*第181回 〜 第190回

2016年10月01日

連載小説「龍の道」 第185回




第185回  P L O T (5)



「Excuse me!──────── ヘイ、ヴィルヌーヴ!!」

 ロビーで父親に電話をかけ終わって、病院の玄関を出ようとしていたヘレンに、大急ぎで走ってきたアルバが声を掛けた。

「ああ、よかった・・間に合ったわ!」

「あなたは、Mariano(マリアーノ)だっだわね?、ヒロタカとバディを組んでいた・・」

「はい、アルバ・マリアーノです。ヴィルヌーヴさんのことは、よくヒロタカから話を聞いて、食堂ですれ違ったこともあるので、顔はよく知っています」

「それで、私に何かご用かしら?」

「ヒロタカが、このメモをヴィルヌーヴさんに渡してほしい、と────」

「 ”ヘレン” でいいわよ、私も気軽にアルバと呼ばせてもらっていい?」

「Of course、もちろんです!」

「Let's see,(どれどれ)────ヒロタカがメモを渡すなんて、珍しいわね」

「でも、何やら深刻そうな顔をしていましたが」

「こ、これは・・!?」

 メモを見たヘレンの顔が、見る見る青ざめた。

「どうしました?、何て書いてあったんですか?」

「ヒロタカが、危ない─────!!」

「えっ・・危ないって、なにが・・?」

「アルバ、いまヒロタカはどこに居るの?」

「看護婦と一緒に、検査に行きましたが・・」

「さっきの、あの看護婦は、たぶんニセモノよ!」

「・・に、ニセモノですって!?」

「そう、メモには ”ナースのジョディ・ミラーが本物か確認せよ”、と書いてある。ヒロタカが疑いを持ったと言うことは、本人かどうか疑わしいということ。そして、疑わしいとしたら、誰かが何らかの目的で看護婦に化けて、ヒロタカに近付いてきたということよ!」

「そ、そんなことが・・この軍の病院で?!」

「詳しく教えて、あなたと会ってからヒロタカはどこへ行ったの?!」

「えーっと、まずヒロタカが3階の休憩室の前の廊下を、エレベーターの方へ看護婦と歩いていたのを見つけて・・」

「そして─────?」

「私が呼び止めて近づいて行って少し話したら、このメモをヘレンに渡してくれって・・
そうそう、キャンベル曹長を見かけた、って言ったら、すごく驚いて、それから急いでそのメモを書いたんだったわ」

「キャンベル曹長ですって!?・・誰か他の人と一緒じゃなかった?」

「同じことをヒロタカにも訊かれたわ、でも、私が見たのは曹長だけよ」

「それで、ヒロタカはどの検査室へ行ったの?」

「私はそのままここへ走ってきたから分からないわ。でも、看護婦がしきりに時計を見て、検査に行かなくてはと、何だか急(せ)かして・・」

「アルバ、3階から順に、検査室を確認して!、何かあったら大声で叫ぶのよ」

「3階からね、分かったわ。ヘレンはどうするの?」

「私はセキュリティに報告してから、一緒に探し始める」

「オーケー、それじゃ!!」

 アルバは階段を走って上っていく。

「セキュリティ─────!!」

 ヘレンは急いで玄関脇にある警備室のドアを叩いた。
 
「イエス、どうかしましたか?」

 屈強な身体をした、警備兵が中から出てくる。

「3階に入院中のカトーがどこに居るか分からないので、探して欲しいの。付き添っている看護婦のジョディ・ミラー当人が、本当に出勤しているかどうかも確認して!」

「失礼ですが、貴女はミスター・カトーと、どのような関係ですか?」

「私は ROTCの学生で、Helen Villeneuve(ヘレン・ヴィルヌーヴ)、父はノーフォーク(世界最大の米海軍基地)に勤務する Commander Villeneuve(ヴィルヌーヴ中佐)。
 父の命令で、入院している Cadet Kato(カデット・カトー:加藤士官候補生)の身辺の安全を確認しに来ているのよ」

 I.D.を示して、そう言う。

「失礼しました、すぐに確認しますから、お待ちください!」

 警備兵は部屋に入るとすぐに勤務表を見て、

「ミラーはまだ休暇中です。勤務は今度の月曜日からになっています」

 室内のスタッフと顔を見合わせながら、そう言う。

「そもそも、今日は検査がある日なの?」

「今日は土曜日ですから、急患でもない限り、普通は検査はありません」

 中の椅子に座っていた警備兵が答えた。

「やっぱり・・ミラーの名を騙(かた)るニセの看護婦に連れて行かれたのよ。ヒロタカが危ないわ!、どこに居るか、すぐに探さないと!!」

「分かりました、すぐに全員で建物内の捜索をします」

「相手は武器を持っているかもしれないわ、そのつもりで・・」

「言われるまでもありません、ご心配なく」

 対応の素早さは、日頃の訓練がものを言うのだろう。そこに居合わせた3人の警備兵たちは即座に防弾着を装着し、武器庫から武器を取り出して準備を始め、セキュリティ室で司令する者は、他の場所に居る隊員と詳細に無線で連絡を取っている。この病院の警備のための制服に身を窶(やつ)しているが、本来の軍の戦闘服を着せたら、いつでも戦場に出られる兵士たちであるに違いない。
 軍が管轄する病院で、ニセ者の看護婦が入院中の兵士に関わったということ自体が大問題であり、防弾着や武器は当然の備えであった。


「ヒロタカ────────!!」

 警備兵たちの出動を待たずに、すでにヘレンが宏隆の名を呼びながら廊下を走っている。先ずは1階の検査室に飛び込んだが、そこは真っ暗で、誰かが居たような気配もない。

「ヒロタカ・・いったい、何処へ・・?!」

 廊下に並んだドアを次々と、倉庫であろうと何だろうと、片っ端から開けて入り、くまなく宏隆を探す。

「居ない、ここにも居ないわ・・2階で降りたのかしら?」

「ヘレン ────────!!」

 ちょうど、アルバが上から降りてきた。

「アルバ、上の階はどう?」

「いいえ、3階はほとんど病室で中央にナースセンターがひとつ。2階は検査室がひとつだけで、真っ暗で誰も居ないわ。大きな検査室が集中しているのは1階よ」

「なるほどね・・そうだ、念のために────────」

 ヘレンが手帳を取り出して素早くメモを書き、ページを破いてアルバに渡した。

「アルバ、私はこれで1階を見て巡(まわ)るから、あなたはすぐこの番号に電話して!、相手が出たら ”CD” に頼まれたと言って、この伝言を読んで聞かせるの、いいわねっ!!」

「OK、これを読めばいいのね・・えーっと、”5523 Take Etanol Duracell”・・・
 5523、エタノール・デュラセルを取れ?─────何なのこれ?・・デュラセルって、乾電池のメーカーですよね、何かの間違いじゃ?」

「いいから急いで!、”CD” からの伝言と言って、返事をもらうのよ!!」

 キョトンとしているアルバを置いて、ヘレンはもう走っている。

「CD?・・Cash Dispenser?(現金自動支払機=ATM)・・なぜ?」

「アルバ、早く行くのよっ─────!!」

「あ、はい・・!!」

 この物語の時代には、まだCD(コンパクト・ディスク)は無い。プロトタイプをフィリップスが作って、ソニーが開発し始めたのが'79年、実際の生産は'82年のことだから、CDと聞いてアルバが思いつくのはATMくらいのものなのである。

 アルバに託したメモの内容は、もちろん暗号が使われている。
 5523は宏隆のコードネーム「Kurama 5523」のことであり、そのあとに続く文字の、
Take Etanol Duracell の Take(taken) は「(背後に意図のある)持ち去る・連れて行く・だまされる」という意味があり、誘拐や不意に襲われた可能性を示唆している。
 また、Etanol Duracell(エタノール・デュラセル)というのは、言葉自体には何の意味もないが、フランス語の Etat d'urgence(イッタ・ジュオジョンス=非常事態) をもじって英語に置き換えた暗号なのである。
 エタノールはエチルアルコールの事であり、デュラセルはアメリカの有名な電池の名前なので、普通の人がそれらの言葉を目にしても、耳にしても、何のことか分からない。
 そして、記憶のよい読者ならお分かりのように、CDとはヘレンのコードネームである、
”Camille Dallier(カミーユ・ダリエ)” の略である。(第134回・ALASKA #3 参照)

 これらは、単にこじつけで作られた暗号ではない。
 例えば世界共通の遭難信号として使われている「Mayday(メーデー)」は、もとはフランス語の「Venez M'aider(ヴネ・メデー=私を助けに来て=Come and help me)」という言葉に由来している。May Day は国際的な労働の祭典として知られるが、 スペルは同じでも、それとは何の関係もない。
 また、余り知られていないが、ジュネーヴ条約に保護された紛争地における傷病者の航空機輸送には、PAN-PAN-MEDICO(パン・パン・メディコ)などという言葉が使われる。
 このPANも、英語では「平らな鍋」とか「撮影や音響での上下左右への移動」などといった意味だが、通信用語のそれは、まったく無関係なフランス語の panne(パヌ=故障)に由来していて、即座に救助を必要としなくとも、機械が故障したり、病人が発生した状況を知らせるのに用いられている。


「あ、ミス・ヴィルヌーヴ!!」

 廊下が交差するところで、ちょうどさっきの警備兵と出合った。

「そっちはどう?、何か変わったことは?」

「いいえ、貴女の方は?」

「なにも・・・不思議なくらい、何の形跡もないわ」

「本当に、ニセの看護婦がミスター・カトーに何かしようとしたんでしょうか?」

「それはほぼ間違いないわ。きっとどこかの部屋に潜んで居るはずよ。それとも、もう外に出てしまったか・・」

「いえ、貴女たちが気付いたのが早ければ、まだ外には出ていないはずです。あの時点からは、この敷地の外に出た者は居ません」

「OK、私はこっちを探してみるわ」

「それでは、自分は向こうを探します。そうだ、この無線を持って行って下さい」

「あなたは困らないの?」

「貴女のために持って来たんです。何かあったら、こいつですぐに連絡をください」

「分かったわ、それじゃ──────」

 警備兵と二手に別れて、ヘレンは西側の廊下をどんどん進んで行く。

「えーっと、この先は・・?」

 NWTC(米陸軍北方軍事行動訓練センター)に付属する、この軍病院は3階建てで、宏隆が入院している3階には、病室とナースセンターと当直室しかない。
 2階には救命救急センター、検体検査(血液、髄液、尿、組織などの検査)、血液検査、健康診断室、薬剤室、病理解剖室、霊安室などがある。
 そして1階は、玄関ホール、待合ロビー、セキュリティセンター、エネルギーセンター、放射線 X線室、CT, MRI 撮影室、内視鏡室、生理検査室、化学療法室、各種材料室、各種倉庫などがある。

