本人である事から発されているようにも思われます。

 純度を高め、既に物事の本質に到達している状態であれば、
 畢竟、何か手を加える事が出来るのでしょうか?
 窮まった在り方、模索の尽きた最果てに辿り着いているのなら・・
 その先は守るしかない。
 その追求は古くて、常に新しい。
 「本物」は、人の時間とは無縁です。

 「本物」とは何か?

 何故、守り伝えられるのか?

 それは聞いても、眺めても分かりませんが、
 直に触れて味わえば、否応無く納得できるものでした。
 その生の感動が、人をして「本物」に向かわせるのだ・・・
 そう沁み沁みと実感した夜となりました。


                                  (了)

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2009年12月27日

Weekend Dinner 番外編 「 2009年の忘年会」

 月日が経つのは早いもので、今年もあっという間に忘年会の季節になった。
 例年は、どこか適当な店を会場にして忘年会を行うのだが、毎年その選択に苦労する。
 もちろん、ここ掛川がそれほど大きな街ではなく、近隣の都市にもコレならばという店が無い故なのだが、そんなスタッフの苦心を察して下さってか、今年は師父が自宅を会場に提供しても良いと言って下さり、師父宅で忘年会が行われることになった。

 門人達が、「今年は師父宅で忘年会!」と聞いて喜んだのはモチロンのことである。
 何しろ師父宅では、専属のシェフや板前、そむりえ、バリスタによって、正式弟子やお客様しか出席できない『ウィークエンド・ディナー』が多い時には毎週のように催され、そこで出される食事は半端ではない。それは私もご相伴に与(あずか)っているが、決して身内の贔屓目ではなく、かの「美味しんぼ」の親子も冷や汗をかくかもしれぬほど、その食事は「美味求真」に尽きるものだ。
 いや、単に美味なることに留まらず、そもそもヒトにとって食とは何か、喰うコトとは何ぞや、という根本的な問い掛けから始まって、より良き旬の食材、より相応しい食器、調理具、より相性の良い美酒を、と、文字どおり師父とスタッフが東奔西走しながら、そのつど御馳走を創造していこうという、太極武藝館の心意気であり、セレモニーなのである。
 だからこんな機会を、食いしん坊の多い門人たちが見逃すわけがなかった。

 果たして、忘年会の通知を出すや否や、あっと言う間に三十数名が参加希望を表明。
 そんなにウチのスペースに入るかなぁ・・と心配顔をされる師父をよそに、いえ、僕は廊下で構いません、あ、私は道場でも結構です、でも独りでは嫌です・・・と、何人もがユーモアを効かせて申し出てくれる。斯くしてスタッフは、約一ヶ月前からそのメニュー作りに入ったのだった。

 
 予定されたメニューは、

   1 ドンクのフランスパンのカナッペ三種
     (トマト、ブラックオリーブと生ハム、アンチョビとクリームチーズ)

   2 殻つきマカダミアナッツとトルティーヤ・チップス サルサソース添え
 
   3 玉葱と長ネギのキッシュ

   4 スペイン風・ライスサラダ

   5 神戸牛のしゃぶしゃぶ入り生春巻き 特製ナンプラーソース

   6 いろいろな温野菜のサラダ 自家製チーズのマヨネーズソース

   7 槍烏賊(やりいか)とグリンピースのソテー

   8 明石蛸のマリネ

   9 神戸牛のコロッケ

  10 神戸牛の牛すじの煮込み(大根と蒟蒻入り)

  11 インド風・スパイシー・エッグ

  12 紫キャベツの酢漬け キャラウエイシード入り

  13 タイ風・ラムボールのつくね揚げ
     パクチ入りナンプラーソース

  14 中華風・海老のチリソース和え

  15 スパゲッティ・ポモドーロ

  16 信州リンゴのコンポート

  17 ドリップ珈琲とベルギーチョコレート


 このメニューでは、普段のウィークエンド・ディナーと同じように、安全で新鮮な食材だけが厳選され、出来る限り国産で、無農薬、低農薬、危険な添加物が入っていないものばかりが用意された。
 例えば、マカダミアナッツはオーストラリアの完全無農薬・無添加のもの、ネギ、グリーンピース、紫キャベツなどの野菜は、信州で農家を営む門人から直送される無農薬のもの、スパイシーエッグには厳選された健康で安全な玉子、海老チリの海老は安全な国産の海老、信州リンゴはこれまた信州の門人から送られてきたリンゴ、そして炒め物や揚げ物の油から味噌、醤油、酢、味醂、塩、砂糖などの調味料まで、きちんと選ばれたものである。
 宴会で使われたお箸も、金魚鉢に五本も入れたら金魚が浮いて来るような、危険な中国製の割り箸なんぞ使えるものか!と、丁寧に作られた安全な国産の竹製のものが取り寄せられた。

 また、「神戸牛のしゃぶしゃぶ入り春巻き」「神戸牛のコロッケ」「神戸牛の牛すじの煮込み」の三種類の料理には、師父の生まれ故郷である神戸の御料牧場で育てられた、美味しくて安全で健康なとびきりの神戸ビーフが使われた。

 因みに、この「牛すじの煮込み」は、師父がウデを振るわれた ”お手製” である。
 この一年間頑張った門人たちのためにと、多忙なお仕事の合間を縫って、大変な手間暇を掛けて作って下さったこの手料理は、まず5キロもの牛すじを神戸から取り寄せ、下茹でだけでも三時間をかけ、一口大に整えた牛すじを蒟蒻と大根を合わせて炒め、さらに五時間ほど煮る。今回は味が良く染みるようにと、計三日間を費やして仕込まれたものであった。

 この際、その作り方を取材したのでお伝えしておきたい。
 まず、神戸牛の「牛すじ肉」を神戸の精肉店から取り寄せることから始まる。
 普通、すじ肉というのは扱いに手間暇が掛かり、安価ではあるけれど面倒なので、下町の居酒屋などでしかお目に掛かれない。しかし、すじ肉はすじ肉でも、コレは「神戸牛」のすじ肉である。滅多に手に入らないその希少な食材に、神戸生まれの師父が目を付けられたのであった。
 計5キロものすじ肉は、やはりプロの客(おでん屋、焼きそば屋、お好み焼き屋など)からの注文がある手前、一度には送ってもらえなかったので、入荷する毎に少しずつ武藝館用に取り置きをして頂き、一週間を掛けてようやく集められた。

 その貴重なスジ肉は、普通の牛肉とは違って、まるでミルクのような香りがする。  
 この香りには驚かされた。やはり新興産業の「掛川牛」などとは比べモノにならない。
 この牛すじを、大きな寸胴(ズンドウ)鍋で下茹でをする。普通の家には、直径37センチ10リッターの寸胴鍋など有ろうはずもないが、何と師父宅にはそれが二つもあるのだから驚きである。
 下茹でだけで3〜4時間かかるが、この時点で既にたまらなく良い匂いが部屋中、建物中に漂っている。隣家のイヌがヨダレを垂らして鳴きはしないかと思えるほど美味しそうな匂いなのだ。その下茹では、無農薬・有機栽培の米から取れた糠(ヌカ)をたっぷりと入れ、ひたすら中火でコトコトと煮る。

 ようやく下茹でが終わると、その「牛すじ」をザルに上げて丁寧にヌカや余分な脂、よごれなどを水洗いで取り除き、食べやすい大きさに整えて切る。
 予め用意しておいた大根とコンニャクをその「牛すじ」と一緒に炒め、出汁(だし)を入れてコトコトと、さらに3〜4時間ほど中火で煮る。その間、アクを取りながらひたすら鍋の中身と対話する。そして出汁が少なくなってきたら、三温糖と醤油と清酒を入れ、味と色を整えながら、さらにコトコトと、汁が少なくなるまで煮る。最後に味見をして、仕上げに味醂を入れて照りを出し、味醂のアルコールが飛べば出来上がり。

 師父お手製の「煮込み」は、今年の忘年会の目玉であり、門人たちにも予告してあったので、皆がとても楽しみにしていた。当日には見事に煮込まれた「大根とコンニャク入り神戸ビーフの牛すじ」が門人たちの前に出され、皆はもちろん大喜びで、寸胴鍋の中身があっという間にカラになったのは言うまでもない。


 お馴染みのヒデコ・シェフが作る料理も、三日前から準備が始まった。食材などの買い物や取り寄せのことを考えると、一週間から十日ぐらい前から準備が始まっている。
 それに、誰もが食器が足りないことに気がついた。三十数人分の食器など、普通の家に揃っているワケがない。師父宅には年始の挨拶や師父や玄花后嗣の誕生パーティなどで大勢が集まることがあるが、それでもせいぜい二十人程度、今後のことも考え、不足分は急いで調達することになった。