 ヘレンがいま歩いている1階の西の廊下の先には、いかにも材料室や倉庫といった部屋しかないし、それらのドアや窓にも、灯りの点いている所は見当たらない。そして、土曜日の今日は人の気配もほとんど無く、特にこの1階は廊下でも最低限の照明しかされていないのである。


 ─────だがそのとき、そのすぐ隣の、灯りも点いていない部屋から、ガシャリと、何かが床に落ちるような物音がした。

「ん・・・?」

 ヘレンは何かがそこで起こっていることを直感し、即座にポケットからタクティカル・ナイフを取り出して片手で開き、ドアのすぐ横の壁に体を着けて、耳で中の様子を伺った。

「うう・・うぅむ・・ううむ・・むむ・・・」

「ヒロタカ!!」

 かすかに聞こえてくる呻(うな)り声に、警備兵に連絡を取るのも忘れて、咄嗟に扉を開けて中に飛び込んで行ったが─────

「ううう・・く・・くる・・るな・・・・」

 ベッドから落ちた格好の宏隆が、体を起こしもせず、ろくに声も出さずに呻っている。

「ヒロタカ?!・・どうしたの、何があったの?・・・何か言って!!」

 駆け寄ってしゃがみ込み、揺さぶって宏隆の正気を取り戻そうとするが、

「あぅ・・あぶ・・ぶ・・・」

「え?・・何と言ったの、ヒロタカ!・・しっかりして!!」

「静かにするんだ、お嬢さん──────────」

「ああっ・・!!」

 いつの間にか、後ろに忍び寄った男が、あっという間にヘレンのナイフを取り上げ、慣れた手つきで、そのまま首の辺りに細い小さな注射器の針をスッと打った。

 すぐに力が抜け始め、やがて意識を失ったヘレンを抱き上げると、隣の部屋に行き、そこにあった大きな布張りのクリーニング・カート(掃除器具やゴミ箱を積んだ清掃職員用のカート)の中に降ろし、上から毛布を掛け、さらにその上からバケツやタオル、デッキブラシなどの清掃用具を投げ込み、ヘレンのナイフも折り畳んでにそこに放り込んだ。

「クラマ、もうお前には用がない。取りあえず今日は、な・・・」

 男が戻ってきてそう言うが、宏隆は言い返す声もロクに出ないし、体も動かない。

「くっ・・く・・・ううう・・・」

「さて、行くか。そっちの準備はいいか?」

「オーケー!」

 ジョディと名乗った、さっきの看護婦が宏隆をチラリと横目で見ながら答えたが、すでに看護婦の制服を脱いで着替えている。

「よし、廊下に出て、セキュリティどもを上手くはぐらかすんだ。オレはクルマを用意して待っているから」

「任せて────────」

 男はドアを少し開けて、そっと周囲を見回して誰も居ないのを確認すると、白衣のまま、足音も立てずに、廊下の突き当たりにある重そうな扉を開けて、コンクリートで出来た暗い運搬通路に入って行った。



「Kurka(クルカ)、入院患者や看護婦がこの辺りに来なかったか?」

 一階の廊下の突き当たり付近で、清掃用具の入った大きな水色のカートの傍らで、廊下にモップを掛けていた女性に、向こうから足早にやって来た警備兵が声を掛けた。

「いえ、誰も見ませんでしたが──────」

 モップを置いてちょっと背中を伸ばし、清掃スタッフの青い制服の袖に付いた埃を払いながら、クルカと呼ばれた女が、ちょっとポカンとした顔をして答えた。
 
「君はさっきからずっとこの廊下を掃除していたのか?」

「そうですよ、廊下や部屋の中をモップで拭いて、ゴミを集めて・・」

「そうか、ここにも居ないか・・」

「この辺りは倉庫にしている部屋ばかりですから、入院患者は来ませんよ」

「それじゃ、何か変わったことがあったら、すぐに無線でセキュリティ室に知らせてくれ」

 清掃作業員も互いの連絡のために小型無線器を持っている。チャンネルを変えればセキュリティやナースセンターなどにも連絡が取れるのである。

「オーケー、さっきから何やら騒がしいけれど、何かあったんですか?」

「実は、入院している患者がひとり、行方不明になったんだ」

「まあ、それは大変、掃除をしながら私も気をつけてみます」

「・・そう言えば、クルカは看護婦のジョディ・ミラーと親しかったな」

「そうですけど、ジョディがなにか?」

「彼女は、まだ休暇中のようだが───────?」

「そうですね、たしか月曜日には出勤すると言っていました」

「ジョディと名乗ったり、ジョディの名札を付けている看護婦を見かけたら、すぐに私たちに知らせてくれないか」

「お安いご用ですが、ジョディのニセ者が居る、と言うことですか?」

「まだ、そうと決まったワケじゃないが、どうもそうらしい・・」

「分かりました。でも、この病院でそんなことは珍しいですね」

「まったくだ、クルカも十分気をつけてくれよ」

「はい。ここの掃除を終えたら、今日のゴミを出して、私も手伝います」

「ああ、そうしてくれ─────ずいぶん床が綺麗になったね、ご苦労さま!」

 そう愛想を言うと、清掃員はニコリと笑みを返して、再び廊下を拭き始めた。

「こちらはジョーンズだ、西側の廊下は異常無し、これから私も東に向かう!」

「本部、了解した─────」

 警備兵がセキュリティ室と無線で連絡を取り、急いで建物の反対側に走って行く。



                    ( Stay tuned, to the next episode !! )





  *次回、連載小説「龍の道」 第186回の掲載は、10月15日(土)の予定です

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2016年09月15日

連載小説「龍の道」 第184回




第184回  P L O T (4)



「モサドか、厄介な相手だな─────」

 ぼそりと、宏隆が言った。

「モサド=イスラエル諜報特務庁(ISIS)は創設が1949年、首相府管下にあって諜報要員はすべて士官クラス、情報局には ”PROMIS” と呼ばれる、世界有数の電子データベースを保有しているわ。さすがのCIAも真っ青、というところね」

「工作員は、一般諜報活動、対象者の行動監視、特殊作戦、要人暗殺、プロバガンダと偽旗作戦、友好国との密な連絡、世界中のユダヤ人の保護、などという部門に分かれるそうだ。ケネディ大統領の暗殺では、CIAと連携して多くの部門が同時に動いたわけだな」


 ─────アメリカのテレビ番組やハリウッド映画で散々洗脳されてきている日本人は、CIAが世界最強の情報機関だと思い込む傾向があるが、実際はその行動力や個々のエージェントの能力に於いて、モサドほど強力な機関は他に存在しない。

 モサドは世界中の大事件に多く関わってきており、例えばケネディ大統領と同じく、多くの謎に包まれたダイアナ元妃の死亡事故についても、SAS(英陸軍特殊部隊)や、SIS(英国情報局秘密情報部=MI6)は無論、そこにもモサドが深く係わっていたという情報が多く存在する。
 リビアのカダフィー政権や、もとSS(MI5)の情報員などもその情報を提供しているが、事実、死亡した運転手のアンリ・ポールはパリのリッツの警備責任者であると同時にMI6の情報員でもあり、彼の口座には、事故の9ヶ月前から毎月多額のフランが振り込まれている。
フランスでは、モサドが他の国より活動しやすい環境であることは言うまでもない。

 パリで起きた深夜のトンネル事故は目撃者もなく、ダイアナを追い回したパパラッチたちが本当にその職業の人間であったのかも疑わしく、トンネル内でベンツに接触した白いフィアットの主は、後にパリ郊外で首が切断された焼死体で発見されている。
 また、事故当時は15分後に救急隊が現場に到着したにも係わらず、その場で1時間も放置された上、わざわざ6キロ先にある遠い病院まで、時速40kmでノロノロと走る救急車で43分という長い時間をかけて運ばれている。後部座席が前にずれて体が夾まれ、救出に手間取ったというが、筆者の経験でもベンツはそんなに簡単には壊れない。
 また、ただ一人助かったボディガードだけがシートベルトを装着していたという事実は、その筋の人間から見ると理解に苦しむ。シークレットサービスやボディガードは守るべき人にシートベルトを着用させ、自分たちはベルトをしないことが常識だからである。

 パレスチナの状況をその眼で観ることを切望し、地雷除去運動にも深く係わっていたダイアナ妃はチャールズ皇太子と離婚して、ハロッズやリッツのオーナーでもあるエジプト人富豪、モハメド・アルファイドの息子、ドディと交際していた。ドディはアカデミー賞を受賞した「Chariots of Fire(炎のランナー)」を手がけたプロデューサーでもあった。ロンドンのハロッズの地下には今もダイアナとドディの記念碑が設けられている。
 もしダイアナ元妃がドディと結婚してイスラム教に改宗し、さらに子供を設けることになれば、アルファイドの一族は未来の英国王の異父兄弟という事になる。つまり、英国国教会の頂点にある未来の英国王の母親がイスラム教徒であるという事態が起こるわけで、今なお継続中の中東戦争に於ける対立に大きな問題が生じる怖れも出てくる。
 本物の事故か、陰謀かはさておき、英王室がそれを想像して震え上がったことは想像に難くない。そして、もしそれが陰謀であるとすれば、実行部隊は英国内の情報組織ではなく、外国のエージェント(諜報員・代理業者)の方が何かと都合が良く、ユダヤ=イスラエルもまた、このような状況にあっては大人しくしている訳がない。それは今日では素人でも分かる理屈であろう。