 セッティングも大ゴトであった。
 何しろ三十数名の人数である。レストランじゃあるまいし、普通の家ではそれだけの人数を招待できるはずもない。
 しかし、幸いにも師父宅の居間は二十数畳あり、隣に続き部屋の和室も六畳ある。しかしそれだけではまだ足りないので、居間の隣にある二十数畳のオフィスの手前側半分のうち十数畳分を解放することにしていただいた。これで何とかなるカモ・・・・と思う。
 暖かい季節なら、十五畳のテラスを開放すれば気持ちが良いんだろうけどなぁ・・とスタッフの誰かがポツリと言ったが、あいにく当日は北陸や信州で雪が降ってきた寒い夜となった。ブルル・・階段で良いと言った門人も、テラスは遠慮するに違いない。

 お酒も、素晴らしかった。
 普段から武藝館の「そむりえ」として活躍して、ブログの「ウィークエンド・ディナー」を担当し、お客様や正式弟子のディナーに最適なお酒を選んでくれる「そむりえ・まっつ」さんが、この忘年会でも素晴らしい働きをしてくれた。
 当日の一週間前には、ヒデコ・シェフの料理に合わせたワインを厳選して準備、その数はシャンパン4本、赤白のワインが12本用意された。加えて、スタッフが用意したオーストラリアワインも赤白合わせて6リッターあったが、これは何とか使わずに済んだので、スタッフのお正月用に取っておくことにした。(わーい!)
 また、師父特製の「牛すじの煮込み」には、宮古島の泡盛「久遠(くおん)」が合わせて出された。「久遠」は、W.E.ディナーでもご紹介したことのある、極上の泡盛である。長期熟成のその味わいは、深いけれども澄み切っていて、宮古島の、あの青い海を想わせる。

 子供たちや、運転して帰る人など、お酒を飲めない人のためには、国内外の安全なジュースやジュースだけのカクテルを用意し、他にも安全で味わい深い台湾製のウーロン茶やジャスミン茶も準備しておいた。これらのお茶はもちろん茶葉から出され、ペットボトルのウーロン茶などは間違っても出されない。

 料理やお酒の楽しみと共に、毎年忘年会で恒例となった「ビンゴ・ゲーム」もこの会場で行われた。
 今年の景品は「師父の発勁写真(額装)」と「太極武藝館のリバーシブル・フリース」が各一点ずつ目玉商品となり、他には中国茶用のマグカップ、中国製香炉、ブルースリー・トランプ、安全な陶器製の中国箸、ブルースリーのキーホルダー、幸運を呼び悪運を滅ぼす陰陽二組の八卦鏡、財布に入れるとお金の貯まる御札、身に付けていると良縁が来る御札・・等々、参加者の二人に一人は必ず当たる、多くの景品が用意された。

 このビンゴ・ゲームでは、同時にビンゴになった人がダーツの的に矢を投げ、点数の多い人がそれを取得するという初めての試みが取り入れられ、皆大いに盛り上がった。
 しかし、どのようなカタチになっても、強い人は毎年必ず絶対的にツヨイ。もう何年も、同じ人が決まって景品をゲットしていく光景には、人間の強さというものをつくづく考えさせられる。

 忘年会には、遠方からも門人たちが馳せ参じる。
 今年は群馬、長野、岐阜の各県から何人もの人が泊まり掛けで来てくれた。もちろん翌日は稽古をしてから帰宅するつもりだ。そういえば、岐阜県の北部から週に2〜3回通ってきていたAさんなどは、入門して二ヶ月後に掛川に引っ越してきて、今ではもう研究会クラスに入っているから、何とも驚きである。

 今年は正式弟子の清水龍玄さんの乾杯の音頭で宴が始まったが、突然指名されたにも拘わらず、龍玄さんのお話は、長年師父の許で厳しい稽古をされてきた人に違(たが)わぬ、心に響くスピーチであった。

 そして、毎年恒例となった「師父のお言葉」では、まず門人の皆さんが各々の立場で一年間たゆまず精進したことを喜ばれ、

 『私は正式弟子も一般門人も、指導することに於いては全く区別をしていない、
  今後ますます高度になっていく稽古をしっかり取っていって欲しい』

 と仰った。
 そして、今回の宴のために活躍をしたスタッフの苦労をねぎらわれ、

 『この宴の準備を、文字通りの「御馳走」として幾日も走り回って安全な食材を集め、
  花を飾り、セッティングをし、何時間分も音楽を選んで何枚ものCDを作り、
  門人の皆さんたちの一年間を締めくくるに相応しいものにしてくれたことに
  心から感謝をしています』