「─────そうそう、ケネディと特殊部隊の、知られざる特別な関係を知ってる?」

「いや、知らないな」

「米陸軍のグリーンベレーのことは知ってるでしょ」

「勿論だ。この訓練センターに来た初日に、入所式の講話をしたのは、そのグリーンベレー(U.S. Army Special Forces=米陸軍特殊部隊)の Harry Lewis(ハリー・ルイス)少尉で、そのときもグリーンのベレー帽を着用していたしね」

「そもそも、グリーンベレーは、ケネディが許可したものなのよ」

「え、そうだったのか、初めて聞いたよ。どんな経緯があったの?」

「グリーンベレーの ”グリーン” は、ブリティッシュ・グリーンの緑色を意味しているのよ。ジャガーもロータスも、レースでは必ずその英国のナショナルカラーを使うでしょ」

「そうだね。まあ、ウチの父のジャガー Eタイプは真っ赤だけど・・」

「赤は本来イタリアのカラー、アルファロメオやフェラーリでお馴染みの色よね」

「その英国の色であるグリーンが、どうしてアメリカ特殊部隊の帽子の色になったの?」

「第二次大戦中に、米国のレンジャー部隊がスコットランドの ”コマンド訓練本部” で集中訓練を受けたのよ。アメリカには無い独特の自然環境の中で、渡河技術や小型艇の操作、登山技術、パラシュート降下、サバイバル訓練など、戦場に必要なありとあらゆるテクニックを厳しく仕込まれた、というワケ」

「なるほど、それで・・?」

「そして、そのブリティッシュ・コマンド訓練本部の過酷な訓練を見事にやり抜いた兵士には、名誉として、英国コマンド部隊と同じグリーンのベレー帽が授与されたの」

「なるほど、あれは元は英国のコマンド部隊の帽子だったのか。しかし、よくアメリカ陸軍が外国の特殊部隊のベレー帽の着用を許したね?」

「もちろん決して許さなかったわ。でも、彼らはそれを無視して、まるで勲章か階級章のように、戦場では勝手にそれを被っていた。そして、やがてアメリカ陸軍にも特殊部隊の訓練所が設立され、1961年にケネディ大統領が議会で『冷戦下では秘密戦争が主となり、特殊部隊が必要だ』と発言し、それによってノースカロライナ州フォート・ブラッグ陸軍基地内にある陸軍特殊部隊司令部に、5th SFG(第5特殊部隊グループ)が編成され、ベトナム戦争で特殊作戦に従事したの。この基地には現在、非公式ながらもグリーンベレーやデルタフォースが置かれているわ」

「ふむふむ・・」

「そして、ケネディがフォート・ブラッグの基地を訪れた際、ウィリアム・ヤーボロー大将は特殊部隊の兵士たちに、全くの非公認であったグリーンベレーを被るように命じ、その格好でケネディを出迎えたの。ケネディは特殊部隊の兵士たちに大変感銘を受け、彼らが着用していた英国コマンド部隊の緑色のベレー帽を、『卓越性の象徴・勇気の徽章・自由の為の戦いにおける名声の証し』としてそれを被ることを正式に許可した、というわけ」

「なるほど、いかにもアメリカらしい話だね」

「その話には、まだ後日談があるのよ」

「・・と、言うと?」

「ケネディ大統領が暗殺されたときに、グリーンベレーの兵士たちは皆その死を悼み、ベレー帽に付いている徽章の回りを太い黒い線で囲った。彼らはケネディに信頼され、誇りを与えられ、情熱溢れる若き大統領と共に戦ったことを、その帽子に刻み込んだのよ。そして、それは今でも第1特殊部隊グループの徽章として正式に採用されているわ」

「うーむ、いい話だな。それを聞くとますます、ケネディを暗殺した奴らが憎く思えてきてしまうけれど」

「ほんとうに、ね・・・」

 天井から床までが大きなガラス張りの休憩室からは、限りなく閑かで穏やかな冬のアラスカの景色が広がっている。この世界で起こっている様々な陰謀や戦いが、まるで嘘のように思えてしまうほどの、美しい雪景色であった。


「─────ミスター・カトー、ご気分はいかがですか?」

 いつの間にか、ナースがすぐ後ろにやって来て、そう言った。

 このNWTC(Northern Warfare Training Center:米陸軍北方軍事行動訓練センター)には、小規模ながらこのような軍の病院が併設されている。
 アラスカ大学のROTC(予備役将校訓練課程)の士官候補生たちが訓練を受けるばかりでなく、陸軍はもとより、ネイビーシールズなどの特殊部隊の兵士まで此処に来て訓練の仕上げをするので、訓練中に何か事故でも起これば、広いアラスカで数えるほどしか無い大都市の病院にいちいち運んではいられない。軍事訓練センター自体に、信頼できる軍病院を作っておく方がよほど安心なのだ。
 そして宏隆は、凍った川に落水して奇跡的に生還し、ここにヘリで運ばれて以来、精密検査をしながら入院を続けているのである。


「・・ああ、まったく問題ないよ。これからトレーニングしようと思っていたところだ」

「またそんな強がりを言って・・大事を取らなきゃダメよ!」

 ヘレンがちょっと怖い顔をして、睨んで見せた。

「本当さ、今すぐパラシュートで降下したって良いくらいだよ!」

「ミスター・カトー、これから色々と検査をしますから、私に従(つ)いてきて下さい」

「えぇーっ、また検査?、もう退院しても良いんじゃないの?」

「結果次第では、一週間ほどでドクターから退院のお許しが出るかもしれません」

「たしか、最低でも二週間は安静が必要と、始めに言われたわよね」

「むぅ・・ま、しょうがないか。それで、今日は何の検査をするの?」

「血液を採って、頭部と腹部のCT、それに心臓の検査です」

「また血液を?────────マズくて少ない病院食しか食べてないのに、そんなに血ばかり採ったら、腹が減ったドラキュラみたいになっちゃうよ!」

「真冬のアラスカの、凍った川の水に落ちたんです。血圧が200以上に上がって、低体温症で死ぬところだったんですよ。十分な検査を受けて治療しないと、後遺症が出て訓練どころじゃありません」

「ほらほら、素適なナースもそう言っているでしょ。文句言わないで、ちゃんと検査してもらいなさい!」

「分かったよ、やれやれ─────血を採ったらヤクルトくれる?」

 ヘレンに言われて初めて気付いたが、確かに看護婦はなかなかの美人だ。
 しかし、ここへ来てから初めて見る顔であった。

「コホン・・ではこちらへ。車椅子を用意しましょうか?」

「ははは、そんなに危ない病人じゃないよ」

「確かに、だけどヒロタカは別の意味で ”アブナイ” 病人よね」

「どういう意味だよ、もう・・」

「あはは・・それじゃ私はフェアバンクスに戻るわ。検査結果が出たら連絡をちょうだい」

「オーケー、世界金融史講座からケネディ暗殺事件まで、いろいろ貴重な話をありがとう、勉強になったよ。ヴィルヌーヴ中佐にもよろしく伝えてほしい」

「伝えておくわ、帰る前に下で電話しようと思っていたところよ」

「ありがとう」

「ちょっと疲れたでしょ、検査が終わったらゆっくり休んでね」

「確かに、すごい話ばかり聴いてたんで、すっかり頭が疲れたよ。ははは・・」

「さあ、検査に行かないと───────Have fun!(楽しんでね)」


 ヘレンと別れて、ナースの後ろを従いて歩く。
 流石に宏隆は、まだ少しばかり足がふらつくように見えるが、車椅子を用意しましょうかと気を遣った割には、ナースは早足でさっさと歩いて行く。

「足が速いなぁ・・看護婦さん、キミの名前は?」

「え、私ですか?・・・ミラー・・ジョディ・ミラーです」

 なぜか、胸の名札を見直してから、名前を宏隆に告げる。

「ミラーさんか、初めて見る顔だね」

 胸に付けた名札は、先ほどすでに確認済みだが、あらためてそう言った。

「昨日まで休暇で、シカゴに帰っていましたから」

「ああ、なるほど・・」

「どうぞ、ジョディと呼んでください」

 ニコリと微笑んで言う。

「ジョディ、お世話になるね」

 そのとき、

「ヒロタカ──────!!」

 さっきの休憩室の方から、誰かが呼び止めながら走ってきた。

「・・やあ、アルバじゃないか!」

「ヒロタカ─────よかった、元気そうね!、病室に行ったら居ないから探していたのよ」

「アルバこそ、具合はどう?、どこか痛かったりしないかい?」

「私は大丈夫よ、サウナの後みたいに、ほんの少し冷水に飛び込んだだけだから。無事に検査も終えたし、明日からフェアバンクスの訓練に戻るわ。それより、私を助けるために危うく命を落としそうになったヒロタカがとても心配で・・」

「ああ、あのままじゃ二人とも死んでたからね。それにボク一人の方が動きやすかったし」

「まあっ!、私が足手まといだったって、そう言いたいワケね?!」

「・・そ、そんな意味じゃないよ、ボクはただ・・・」

「あはは、冗談よ、ヒロタカにはとても感謝しているわ。ただお礼が言いたくて」

「ふう、女は怖いなぁ、ほんまに・・」

「ところで、キャンベル曹長には会えた?」

「何だって─────キャンベル曹長が来ているのか?!」

「ええ、さっき下の階でちょっと顔が見えたわ。きっとヒロタカのお見舞いに来たんだろうと思っていたけど、どうしてそんなに驚くの?」

「他には・・誰かほかに、彼と一緒じゃなかったか?」

「ええ、曹長しか見えなかったけれど」

「そうか─────」

「ヒロタカ、何かあったの?」

「いや、何でもない・・・」

「ミスター・カトー、そろそろ検査に行かないと」

 ちょっと時間を気にするように、看護婦が時計を見てそう促した。

「アルバ、ちょうど検査に行くところなんだ・・わざわざ来てくれてありがとう」

「また来るわ、もうしばらく入院でしょうから」

「ありがとう────────」

「そうだ・・アルバ、メモを持っているかい?」

「防水メモはいつも持っているわ。水中で書けるペンもね、ほら、このとおり!」

「ちょっと貸してくれ・・ジョディ、済まないがあと30秒待ってくれ」

 小さなメモ帳に何やら素早く走り書きをして、ページを破くと畳んでアルバに渡し、

「これをヘレンに渡してくれないか。まだ下のロビーの辺りに居るはずだ」 

「オーケー、すぐ渡しておくわ」

 宏隆の表情から、何かを感じ取ったのだろう、ヘレンに間に合うよう、エレベーターを待たずに、急いで階段を駆け下りて行く。


「さてと・・ところでジョディ、どこで検査をするんだい?」

 アルバを見送って、宏隆が看護婦に尋ねた。

「1階で採血してから、地下のCT室へ行きます────すぐ済みますよ」

「えーっと、今日は何曜日だったかな?」

「土曜日です」

「そうか、どうりで、病院に人が少なくて、ひっそりしているワケだ」

「入院していると、よく曜日や日付を忘れてしまいますね」

 1階でエレベーターを降り、人気のない静かな廊下を奧へ奥へと歩く。週末は不要な照明を消しているので、廊下はずいぶん薄暗く感じる。

 やがて看護婦が廊下の右手にある一つのドアを開けて、部屋の電気を付けた。

「・・どうぞ、そこのベッドに横になって下さい」

「オーケー」

 言われるままに、ゴロリと横になって、ゆっくり辺りを見回す。
 壁際には棚やガラス張りの収納ケースが並んでいて、看護婦が使うゴムの手袋やマスク、点滴用の袋や用具が入っている箱やらが所狭しと置かれている。
 小さな流しや湯沸かし用のコンロ、反対側にはバケツも洗えそうな深いシンクも設けてあって、その奥には隣の部屋に行くドアも見える。宏隆が横になった右の壁際のベッドには、目隠しのカーテンも付いている。

 しかし、不思議だな・・と宏隆は思い、
 
「まともな検査室は、土曜日には空いていないのかい?」

 寝転んだまま、ジョディにそう訊ねた。

「え・・・?」

「この部屋は、ナースたちが備品の補充や仮眠に使う部屋だろう?、なぜわざわざこんな所で血液検査をするんだ?」

「あ・・ああ、それは・・・上の検査室に血液検査のセットが無くなってしまって、それでここに来てもらったんです。仰るとおり、不足した物はこの部屋から補充するので、ここの方が早いし、CT室にも近いので─────何か気になりましたか?」

「いや、ボクは通常とは違う状況がすぐ気になる性分(たち)なのでね」

「こんな仕度部屋でごめんなさい、すぐに済みますから」
 
「いや、これまでに色々と詭計に陥ったり、危険な目にも遭っているので、ただ臆病になっているだけなんだが・・」

「ハイ、まず血液を採りますね。少ない量ですから、あっという間です」

「ボクが怖がりだから、安心させてくれてるの?」

 看護婦のジョディは、黙って笑っている。

「さあ、済みましたよ。次に、CTで内臓を撮影するために、点滴で造影剤を注入します」

 そう言って、手早く点滴の袋をスタンドに掛け、注射針を手首の表に挿し込む。
 慣れた手際の良さは、若い看護婦に似合わないほど上手で、鍼を刺すときにもほとんど痛みが無い。

「Barium Sulfate・BaSO4、つまり硫酸バリウムか、たぶん造影剤のコトだろな・・」

 吊り下がったプラスチック・バッグの文字を読んで、少し納得したように言う。

「・・え、なにか仰いました?」

「いや、ただの独り言だ」

「点滴は小さいので15分くらいで終わります、そのままノンビリしていて下さい」

「Copy that.(了解)」

「はは・・兵士はみんなそれね!」

「そう言うキミも兵士だろう?─────肩に PV2(Private E2=1等兵)の階級章が付いているじゃないか」

「一応は兵士だけど、野戦訓練で看護テントに行くくらいで、どうせ戦場に赴くことなんか無いだろうし、多分この病院か、どこかの軍病院を転々とするくらいでしょうね」

「ん?・・なんだか、気分が悪いな・・・ちょっと吐き気がする」

「造影剤のせいでしょう、大丈夫ですよ」

「少し目まいもするし、すごく気怠い・・・薬が合わないんじゃないのか?」

「ああ、それは・・・」

 そのとき、いきなり奥の扉が開き、白衣を着てマスクを着けた男が入って来た。

「誰だ?・・・か、看護師か?!」

 すぐ上体をを起こそうとしたが、いつの間にか体が痺れてきていて、すでに思うように動けない。

「あ、そのままじっとして─────これから検査室に案内します」

 低いしゃがれ声で、その男が言った。

「ジョ・・ジョディが・・行ってくれるんじゃないのか?」

 口が動きにくく、言葉までうまく喋れなくなってきている。

「ご心配なく、”特別な検査室” へ、私がお連れしますから────────Mr. Kurama !」

「・・な、何だと・・なぜ、ぼくのコードネームを?・・・ジョ、ジョディ・・・おまえ、て、点滴に、何を混ぜた・・?!」



                    ( Stay tuned, to the next episode !! )





  *次回、連載小説「龍の道」 第185回の掲載は、10月1日(土)の予定です


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2016年08月15日

連載小説「龍の道」 第183回




第183回  P L O T (3)



「もちろん証拠は山ほどあるわ。実際にそれを公言して憚らない政治家さえ居るのよ」

「どんな人が、何と言っているんだ?」

「例えば、イリノイ州の元共和党議員、ポール・フィンドレーは、Washington Report on Middle East Affairs 誌(中東情勢ワシントン報告書。中東と米国の政策に関するニュースとその分析について年8回発行)で、こんな指摘をしているわ」

『イスラエルは決してケネディ一族に親しみを持たなかった。ケネディの父親ジョセフ・P・ケネディは、イギリス大使時代に度々ナチスドイツを賞賛し、ヒトラーの熱烈な支持者とさえ考えられていた。
 また、ケネディが大統領選を戦っている間、ニューヨークの有力ユダヤ系グループが中東政策への影響力を手にする事と引換えに選挙資金を提供すると密かに申し出たが、ケネディは同意しなかった。さらに大統領になるとイスラエルには部分的な支援しかしなくなった。
 一方、ジョンソンはケネディとは反対にイスラエルへの強い支持を表明していた。つまりイスラエル政府にとっては、ジョンソンが大統領になった方がよほど都合が良いという十分な理由があったのである。
 そしてそれは現実となった。ケネディの死後、アメリカ合衆国は歴史上初めてイスラエルに対して大量の武器の供与を開始した。また、モサドが地球上のどのような場所に於いても暗殺を実行できるだけの人材と資金を持っていることについては、もはや誰も疑いようのない事実である─────』

「それじゃ、パーミンデクス・コネクション(Permindex Connection)というのは?」

「パーミンデクスは東欧系ユダヤ人ジョージ・マンデルが設立したCMC(Centro Mondiale Commerciale=ニューオリンズ世界貿易センター/映画JFKでトミー・リー・ジョンズ扮するクレイ・ショウが運営)の子会社。それはケネディ暗殺のみならず、フランスのアルジェリア占領を維持するためにドゴール大統領を暗殺する陰謀に深く関与していたモサドの海外秘密工作の拠点と見られているのよ。
 パーミンデクスを中心に絵を描くと、モサド、北京、フランスOAS(アルジェリア独立反対の反ドゴール極右秘密軍事組織)、SDECE(フランス秘密諜報機関)、ランスキー・シンジケート(ユダヤ系ロシア人、マイヤー・ランスキーのマフィア・シンジケート。ジャック・ルビーのボス)、そしてCIAを加えた六芒星が見事にできあがるわ」

「なるほど・・・」

「そして、アメリカのメディアを支配する強大な親イスラエル勢力、つまりユダヤ系国際金融資本家たちの勢力が、ケネディ暗殺の隠蔽工作に大きな役割を果たしていたのも事実ね。多くの団体や人間が関わったケネディ大統領の暗殺事件は、メディアの協力が無ければ決して成功しなかったでしょうしね─────この暗殺陰謀に関わるすべての謎は ”イスラエル” という、たったひとつのキーワードで見事に解けてゆく。そして実際に、ケネディ大統領が暗殺された事によって、イスラエルは大国となる道を切り開くことができたワケよね」

「うーむ、何ということだ。しかし、ジョンソンが大統領になってくれた方がイスラエルにとって都合が良いという理由は、いったい何なんだろう?」

「まず、ケネディ大統領は、中東和平への道を切り開くことに大きな関心を持っていた。
特に1948年にイスラエルに土地を追われたパレスチナ難民の ”安住の地” を探すつもりだと明言していたのよ」

「ケネディはイスラエルよりも ”親アラブ派” だったわけだね」

「けれども、実はケネディ自身はユダヤ系アメリカ人の支援に大きく依存することで、辛うじて選挙を勝ち取り、大統領になった人なのよ」

「・・ん?、何か矛盾するな。それじゃイスラエルからの期待は大きかったわけだね」

「そうね、そしてケネディは上院議員時代から強力にアルジェリア独立を支持していた」

「アルジェリア?─────イスラエルと何の関係があるの?」

「大ありよ!、アルジェリア問題を知らないの?」

「常識程度には知ってるけど・・フランスの支配に対するアルジェリアの独立戦争だよね。
フランスからの独立を求めて、アルジェリアの民族解放戦線(FNL)が、首都アルジェを拠点にゲリラ闘争をしていた─────そのFNLを掃討するために派遣されたフランス外人部隊の兵士と、パリからカスバの酒場に売られた女性の悲恋を歌った『カスバの女』という歌が日本じゃ大ヒットしたしね。 ♫ ここは地の果てアルジェリア、どうせカスバの夜に咲く、酒場の女の薄情け・・ってやつ」

「やれやれ、こんな時にエンカなんか歌ってどうするんだか──────」

「カスバの女は演歌じゃないけど、そのアルジェリアがイスラエルと何の繋がりがあるのか分からないな」

「フランスの植民地となったアルジェリアのイスラム社会が民族解放のために対フランス独立運動を始めた。アルジェリアには100万人ほどのフランス人が居て、その中にはかなりの数のユダヤ人が含まれていた。ドゴールはアルジェリアを独立させる方向で動き、ケネディも上院議員時代からそれを支持してきたのよ」