 と仰った。
 いつも思うのだが、太極武藝館の門人は、みんな本当の家族のようだ。
 もとは見知らぬ他人ばかりが集まっているはずなのに、昨日入門したような人が、もう今日はその家族の輪の中に入っている。これは師を頂点としたピラミッド型の構成ではなく、師を中心とした球が、まるで宇宙のように、どんどん大きく広がっていくようなものなのだと、つくづく思える。


 さて、無事に忘年会が終わると、年末から新年はスタッフが全員で師父と共に過ごし、次なる行事は正月二日からの「お年始」である。

 また大勢の門人たちが、自分も玄門太極武藝館の門人の一人であることに誇りを持って、新春を機に、気持ちも新たに、師父とその喜びを分かち合いにやって来る。
 師父は訪れた門人たちと気さくに杯を交わされ、心づくしの手料理と美酒に舌鼓を打ちながら、今年はどんな稽古をしようか、指導にもっとこんな工夫は出来ないか、昨年はこんな事が新たに分かった、と、皆で太極拳や武術の話題に花を咲かせる。

 太極武藝館には、相変わらず遠くから通ってくる人が後を絶たない。今年はアメリカから遥々入門を希望して来られた人まで居られた。遠方から通う人がその初志を貫くのは大変なことだが、やり抜く人は何があってもやり抜くものである。現に、信州から6時間かけて通い続けている門人は、ついに正式弟子にまでなった。

 来年も、きっと、たくさんの人たちが武藝館の門を叩き、また新しい家族や、心を分かち合える友人がたくさん増えるのだろうなと思う。今年も、その喜びを噛み締めながら年末を迎えられたことを心から嬉しく思う。


                                  (了)

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2009年05月16日

そむりえ・まっつの Weekend Dinner 「 す げ 蕎 麦 」

                        
  『そのうち、蕎麦も打ちたいですねぇ・・・』


  あの衝撃の「すげ天」デビューからふた月・・・
  武藝館の誇る仕事人、我らが板さんの本領を味わう季節がやってきました。

  時あたかも春・・・
  命、萌え出づる季節です。
 
  山海の旬の素材は、溢れる精気に充ち満ちて、
  食いしん坊達を誘います。

  さて、今宵はどんな趣向で楽しませて貰えるのでしょう?
  待ってましたの「すげ蕎麦」
  開幕です!



            


  今日はカジュアルな装いの板さん、良い笑顔です。

  今回、板さんは前日から厨房入りして、仕込みに勤しんでくれました。
  勝手知ったる厨房ですから、動きも淀みがありません。

  さて、蕎麦打ちの準備も万端整ったようです・・・



 先ずは「水回し」です


            


  篩(ふる)いにかけた粉に、満遍なく水を回していきます。
  手練の早業で、颯颯と手早く仕上げます。

  今回の蕎麦は、蕎麦粉が8割、割り粉が2割の「二八蕎麦」です。
  味良し、香り良し、喉ごし良しの、蕎麦の王道です。

  蕎麦粉は、福井は永平寺の産。
  低温で保管した玄ソバ(殻付きのソバの実)を、
  その甘皮ごと丁寧に石臼で挽いた「挽きぐるみ」の蕎麦粉を使います。

  勿論、事務局では挽きたてのホヤホヤを入手。
  抜かりはありませんね〜。



 次いで「菊練り」です
 

        


  まとめた粉を練り込んでいきます。
  全身を使い、一心不乱に練りに練ります。



 舞台は移って・・・
 

        


  リビングに仮設された「特設蕎麦打ち台」です!

  うーむ、しかし、何とドデカイまな板でしょうか・・・



 蕎麦打ちのハイライト、「延し」です!


        


  サッと台に打ち粉を振り、
  手の平で生地を丸く延して、正円形に整えていきます。


        

        


  麺棒を使い、更に丸く延します。

  仄かに蕎麦の香気が部屋に漂ってきます。
  これは蕎麦粉が新鮮な証し、期待に胸も高鳴ります!