「なるほど、そのために現地アルジェリアのフランス軍と植民地フランス人の中にドゴール政権を打倒する考えが生まれ、ドゴール暗殺の陰謀が企てられたんだな」

「そのとおり。そしてフランス国内のユダヤ人勢力を通じて、イスラエル政府とその情報機関であるモサドが動き出した─────」

「そのあたりが、今ひとつピンと来ないけど・・・」

「無理もないわ、もう少し説明が必要ね。それは1948年のイスラエル建国と密接な関係があることなのよ」

「・・と、いうと?」

「イルミナティにとって、第二次世界大戦における主な仕事は、世界の共産主義国を拡大成長させて西側の資本主義と拮抗する超大国を造りあげることだった。そして─────」

「お・・おいおい、ちょっと待てよ・・イルミナティだって?」

「それがどうかした?」

「それって、それこそ ”陰謀論” の代表選手なんじゃないの?」

「やれやれ、何をとぼけたコト言ってるんだか。玄洋會の期待の星とも思えない発言よね。
イルミナティは単なる陰謀論なんかじゃなく、とんでもない歴史を持つ実在の秘密結社だってコト、知ってる?」

「まあ、それはそうだけどさ・・・」

「実際に、かつてフランクフルトのイルミナティ本部からは、現在でも疫病のように世界を蝕み続けている ”ふたつの悪” を誕生させているのよ」

「世界を蝕む、ふたつの悪?・・それも何だか陰謀論クサいなぁ」

「ふたつの悪でワルければ、”シオンの呪い” と言い換えてもいいわ」

「シオンの呪い?・・ははは、ますます陰謀論っぽいね、何なんだ、それは?」

「共産主義と、シオニズムよ─────まずは共産主義インターナショナル。レーニンが設立したコミンテルンとも呼ばれる共産主義政党による国際組織のことだけど、1922年には日本共産党も支部として承認されている。
 それは当初、英国ロスチャイルド商会のライオネルと詩人のハインリッヒ・ハイネ、そしてカール・マルクスという、たったの三人の構成員で作られたのよ。イルミナティの創設者ワイス・ハウプトはとっくにこの世を去っていたけれど、その後を継いだのがイタリア人の革命指導者ジュゼッペ・マッツィーニ。この人物の指揮のもとで、イルミナティの方針は『世界中で革命を勃発させ、政権の転覆を起こすこと』へと転換された。共産主義インターナショナルはその計画の第一歩だったのよ」

「ええっ・・?!」

「これは現実の歴史よ。ちっとは陰謀論から目が醒めるでしょ。まあ、だからこそ私が話を聴かせるお役目としてココに来ているんだけどね」

「むむ・・・」

「この共産主義インターナショナルは、当初はイルミナティの一部門である “正義者同盟” というものだったけれど、これこそが1847年にカール・マルクスに、あの『共産党宣言』の執筆をさせた張本人なのよ」

「な・・な・・なんだって!!」

「あら、驚いた?、そして翌1848年にこの本が出版されると、世界各地にあるフリーメイソンの支部によって、たちまち世界中に流布され広がって行った。”事実は共産党宣言より奇なり”、ってところかしらね」

「むむむぅ・・”共産党宣言” は、実は奴らの仕業だったということか!」

「そして、世界中に ”革命” のムーブメントをを引き起こしたのは、イルミナティのもうひとつの柱である ”シオニズム” だった。シオニズムの目的は世界中のユダヤ人の力をひとつの運動に結集して、世界を支配するための権力中枢としてのイスラエル国家を建設することにあった。ソロモン神殿を再建し、世界中の富を我が物として蓄えることは元々フリーメイソンの目的でもあったから、シオニズムの源流はフリーメイソンだと言えるわね」

「話の腰を折ってしまったけど、第二次世界大戦における、そのイルミナティの主な仕事、というのは?」

「ずばり、共産主義を飛躍的に拡大させ、西側の資本主義と拮抗するもうひとつの勢力に仕上げることよ。そしてその計画と展開に反抗したアメリカの数々の政治家や軍部指導者が次々に排除され、暗殺されていった」

「そんなことが、実際に起こっていたのか・・」

「紛れもない事実よ。米国民と米軍人に最も人気のある、パットン戦車でお馴染みのジョージ・パットン陸軍大将は任地ドイツを離れる直前に暗殺され、他にもマーフィー最高裁判事、ステティニアス国務長官、フォレスタル初代国防長官、マッカーシー上院議員など、イルミナティの長期計画に反抗するアメリカの要人が次々と暗殺されていったわ」

「それじゃ、第二次世界大戦の後は?」

「暗殺されたのはケネディだけじゃない、あのフランクリン・ルーズベルトもそう」

「ルーズベルト?、あの第32代大統領のことか?」

「そうよ。アメリカ史上先例のない四選を果たした途端に脳卒中で亡くなり、副大統領のトルーマンが昇格就任した、そのルーズベルトも彼らに暗殺された」

「やれやれ、もう何を聞いてもあまり驚かなくなってきたよ」

「そして大戦後は、シオニスト・イスラエル、つまりユダヤとイスラムの全面対決が ”演出” されることになった、というワケ─────」

「むむぅ・・”演出” か、難しいなぁ・・」

「やがて近い将来、ユダヤとイスラムの間にもっと大きな事が起こるはずよ───────
 そして兎も角、イルミナティの世界戦略にとって、ケネディは巨大な邪魔者として存在した、ということは紛れもない事実だった」

「実際に、どこがどう邪魔だったの?」

「そうね、そこはとても肝心なところなのだけれど・・」

「なんだよ、やけに勿体ぶるじゃないか」

「それじゃハッキリ言いましょうか─────実はイスラエル政府は核武装計画を進めていた。そしてケネディは徹底的にそれを阻止しようとした。つまりイスラエル政府とケネディ政権は、事実上の戦争状態だったのよ!」

「ええ・・ま、まさか・・そんなことが・・・本当に?!」

「本当よ。そしてそれこそが国民に知らされていない、世界中の一般市民が全く知らない、政治の最も深い部分ということになるわね」

「こうなるともう、何をどう考えていいのか、分からなくなる」

「まだあるのよ─────ケネディ大統領はイスラエルの核武装だけでなく、毛沢東の中国共産党独裁政権の核武装も、武力で全面的に阻止する覚悟だったの」

「ええっ!・・そんなことは宗少尉にも聞いたことがない。それも驚きだな。日本の隣の国だから、イスラエルよりもっと身近にショックに思えてしまう」

「ケネディは暗殺に先立つ数ヶ月間、中国共産党政権の核施設を軍事攻撃する計画を着々と推し進めていた。けれどケネディ暗殺の一ヶ月後には、ジョンソンがその計画を中止して闇に葬り去り、おかげで中国は難なく核兵器を手にすることが出来た。
 イスラエルのモサドと中国の情報機関は、共同で核兵器の開発に携わっていた。チャイナ・コネクションとイスラエル・コネクションは、お互いを指し示す道標となっていたのよ」

「うーん・・ボクたちは本当に何も知らずに、何も知らされずに、ただ単にどこかの国家という土地の上で、ありきたりな日常生活の、ごく目先にある喜怒哀楽に左右されながら生きているだけなんだな・・本当は、この世界では、もっと大変なことが起こっている・・・」

「そのとおりね」

「それを知ることが幸せなのか、知らない方が幸せなのか───────
 実際にこの現実を目の前に見せられたときに、普通の人たちはきっと、マゼランがティエラ・デル・フエゴに上陸したときの、五隻の大きなガレオン船が全く見えなかった土人のようになるか、それとも大海原の果てには巨大な滝があるという常識を全面的に疑って、勇気をもって航海に出る人となるか、そのふたつに別れるんだろうな・・」

「ヒロタカは、その時にどうするの?」

「ぼくは真実を知りたい、本当のことをこの目で見たい、だから航海に出る───────
 もっとたくさんの事を学んで、真実を知ることで、人類がもっと進化して、より良い高度な社会を築けることを信じたいんだ」

「それじゃ、もっと勉強を続けましょう。ここまでは、まだほんのイントロダクションよ。知識を増やすのではなく、考える力、知性を高めていく必要があるのよ」

「仏教ではそれを ”智慧”─────物事を有りのままに把握し、真理を見極める認識力、というけれど、つまりは、それもインテリジェンスだね」



 ケネディ大統領の暗殺がオズワルドの単独犯行であると結論付けたウォーレン委員会は、その22人のスタッフのうち9人がユダヤ人、1人はユダヤ人を妻に持つ者であり、残りの12人はイスラエル系の団体と密接に結びついている人間であった。
 1964年11月22日のワシントン・ポスト誌にはウォーレン委員会の調査結果報告書を賞賛するイェール大学ロー・スクール校長のユージン・ロストウの記事が掲載された。
 ロストウは後にジョンソン政権の国務次官に任命されたが、彼はケネディ暗殺事件の真相を隠蔽するための中心的な役割を担っていたと考えられている。

 そして、後にニクソンが大統領に就任して反イスラエルの路線を明らかにすると、ユダヤ・シオニストの陣営は「ウォーターゲート事件」によってニクソンの追放を謀り、同時にケネディ暗殺の首謀者がニクソンであるというニセの情報を世界中に流した。
 ニクソンの追放劇は、田中角栄が金脈追求の果てにロッキード事件で受託収賄罪等に問われて逮捕収監された事件と様々な共通項が多く、ほぼ同時代的に進行しているが、それもそのはず、この二つの事件は、実はある意図を以てそれを企てた組織が存在している。
 その組織の名は Trilateral Commission(日米欧三極委員会)─────決して闇の組織ではないが、1972年にロックフェラー邸で秘密裏に創立が準備され、翌年に正式発足した。
この最初の準備会議に日本から招かれたのは、田中角栄が嫌った宮沢喜一であった。

 「世界金融マフィア」とも称されるデイヴィッド・ロックフェラーを総帥とする三極委員会の初期の任務は二つあった。ひとつは米国民にニクソンの人格を不信にさせ、ホワイトハウスを完全に牛耳れるようにすること。もうひとつは日本の田中角栄の政治生命を終わらせ、彼らに絶対的な忠誠を誓う者たちを日本の政治権力に据えることである。
 実際に世界を動かす力を握る者たちは、この「三極委員会」に「ビルダーバーグ会議」と「ダヴォス会議」を加えた三つの会合を日米欧のいずれかの都市のホテルや避暑地で繰り返して行い、世界を如何に運営するかブレインストーミングを行ってきた。それが1945年から2000年位までの世界情勢を実質的に決定してきたことは、知る人ぞ知る事実である。
 日本ではその会合がホテルオークラの別館地下で度々行われてきたが、なぜか日本のメディアがそれを大きく取り上げることは無い。


 オズワルドが射殺された僅か2時間後、ダラスからホワイトハウスに戻る大統領専用機、ケネディの遺体を載せたエアフォース・ワンの機中で、ジャクリーン夫人の隣にジョンソン副大統領が立つという異例の大統領就任式が行われたが、その際もジャクリーン夫人はケネディの血に染まったピンクのスーツを決して着替えようとはしなかった。
 その機上就任式で、ジョンソンに向かって笑顔でウィンクする男の写真がある。その奇妙な写真は、以後多くの研究者たちの注目を集めることになった。ウィンクをする男は34年間ジョンソンの顧問弁護士を務めたエドワード・クラークであり、その後ジョンソン大統領から年間400万ドル(現在の14〜15億円に相当)もの大金を受け取っていたことが明らかになっている。

 大統領となったジョンソンは、米軍を2年以内にベトナムから撤退させると表明したケネディとは正反対に、軍事介入を拡大して新たに55万人の兵士を投入、ベトナム戦争は泥沼の様相を呈し、国内に激しい反戦運動と世論の分裂を引き起こしたが、その結果、軍需産業は大儲けをし、ケネディによって解体されかけていたCIAは再び息を吹き返した。ケネディがベトナムからの米軍撤退を表明したのは、暗殺されるわずか22日前のことであった。

 アメリカ政界の保守派が「ケネディ王朝」とまで言われた、人気の高いケネディファミリーの政界君臨を非常に怖れていたことは紛れもない事実である。ジョン・F・ケネディが二期を務めた後からは弟のロバートが二期、さらにその後には末弟のエドワードが続いて二期を務める事になっていたのである。しかし、実際にそうなっていた方がアメリカにとっては良かったに違いないということは、未だに多くのアメリカ国民が認めるところでもある。
 それは、ケネディの暗殺が行われた後に、米国がジョンソン、ニクソン、フォード、カーター、レーガン、ブッシュといった大統領を連続して持つことになり、彼らの国家政策の路線が限りなく国際金融資本家と同調したイスラエル寄りのものになったことを見ても明らかであり、この暗殺事件はもはや、単にケネディ個人に対する暗殺を意味するものではなく、自由と民主主義を標榜するアメリカという国家に対する「暗殺」であったと言えるかも知れない。

 ケネディがパレードで狙撃された後、ジャクリーン夫人は病院に到着してもケネディを抱きしめたまま離れようとしなかった。ケネディの死後、彼女の最も大きな不安となったのは子供たちの安全であり、弟ロバート・ケネディが暗殺されたことで、その不安は頂点に達したに違いない。
 ジャクリーンは子供たちの安全を考え、海運王アリストテレス・オナシスと再婚しギリシャに移り住むことを決意したが、それまでと変わらずケネディ家との繋がりを保った。
 オナシスとの結婚は決して心の通い合うものではなく、夫婦が顔を合わせることも滅多になかったと言う。事実オナシスがパリで死去した際も、ジャクリーンは遠く離れたニューヨークに居たままであった。
 アメリカに戻ったジャクリーンはリンパ腫を患って64歳でこの世を去ったが、長男のジョンが最期を看取り、その亡骸はオナシスではなく、ジョン・F・ケネディの墓の隣に葬られた。
すぐ傍には、かつて死産と病気で亡くした二人の子供たちも一緒に眠っている。



                    ( Stay tuned, to the next episode !! )






  *次回、連載小説「龍の道」 第184回の掲載は、9月1日(木)の予定です

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2016年08月01日

連載小説「龍の道」 第182回




第182回  P L O T (2)



「ケネディは誰に暗殺されても不思議のない、理想主義の政治家だったと言えるわね・・」

 真犯人は誰だ─────と問いかける宏隆に、ヘレンが答えた。
 ここまで話が進んでくると、どうしても真犯人を曝かなければ気が済まなくなってくる。

「暗殺されたダラスはテキサス州、つまり南北戦争リンカーン以来の ”敵” である南部の牙城で、副大統領ジョンソンの出身地。ケネディは北部出身で歴代唯一のカトリックの大統領。他の大統領は全てプロテスタント。アメリカ国民はカトリック25%、プロテスタント50%、つまりアメリカはプロテスタントがつくった国だと言えるわね。戦後はテキサス州出身の大統領が最多で、南部と西部が多くなる。ケネディは南部保守派との対立が大きかったのも事実ね。
 ケネディ暗殺のニュースに触れた当時の南部人は、ダラスで暗殺が起こったことについて ”やはり” とか ”ついに” と思ったに違いないわ。当時の南部では黒人に対する暴力は日常茶飯事で、しかも多くの場合は犯人が追及されることはなかった。南部の人種差別論者にとってケネディは、 ”ニグロびいきのお坊ちゃま大統領” だったのよ」

「ケネディ大統領はCIAを解体しようとしていた、というけれど?」

「ケネディはCIA長官だったアレン・ダレスと、副長官チャールズ・カベルを解任し、さらにCIAの組織そのものの解体を目指していた。暗殺されるわずか2年前のことよ。
 因みに、ケネディに解任された元長官ダレスは、なぜか事件を解明するために設置されたウォーレン委員会の一人として名を連ねているわね」

「むぅ・・そもそもCIAは、アメリカにとって非常に重要な大統領直属の情報機関であり、米国政府の最高国防会議であるNSC(国家安全保障会議)に必要な情報を提供する事がその本来の目的なわけだよね。ケネディは何故それを解体する必要があったんだろうか?」

「CIAとの確執ができたのは、ピッグス湾事件(Bay of Pigs Invasion)からね」

「ピッグス湾事件というのは、キューバのソビエトへの接近を憂慮したアイゼンハワー大統領とCIAが、カストロ新政権を打倒するために、反カストロの亡命キューバ人部隊をキューバに上陸侵攻させて、内紛と見せかけて新政権を潰滅させようとした作戦だね。
 ケネディが大統領になる以前に、すでにアイゼンハワーがカストロ政権転覆の計画を立てていたというわけだ。米軍を当初から投入するのではなく、CIAが資金提供して、母国を脱出してきた1500人の亡命者をグアテマラの秘密基地で訓練してゲリラ軍に仕立て、キューバに上陸急襲させるというものだった。上陸が成功すればキューバ国内の反カストロ軍が飛行場を爆破し、革命委員会が亡命政府樹立を宣言する。万一の場合は山に逃げ込んでゲリラ戦を展開する─────退任間近だったアイゼンハワーは、この計画をニクソン副大統領やアレン・ダレスCIA長官に委ねたわけだ」

「あら、さすがにその辺りはよく勉強してるわね!」

「しかし、兵隊の数と物資の量で圧倒的に不利な反カストロ軍がキューバ政府軍に勝つためには、アメリカ正規軍の介入がどうしても必要だった。そして丁度その頃にケネディが大統領に就任(註:1961.1.20)した─────ということだよね」

「C'est bien!(セ・ビヤン=よくできました)」

「お、めずらしくフランス語で来たね」

「ケネディはこの作戦に米軍が介入することに対して非常に慎重だったと言うわ。
 当時はベルリンが危機の状況にあり、キューバ侵攻を口実にフルシチョフが軍事行動を起こすかもしれなかったから。しかしCIAのダレス長官はアメリカ正規軍を介入させないと説明し、ケネディは作戦を承認した。
 だけど、なぜかCIAは、ケネディ大統領に作戦のリスクを過小評価して報告していたし、キューバ軍の一部が寝返るという根拠の無い報告をしていた。しかも実際には、ダレス長官は反カストロ軍に米軍が介入する約束までしていたのよ」

「ふぅむ・・やっぱり、なんだか臭うな・・」

「ケネディは米軍の関与が露見しないよう、空襲での爆撃機の数を減らし、上陸地点をピッグス湾にするよう変更を命じた」

「そして、いよいよ上陸作戦が決行されたが─────」

「そう、最初の空爆でキューバ軍の基地を潰滅するはずが、何と、時差を計算せずに爆撃機が向かったために制空権を奪えず逆に空爆をされ、上陸地点のピッグス湾が珊瑚礁であることもCIAが確認しておらず、カストロ政府軍に海の補給経路を絶たれ、状況が絶望的になった。CIAはケネディにアメリカ空軍の支援を要請したが、ケネディは断固としてその要請を拒否した。その結果、作戦は完全に失敗し、上陸した反カストロ軍114名が戦死、1189名が捕虜となった、というワケね」

「ケネディは、この作戦は何かがおかしい、どこかが怪しいと思ったんじゃないのかな?、コトの全体を整理して行くと、このボクでもそう思えてくるからね」

「ケネディは事件後に記者会見を開き、失敗の責任は計画実行を命じた自分にあるとしながらも、CIAに対して責任を追及し、アレン・ダレス長官とチャールズ・カベル副長官を更迭した。ケネディはこの事件から軍部とCIAを全く信用しなくなったと言われているわ」