            


  何時の間にやら、円形の生地は菱形に変わり、だんだんと方形に近づいていきます。



 細身の麺棒を併用して、「本延し」に入ります


  板さん:「”並木の藪”の先代も、細身の延し棒を使われたそうですヨ〜」

  師 父:「先代の並木の蕎麦は、本当に美味かったなぁ・・・
       ”室町砂場” と ”まつや” も良い仕事をするねぇ。
       ”まつや” は前日に予約をすれば、小判形の卵焼きを食べられるし、
       室町の砂場は、暇な時なら隠しメニューで ”そばがき” を作ってくれる・・」

  板さん:「昔カタギの人の仕事ですね〜
       今時はとても其処まで・・・という仕事をされますヨ〜」


  ・・うーむ、職人と通人の会話。 
  ちょいと粋な雰囲気に、年輪と経験の差を感じますなぁ・・・


        


  玄人の手の内にある麺棒は、踊るように小気味良い拍子を刻み、
  みるみると生地が延されていきます。

  只、一塊の粘土の如き玉が、
  艶やかな反物のようなファブリックな質感に変わる様は、
  まるで魔法を見るようです。

  「ほーう・・・」 一同も感心しきりの程です。



 最終工程、「たたみ」と「包丁」です


        


  打ち粉を振って、生地をたたみ、
  こま板を当て、調子良く包丁を入れていきます。
  機械のような一定の拍子と、精確な蕎麦切りの身幅です。


            


  ピンと項(うなじ)の伸びた姿勢に、
  武藝館のオリジナル・エプロンがキリリと映えます。


        


  細く、しなやかで、美しい佇まいです。
  生き生きとした蕎麦の持つ精気が顕れているような、瑞々しい風情です。

  お見事!
  時間にすればあっという間、
  流石の早業に、一同、やんやの拍手喝采で板さんの労を労います。

  さてさて、名人芸に眼福を得た後は、速やかにその精魂を賞味し、
  口福を存分に満喫するのみです!



 今宵の蕎麦前は、


            


  栃木は鬼怒川の伏流水を仕込み水に、
  南部杜氏の手練が仕込む銘酒、「四季桜 純米大吟醸 花宝」です。

  春爛漫の宴に相応しく、桜花の如く清楚で華やかな吟香です。
  キレの良い辛口に、食慾は弥増すばかりです。

  この日の生花は、
  青竹を擬した青磁の花瓶に、芍薬の一輪挿しです。  
  蕾の風情も楚々とした趣があって佳いものです。



 本日の先付は、


        


  「若竹煮」と「奈良漬」です。

  筍、蕨、蕗と、旬の山菜を炊き合わせた煮物は、
  丁寧にアク抜きが施され、しっとりと味を含んでいます。

  小気味の良い歯応えに、清清しい雅味があり、
  春らしい、伸びようとする力そのものを食すようです。

  師父:「この美味しい春のぬめりが嬉しいな・・・」

  奈良漬は「守口漬け」。
  酒粕の旨みが濃厚で、酸味も鮮やか、酒の肴に実に宜しい逸品です。



 食中の御酒には、


            


  米どころ岡山の地酒「喜平 本醸造」です。

  万葉集にも、

   「古人の 飲へしめたる吉備の酒 病まずすべなし 貫簀(ぬきす)たばらむ」

  とあり、古の昔から、由緒ある酒造りの伝統を継ぐ地の佳品です。

  その味わいは、米の味が濃く、よく料理に寄り添い、その長所を引き立ててくれます。
  やはり料理と共に味わうのであれば、吟醸酒よりも本醸造酒、純米酒が安心でしょう。



 蕎麦屋の肴と言えば、


        


  なんと言っても玉子焼きでしょう。
  今宵は一寸豪華に「鰻(う)巻き玉子」です。

  木屋製の専用銅鍋で焼き上げた玉子焼きは、
  ふうわりと柔らかく、かつ弾力に富んでいて実に美味。

  素材の良さと、鍋の良さ、そして作り手の腕の良さが、
  はっきりと分かる一品です。

  一同:「な、何故に其処で返せるのぉ〜!」        
 
  くるりくるりと返しつつ、重ねに重ねて焼き上げる手際は、
  一朝一夕には成し得ない功夫の賜物でしょう。



 続く肴は、


        


  「目鯛の西京焼」です。

  浸け加減を心配していた板さんですが、前日から味見をしていた師父に、

  「・・上出来ですよ。漬け加減も丁度良くて、申し分ない」

  と言われて、ホッと一安心です。

  丁度、一日と半分、味噌床に漬け込み、
  味は中心まで沁みていながら、しっとりと瑞々しく、鮮やかな風味を保って、
  春の宵に相応しい玲瓏と澄み切った味です。

  本来なら、語呂のよろしい鰆(さわら)であれば、なお良しではありましたが、
  ちょうど前日の夜漁で好天に恵まれず、今回は仕入れを断念です。
  味では負けていませんから、好しという所でしょう。



 これまた蕎麦屋の定番・・・


        