「アメリカ軍が正式に軍事攻撃をしたと知れたら、ソビエトが黙っていなかったろうね」

「そうでしょうね。でも結果としてカストロ首相は、この事件から後に、キューバ独立を守るために軍備増強と社会主義と共産政権の東側諸国との友好関係の確立を益々図ることになった。ケネディも自ら本格的にカストロの打倒を計画して、キューバのクーデターを支援したり暗殺工作を続けて行き、その結果、いよいよアメリカに危機を感じたカストロが、ソビエトに軍事支援を求めてミサイル基地の建設と核ミサイルの搬入に踏みきり、ついに1962年の ”キューバ危機” を招くことになったのは誰もが知るとおりよ」

「CIAのやっていることは、アメリカ合衆国の国益と言うよりは、何か違う目的で動いているような気がする。そこには例の ”国際金融資本家” の影が見え隠れするような・・」

「どこかの映画に、こんなセリフがあったわね─────── ”なぜCIAに ”The” が付かないかって?・・神に ”The” を付けるヤツなんか居ないからさ !! ” 」

「ほう、”神” ときたか!・・・そう言えば国際金融資本家たちも、自分たちのことを神と言って憚らないんだったっけ」

「ケネディ大統領が、CIAから恨まれていたのも事実よ。暗殺事件後に弟のロバート・ケネディ司法長官がCIA長官を自宅に呼び出し、兄を殺したのはCIAか? と詰問したのは有名な話だし。ピッグス湾事件の失態で捕虜になった亡命キューバ人ゲリラ部隊の隊員たちも、後に無事アメリカに引き渡されたけれど、皆ケネディを恨んでいたと言うわ」

「確かに、気持ちは分かるが─────後のキューバ危機でケネディは、軍事侵攻は最終手段であって最初の手段ではない、という姿勢を貫き通していたね」

「そのキューバ危機でも、不思議というか、選りに選ってこんな時に、と思える事件がたくさん起こっている。キューバ上空を偵察飛行中の偵察機が地対空ミサイルで撃墜されたり、アラスカでは偵察機が航行上の困難に遭ってソ連領空を侵犯する事態が生じたり、海上封鎖中のカリブ海では、米海軍がソ連の潜水艦に爆雷を投下したり・・」

「何だか、そのあたりも怪しいな。平和や安全を確保すると言うよりは、むしろ戦争勃発を望んでいると思えるような事件が多発しているわけだ。恐らく、政界や軍部に対して彼らを操れるだけの巨大な力を持つ、戦争を望む人間が居ることだけは確かだろうね」

「実際のケネディ大統領の暗殺にしても、パレードのコース変更から、スナイパーの配置、それを警察当局が怪しまないようにするための措置、シークレットサービスや白バイ隊への通達・・それらを見るだけでも、CIAの暗躍なしには成功するわけがないと思えるわ」

「それじゃヘレンは、犯人はCIAだと思うのかい?」

「間違いなく、CIAはこの陰謀に絡んでいるでしょうね。パレードのコース変更にしても、ルーズヴェルト以来、ダラスでの大統領パレードはメインストリートを直進するコースだったのに、ケネディのパレードだけ直前にコースが変更され、教科書ビル前へと迂回させたためにリムジンが時速20マイル(32km)から5マイル(8km)まで減速した。犯人はとても狙撃しやすかったはずよ。
 通常、大統領のパレードにあたっては、全コースに沿って両側のビル内部の見取り図を検討し、全ての居住者を調査しなければならないので、シークレットサービスがコース変更を許すわけがない。このパレードのコース変更を決定したのは、ダラス市長アール・カベル。
彼はケネディに更迭された CIA副長官チャールズ・カベルの実弟よ!」

「・・なんと、そうだったのか!!」

「それに、シークレットサービス自体の行動も不審。メインストリートから教科書ビル前の通りに出るには、リムジンの90度と110度の急な旋回が含まれている。これも従来のシークレットサービスのマニュアルには無くて、普通ではまったく有り得ないことだわ。
 彼らはパレードの際にはリムジンの後部デッキ左右に二人が立ち、車が時速20マイル(32km)以下の時にはリムジンの左右に付き添って走ることが義務になっているのよ。狙撃時には時速8マイル(13km)で、両側で走りながらガードすべきなのに一人も居なかった。
 また、ダラス市警の白バイ伴走がなぜか四台に削減され、白バイ隊はリムジンの後輪からは前に出ないように指示されていた。パレードのコースにあるビルの多くは窓が開け放たれており、オズワルドが居たとされる教科書ビルには何故か全く警備陣が入っていなかった。道路のマンホールの蓋も通常は溶接で塞がれるはずなのに、そのままにされていた。
 暗殺の瞬間を記録したザプルーダーフィルムを見ると、シークレットサービスは銃声がしても動こうとしていない。さらに驚くべきことに、大統領狙撃後に病院に到着するとすぐにシークレットサービスがリムジンをスポンジと水で血痕を洗い始めた。
 フロントガラスには銃弾の跡が幾つかあり、警官がその穴に鉛筆を通しているのを複数の民間人が目撃している。これは狙撃が前方からも行われたと言うことを示しているのに、ウォーレン委員会では完全に無視された。そのリムジンはケネディ国葬の日にそそくさとフォードモーター社に送られ、解体され溶かされて完全に造り替えられてしまった。貴重な証拠が多く残された大統領の暗殺現場であるリムジンは、こうして闇に葬られてしまったというワケね」

「シークレットサービスまでグルだったら、大統領は絶対に身を守れないな・・・
 だが、お父さんのヴィルヌーブ中佐なら、実際の狙撃犯が誰だったのかということまで、大体の見当が付いているんじゃないのか?」

「誰にも言えない極秘事項だけど、ヒロタカには話しておきましょうか───────
 一人はダラスの保安官代理ハリー・ウェザーフォード、次にジャック・ルビーと親密だった空軍のベテラン狙撃手ジャック・ローレンス、三人目はフロリダ州のリトルハバナに彫像まで建てられている反カストロ派キューバ人、通称 ”トニー” と呼ばれる、ネスター・イズキエルド、四人目はCIAと繋がりのあるダラス警察のロスコ・ホワイト、五人目はキューバ人亡命者で構成されるCIA主宰の防諜グループ ”Operation 40” のメンバーで、マフィアとも深い親交のあるフランク・スタージス、六人目はCIAの名高い暗殺者の一人であるルシアン・コーネン・・・」

「暗殺を実行したスナイパーが、そんなにたくさん?─────」

「実行犯と思える人間を挙げるだけならもっと居るわ。だけど確かな証拠が無いし、事件後に何人か死亡しているからどうにもならないけど・・・
 例えばケネディの後に大統領となったジョンソンには、専属の殺し屋マック・ウォレスが居た。マックは1952年にプロゴルファーを殺害して有罪判決を受けた。被害者は何とジョンソンの妹の恋人よ。マックはわずか5年の執行猶予付きの判決を受け、'53年から'68年まで Ling Temco Vought という大手軍需産業に入社していた。'61年にはテキサスで資金流用の操作をしていたマーシャル捜査官の殺害をジョンソンが依頼したという証言が法廷で証拠として採用された─────そのマックの指紋が、教科書ビルに残されていたのよ」

「うーん、本当にオドロオドロして、イヤになるような暗殺事件だな」

「けれど、それらはあくまでも未だ目先の現象に過ぎないわ。実際の物事はもっと複雑よ」

「と、言うと────────?」

「JFK(ケネディ大統領)暗殺事件を研究する人たちの、誰もが見逃してしまい、取り上げなかった、思いもよらないコトがあるのよ」

「えっ・・そ、それは・・?!」

「東西冷戦、核軍拡競争、核実験禁止、核拡散防止条約、ベルリン危機、キューバミサイル危機、コンゴ動乱、ベトナム戦争の泥沼化といった世界的な問題の陰に隠れてしまったように、ケネディ大統領の暗殺に全くと言っていいほど取り上げられていない事、と言えば?」

「もしかして─────それは中東問題のことか?!」

「C'est vrai!(セ・ブレ=そのとおり)。大統領暗殺の研究者たちは、暗殺そのものに関しては様々な角度から推理検証を試みてきたけれど、それらは所詮、ジグソーパズルのひとつひとつのピースのようなものだった、というワケ」

「それぞれのピースとは、つまり、犯人とされたオズワルドをはじめ、それを翌日射殺したユダヤ人のジャック・ルビー、そのジャック・ルビーはニクソン大統領の下院議員時代にもひと働きしたそうだね。そしてジョンソン副大統領、ピッグス湾で危機に陥った反カストロキューバ人組織と、キューバでの商売がフイになって大損をしたユダヤ系大物マフィアであるマイヤー・ランスキーのシンジケート、オズワルドを取り巻く人物であるデヴィッド・フェリー、私立探偵のガイ・バニスターやジャック・マーチン、そしてCIAにFBI、政界の保守派勢力、石油企業、軍事産業と、キリが無いけど・・・」

「あら、事件にまつわる重要人物を、たくさん知ってるわね」

「まあね。JFK暗殺には興味があったから、いろんな本を読んだんだよ」

「なら話が早いわ。そして、それらの人たちは皆、何らかの線で繫がって絡み合っているところが、この事件の奥の深いところよ」

「真犯人を追う研究者たちは、それぞれのピースをつなぎ合わせた時に出来る全体の絵が見えていなかったということかな?」

「いいえ、本当に検証しなくてはいけなかったのは、その完成したジグソーパズルの絵をひっくり返したときに裏側に現れてくる、大きな一枚の絵よ」

「つまり、まさにそれらを陰で操っていた者の正体、か・・?」

「そういうこと」

「ズバリ言って、そのパズルの裏側に現れる絵というのは、いったい何だったんだ?」

「パーミンデクス・コネクション──────────」

「なんだ、それは?・・聞いたこともないな」

「イスラエルの情報機関、法的には存在しないことになっているイスラエル諜報特務庁・・
ISIS(Israel Secret Intelligence Service)、通称 ”モサド” が、秘密工作活動のために経営していた、国際ダミー企業の名前よ」

「なっ、なんだって!・・あのモサドが、ケネディ暗殺に関わっていると?!」

「そのとおり──────イスラエルはケネディを大統領の座から排除することを画策し、後継者としてリンドン・ジョンソンにホワイトハウスを任せる事についても、明確な動機を持っていたのよ」

「そ、その確かな証拠がある、というのか・・?!」



                    ( Stay tuned, to the next episode !! )