  「海鮮掻揚げ」と「楤芽(たらの芽)の天麩羅」です。
  天つゆには蕎麦の辛汁を少々加えて整えてあり、大根おろしを添えて頂きます。

  帆立、海老、烏賊と、旨みの三重奏。
  衣はサクリ、身はホロリ、旨みはジュワッと溢れます。

  天麩羅の中でも、掻揚げは最も難しいもののひとつだとか・・・
  鍋を傾け、手前を浅く、奥の油を深く設え、       
  手前からタネを泳がせて、形を整えます。


            


  天麩羅になると、板さんの眼光も鋭さを増します。

  板さん:「イヤ〜、天麩羅というものは難しいものですネ〜」

  今回の仕上がりには、イマイチ納得がいかない様子・・・


  師 父:「ふーむ・・油かな? 次回は油を工夫してみたらどうだろう・・?」

  板さん:「胡麻油を混ぜるのも良いですが、最近は国産が手に入りませんから・・」

  師 父:「ウーン、近ごろは太白さえも中国製だしね・・・
       それじゃ次回は、国産の玉締めの油を手に入れましょうか」


  ・・いや、コレで十分に美味しいと思うのですが・・・(汗)


            


  楤芽(たらの芽)の天麩羅

  これぞ春の味覚!
  口一杯に広がる鮮やかな芳香と、気持ちの良い苦味、
  当に春の息吹を味わうが如しです。

  今回の楤芽は、古参門人のK先輩がご自宅の裏山から採取したもので、
  採れ採れの新鮮な山の幸です。

  今回の「すげ蕎麦」は、楤芽の季節に合わせて日取りを決めたようなもの、
  待ちに待った味というものは、一際に美味と覚えます。



 蕎麦と共に頂く上酒は、


            


  日本最古の酒蔵「酒殿」を擁する春日大社の神職から出でたる、
  由緒ある奈良の銘酒、「春鹿 純米大吟醸 華厳」です。

  スパーッと切れる辛口の身上を保ちながら、深甚とした香気が際立ちます。

  口中に含むと、爽やかに駆け抜ける春風のように、綺羅と香りは広がり、
  後口の潔い事、深山に湧く水の如く清澄です。
  当に、華の如くであり、また巌の如しでもあります。



 さぁ、いよいよ本日のメインです。


            


  蕎麦切りの最後の仕上げ。「ゆで」「洗い」「盛り出し」です。


            


  なんと、「洗い」は師父自らが買って出られて、盛り付けて頂きました!

  師 父:「ハッハッハ・・どうも厨房を見ると血が騒いでイカンな〜・・・」



 「手打ち蕎麦」です


        


  薬味には、山葵と葱と胡麻をお好みで添えて頂きます。

  師 父:「ウマい!」

  ほぁ様:「こんなに美味しい蕎麦は始めてです!」

  Mさん:「いやぁ、これは、実にウマイですね〜」

  (おぉ、今日はMさん運が良い! あれ・・・S先輩は何処に・・?)


  香り鮮やかで、歯応え良く、蕎麦の味わいが濃く、喉越しは滑らか。
  これぞ挽きぐるみの蕎麦の醍醐味です!

  蕎麦つゆも素材を厳選し、手間暇かけて仕上げた逸品です。
  そのまま啜って、酒の友としても良いものです。

  山葵も鮫皮で卸したてたばかりは、
  淡い翠が美しく、ねっとりと肌理が細かく、風味鮮やかです。


  師 父:「あの、刻み海苔を掛けたザルソバというものは、どうにも頂けないね・・」

  板さん:「イヤ、まったく、蕎麦の香りを殺してしまいますね」

  師 父:「蕎麦に海苔が絡まって食べ難いのも、理に適っていない所だよ・・」

  粋を尊ぶなら、良い蕎麦には、良い山葵だけで十分。
  ただ、その極みを味わえる事は、ひどく贅沢なのかもしれませんが・・・



 締めには、


        


        


  師父のリクエストで、即興で拵えた「蕎麦掻き」と、
  締めのお約束である「蕎麦湯」です。

  蕎麦掻きは、素朴で沁み沁みとした味わいで、
  ほっ、と一息付ける優しさが嬉しいものです。

  しかし、此処は蕎麦屋でもないのに、
  何故に、当たり前のように蕎麦湯が「湯桶」に納まって出てくるのか・・?
  家庭の食卓に現れると、異彩な風貌を醸して、妙に楽しいものです。



 食後のお茶とお菓子は、


        


  京都の老舗、河道屋の「蕎麦ほうる」と、
  すっかり武藝館御用達となった感のある「天竜煎茶」です。

  「蕎麦ほうる」は、カリッと歯に響く歯応えで、
  口に含むと、香ばしい蕎麦の香りがふわりと棚引き、
  一瞬の後には、淡雪のように溶けて消えます。

  煎茶道の心得のあるシェフのお煎茶は、
  濃く、甘く、舌に沁み込む甘露でしょうか。

  水よりも粘度のある雫を口中に転がせば、
  ふと、漱石の「草枕」の一文が思い起こされます。


  ・・茶碗を下へ置かないで、そのまま口へつけた。
  濃く甘く、湯加減に出た、重い露を、
  舌の先へひとしずくずつ落として味って見るのは閑人適意の韻事である。
  普通の人は茶を飲むものと心得ているが、あれは間違だ。
  舌頭へぽたりと載せて、清いものが四方へ散れば咽喉へ下るべき液は殆どない。
  ただ馥郁たる匂が食道から胃のなかへ沁み渡るのみである。
  歯を用いるは卑しい。水はあまりに軽い。
  玉露に至っては濃やかなる事、淡水の境を脱して顎を疲らすほどの硬さを知らず。
  結構な飲料である。
  眠られぬと訴うるものあらば、眠らぬも、茶を用いよと勧めたい・・・



  一煎目の苦味と旨味・・・二煎目の甘味と渋味・・・
  三煎目は如何に・・と思いきや、同じ茶碗に白湯が供せられます。
  しかし、その只の白湯の、何と甘いことでしょうか。
  これを甘露と言わずして、他に何と形容すればよいのか・・・
  煎茶とは、当に結構な飲料と覚えます。


  師 父:「蕎麦は農耕の限界地で作付け出来るから、
       かつては救荒作物として重宝されたのだよ・・・」

  なんでもヒマラヤの高地でも蕎麦は作られており、
  最後の秘境ブータンなどでは、日本と同じ蕎麦切りのスタイルで
  蕎麦を食すのだとか・・・


  師 父:「熱した油を掛け回して、唐辛子をまぶして食べるのだけどね・・・
       私もやってみたけど、これがなかなか美味い・・(笑)」

  面白い事に、日本の蕎麦は白い花ですが、ヒマラヤの蕎麦の花は紅色だそうです。

  Mさん:「紫陽花みたいで面白いですね〜」

  ・・そう、紫陽花の花も、土と水に応じて色を変えるのでした。


  それぞれの風土に合わせて、花の色合いも変われば、蕎麦の味も異なる事でしょう。
  やはり日本人には、日本蕎麦こそが身体に合うものと思います。

  正しく地産の素材を吟味し、季節毎の旬を味わい楽しんでこそ、
  心身を健やかに寛がせ、花開の本質に迫ることが出来るというものです。

  「身土不二」とは、元々は仏教の思想ではありますが、
  それも、妥協無く追及し、実感として身に付けてこそ意味があるものです。

  こうして、春には春の、命芽吹く力を取り込み、季節、風土と一体となる感覚を
  得てみると、そこに生き物としての根源的な喜びがあり、その感覚の中にこそ、
  より高みを目指す文化の本居(もとい)が在るのだと感じられるのです。

  だからこそ、武藝館の「食」には妥協が無いのでしょう。
  「太極」と「一味」は、同義なのですから。

s_mattsu at 20:59コメント(10) この記事をクリップ!

2009年03月24日

そむりえ・まっつの W'kend Dinner「トンナータって、ドンナーダ?!」

     
うーむ、ヤバイ・・・(汗)
いったい、どんなワインが合うのだろーか・・・?

この日のディナーはシェフお得意のイタリアン。
今夜は「新作」に挑むとのこと・・・そも、どんな料理なのであろうか?

聞けば、その名も「豚肉のトンナータ」
・・はて、ブタのトンとはこれ如何に? トンと見当もつきませぬ。

その料理には、どんなワインをセレクトすればよいのやら・・・
むむぅ・・・ついに、そむりえ危うし!・・です。



本日の一本目のワインは、


         


ボルドーの白 、「シャトー・グラヴィル・ラコスト 2007」です。

爽やかな香気、瑞々しい果実味、春一番のように鮮やかな息吹です。



アンティパストは、


     


「サーモンのマリネ アボガト添え」と「季節の野菜サラダ」です。

双方ともに肌理(きめ)の細かい食感で互いを引き立てる相似の妙・・・
十数時間の稽古から上がってきた腹ペコの胃袋には、優しい、柔らかな味わいです。

サラダはバリスタ新作の「クリームチーズ・ヨーグルトソース」でいただきます。
少し舌を休めるにはぴったりの、ほど好い酸味とコクです。



続きましては、


     


すっかり武藝館の定番料理となった、「ライスコロッケ」です。

揚げたて熱々の中身はピラフとチーズ。
温かく香り高いトマトソースを添えて頂きます。
このトマトソースがまた、絶妙な味わいで、ちょっと其処いらには無い味です。
中のピラフも生米から仕込まれていて、とても手間隙のかけられた一皿です。

サクリ(衣)、ジワ〜ッ(米)、トロ〜リ(チーズ)、三つ巴の食感に幸せを噛み締めます。



パスタとスープは、


     



     


「海老とピーマンのフリッジ」と、「オートミール入り野菜スープ」です。

うっすらとトマトクリームのソースを纏ったパスタの甘み、新鮮な海老の甘み、
そして、じっくり火の入ったピーマンの甘みと、甘みの三重奏です。
シンプルながらも、素材の味わいが良く引き出された、シェフの十八番です。

スープはブロード(イタリアンのブイヨン)で、野菜を柔らかく煮て、共に頂きます。
舌触りの良いオートミールは、きちんとオーツ麦の香りのするアイルランド産。
よく煮込まれた野菜の甘み、滋味が身体に沁み込む、ホッとする味です。
厳しい稽古の後には、やっぱりこういうスープが嬉しいですね。



メインディッシュに合わせるワインは、


         


「ジョエル・ゴット・ジンファンデル・カリフォルニア 2006」

さて、未知なるメインディッシュに合わせてみますのは、カリフォルニアのワインです。
煮詰めたベリー系の彩やかな味わいが特徴の、チャーミングなワインです。
悩んだ末に、この選択にしてみました。



さて、本日のメインは、


     


「豚肉のトンナータ 林檎とセロリを添えて」です。

話題は、いったい『トンナータ』とは何ぞや?・・・で盛り上がります。


   師父:「トンナータって、どんなーだ・・?」

    皆:「・・・・あはははは(汗)」

  ほぁ様:「トンナータ・・? 豚肉だから、トンナノダ〜・・では?」

    皆:「いやいや、イタリアンですし、トンでもないと・・・(汗)」

   師父:「イタリア? トルコじゃないの? トンでイスタンブ〜ゥル・・って」

    皆:「・・・・あはははは(汗)」

 バリスタ:「いったい、どんなーたが考えたんでしょうかねぇー?」

    皆:「・・・・あはははは(汗)」

  シェフ:「トンノはマグロの意味で、北イタリアのツナソースの事なのですよ〜 ♪」

 そむりえ:「え"・・・ ま、マグロ?・・・ マジっすか・・・!! 
       ・・こ、このワインで良いのかなぁ・・・・(汗)」

   師父:「はは・・・トンでもハップン・・・ってことかね〜」

  シェフ:「この豚肉は、ブイヨンでハップン(8分)以上煮込んであります ♪ 」

  ほぁ様:「うーん、これがホントの ”にぶた祭” ですね〜!」

    皆:「いやいや、ネブタは青森ですし、トンと関係が無いと・・(汗)」


 ・・・などなど


さて、件(くだん)のトンナータですが、 ブイヨンでしっとり煮込んだ淡白な豚肉を、
味の濃いツナソースと、甘い林檎のソテーを合わせて頂きます。
塩気と甘みが相まっての、意外な美味!!
思ったよりもアッサリとして、今回のワインでは相性にやや難があるようでした。

  師父:「ふーむ・・・こりゃあ、なかなかイケるなぁ、ウチの定番になりますね。
      何処かで食べたような・・・記憶の片隅にある、懐かしい味だねー
      これ、イタリア料理ですか? フランスにも、こういうの、あるよね。
      ・・・もしかして、白ワインでも良かったのかな?」

師父の仰るとおり、確かに白ワインのほうが、より互いを引き立てるイメージです。
メインには赤だと決めてかかっていましたが、もっと自由で良いのでした。



今宵のデザートは、


     


「手作りのババロワ カスタードソース 苺添え」と、
珈琲は、「エチオピア・シダモ」です。

ぷるぷると官能的な食感に、濃厚ながらも後を引く甘さのババロア。
上品な甘さのソースが苺の酸味と良く合っています。
シバの女王を想わせる、檸檬の香たなびくエチオピア産のコーヒーも好相性で、
楽しい晩餐を満足して締めくくるのに相応しい味わいです。

今宵、また新たな名物料理がひとつ、武藝館のメニューに刻まれたようでした。

s_mattsu at 19:04コメント(11) この記事をクリップ!
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