  *次回、連載小説「龍の道」 第183回の掲載は、8月15日(月)の予定です

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2016年07月15日

連載小説「龍の道」 第181回




第181回  P L O T (1)



 入院中の宏隆にヘレンが語って聞かせる話は、南北戦争からリンカーンの暗殺、連邦準備銀行、日露戦争、ロシア革命、アンネの日記、旧約聖書、キリストの受難、そしてケネディ大統領の暗殺へと、留まるところを知らない。

「─────それじゃやっぱり、ケネディ暗殺もリンカーンと同じように、ユダヤ国際金融資本家たちの陰謀なんだね?」

「いや、そう考えてしまうのは、ちょっと早計ね」

「え、てっきりそうかと思ったけど・・」

「ケネディ暗殺には、陰謀説が驚くほどたくさんあるのは、ヒロタカも知ってるでしょ?」

「ああ、いろんな説があるみたいだね。大統領と仲が悪かったCIA、選挙で敗れたニクソンや副大統領のジョンソン、ケネディのせいで大損をした軍需産業、et cetera・・」

「そうね、そして世界の多くの人たちが、真犯人はオズワルド個人ではないと信じている」

「だけど真犯人はいまだに分からない─────謎に包まれたまんまだよね」

「そうそう、日本人もその調査に関与していたのを知ってる?」

「日本人が?・・それは初耳だな」

「内閣安全保障室* の、佐々淳行(さっさ あつゆき)。戦国武将の佐々成政の末裔とかで、危機管理のプロフェッショナル。公安外事警察の仕事も多く、よど号事件('70)、浅間山荘事件('72)でも活躍した人。アメリカのスパイ小説にも実名で登場しているわ」
(編註*:内閣安全保障室は国家の安全、国民の生命、財産に関わる重大被害、およびその怖れがある緊急事態への対処を目的とする。佐々淳行は'86~'89の内閣安全保障室長)

「それは同じ日本人として迂闊だったな。スパイ小説にまで登場って?」

「ド・ゴール大統領暗殺を題材にした映画、”ジャッカルの日” の原作者が、他の小説に佐々さんを登場させているのよ」

「へえ、その人がなぜ、わざわざケネディ暗殺の調査に来たの?」

「実際に多くの国の諜報機関が訪米して調査を行っているけれど、日本の場合は内閣安全保証室の方針でしょうね。主には暗殺の研究やアメリカの情報機関が大統領暗殺にどのように対処しているかを視察する、というところかしら。ただし、彼の見解はオズワルド単独犯ということらしいけれど」

「まあ、公的な立場での発言と、個人の本音とは違うだろうけどね。それじゃひとつ僕も、シャーロックホームズみたいにケネディ暗殺事件の謎解きをしてみるかな」

「ホームズよりジェームス・ボンドの方が似合うんじゃない?、それともド・ゴール暗殺のジャッカルってタイプかな?」

「おいおい、人をアサシン(重要人物の暗殺者)みたいに言うなよ」

「あはは・・だって、この世界じゃ有名な秘密結社の、優秀な新人スパイなんだから!!」

「ぼくはスパイじゃないって言ってるでしょ、もう──────ところで、ヘレンのお父さん、ヴィルヌーヴ中佐の見解はどうなのかな?、きっとケネディ暗殺に関しても多くの情報を持っているんじゃないかと思うんだけど」

「まあね、もちろん父は職業柄、普通では知り得ない情報をたくさん持っているわ」

「訊きたいことが山ほどある。君が中佐から聞いた情報があれば説明してほしい」

「いいわよ、何でも訊いてちょうだい」

「まず、ケネディの暗殺がオズワルドの単独犯行だと断定したのは、例の ”ウォーレン委員会(Warren Commission)” だったよね」

「ウォーレン委員会は、ケネディの死後に格上げで大統領になったジョンソンが、事件を検証するために設置した調査委員会。連邦最高裁長官であるアール・ウォーレン委員長の名前からきた通称で、正式には『ケネディ大統領暗殺に関する大統領特命調査委員会』と言うんだけれど。ところがその調査過程や結果には、疑問点や疑惑が山ほど見られるのよ」

「正式な調査の為に設置された委員会にまで疑惑があるのか、やっぱりこの事件はミステリアスで奥が深いな。その疑惑の主なものは?」

「まず第一に検死写真ね。司法解剖時に撮影されたケネディの検死写真が、ウォーレン委員会のスタッフにさえ公開されなかったという事実には、この暗殺事件の複雑さを感じざるを得ないわ。暗殺の証拠を集める調査スタッフがどれほど検死写真を見たいと言っても、委員長のアール・ウォーレンは最後まで許可を出さなかった。実弟のロバート・ケネディが公開を希望しなかったとされているけれど、どうかしらね・・」

「それはおかしいな。検死写真を見れば銃弾がどこから飛んできたかを特定できるはずだ。それに調査委員会が検証する事は一般公開とはワケが違う。検死写真抜きで調査を進める暗殺事件なんか、どこの世界にも無いだろうし」

「ヒロタカはその写真を見たことがある?」

「もちろん無いさ、何せウォーレン委員会のスタッフさえ見たことがないんだから」

「よかったら見てみる?」

「え・・そこに持っているの?」

「そうね、どういうわけか─────」

「やれやれ、とんだレディだね、キミは・・・」

 ヘレンはゼロハリバートンの片隅から白いファイルを取り出すと、その中から四枚のモノクロームの写真を出して見せた。

「うわぁ、これはひどいな・・・」

 まぎれもなく─────まだ眼を見開いたままのケネディ大統領が、すっかり血の気の引いた顔で検死台に横たわり、後頭部が大きく破損して脳が後ろに流れ出している。一般人が見れば気分が悪くなりそうな写真だ。

「頭部にライフルを被弾すると、こうなるわね。顔は綺麗なままなので、余計にこの事件の陰惨さが際だってくるわ」

「ウォーレン委員会の報告では、オズワルドが撃った銃弾は三発、いずれも教科書ビル6階の角の部屋から発射されたものだと断定していたね」

「そうよ」

「教科書ビルの6階から狙撃したなら弾道は後方上からのはずだが、この検死写真を見ると明らかに右前方から撃たれているじゃないか!、後ろの上から撃たれたら、顔が吹っ飛んでいるはずだ」

【編註:後に一般に少し出回ったケネディの検死写真は、まるで後頭部から撃ち抜かれたように顔面の半分が欠落しており、明らかにこの当初の検死写真とは異なっている】

「そう、銃弾の傷は入口が小さく出口では広がる。致命的な一発が後方からの射撃ではないことが誰の目にも明らかなので、この写真はひた隠しにされているのでしょうね。そして、検死自体にも不審なことばかりあるのよ──────」

「ケネディは、どの病院に運ばれたんだっけ?」

「ダラス市の北西部にあるパークランド病院。合衆国の法律では殺人事件の被害者の司法解剖や検死の責任は発生場所の所轄組織にあるので、この事件の検死義務はパークランド病院にある。この病院には検死の専門官も在籍しているので、何の問題もないはずよ」

「つまり、図らずもそこは事件の事実解明には適した病院だったわけだ」

「ところが・・・・」

「また何か、怪しいことがあったんだな?」

「これもあまり知られていない事だけれど───────
 撃たれたケネディがパークランド病院に到着したときには、緊急召集ですでに12名の救急医が持ち場に就こうとしていた。
 最初に大統領の状態を診た医師の名はチャールズ・カリコ。彼は少し遅れてきた外科医師のマルコム・ベリーと共に、ケネディの呼吸を助けるために喉仏(のどぼとけ)の下にあった傷口を切開して開き、そこに気管チューブを挿入した。つまり事件後最初にノドの傷を見た人はこの二人だけだということね。
 二人の医師はその傷口が被弾によるものだとすぐに分かった。ドクター・カリコはウォーレン委員会で、『5ミリと8ミリの小さな傷でした。甲状軟骨(ノド仏)の下から三椎目のところにありました。この傷はかなり丸く、傷はギザギザになっていなかった。また火薬の燃え滓も付着していませんでした』と証言しているのよ」

「それはつまり、前方から撃たれた銃弾で出来た傷だと言っているワケだね」

「そういうこと。日本と違ってテキサスの病院では、銃撃の傷など日常的に医師が目にしているので、見間違えるはずがないのよ。そして医師たちは、ケネディの頭部右半球が髪の生え際から右耳の後ろまでそっくり無くなっていることも確認している。召集を受けて続々と到着した医師たちは懸命に蘇生術を繰り返したけれど、外科部長のケンプ・クラークが午後1時に死亡を確認した」

「それから、いよいよ検死する事になったんだね?」

「いいえ、死亡が確認された大統領の遺体は、検死解剖のためシークレットサービスによってメリーランド州にあるアメリカ海軍病院ベセスダ衛生研究室に移送されてしまうのよ」

「ええっ?、遙々とワシントンD.C.の側まで運んで検死解剖を?・・なぜその場でやらないの?」

「当然、パークランドの医師団は猛烈に抗議したのだけれど、聞き入れては貰えなかった。そして彼らは強引に遺体を移送したの。ダラスからベセスダまでは直線距離でも1,900kmもあるのよ」

「それで、移送先での検死は?」

「検死よりも、もっと不思議なことがそこで起こったのよ」

「・・と、いうと?」

「ダラスのパークランド病院で、大統領の遺体を棺に入れる作業を行った救急隊員のオーバラー・ライクは、『私は大統領の遺体からまだ相当な血液が流れていたので、それが棺の中に広がるのを怖れ、遺体をゴムのシートで丁重に包み、立派な青銅製の棺に入れました』と証言しているわ」

「ふむ、それで?」

「ところが、搬送先のベセスタ海軍病院で検死解剖に立ち合った海軍士官デニス・デイビッドと海軍医療技官ポール・オコナーは、『解剖室に入って来た大統領の棺は質素なグレーの搬送用の棺で、遺体は戦場で死んだ兵士を入れる粗末な死体袋に入っていた』と証言しているのよ」

「なんだって────────?」

「さらにデイビッドは、こんな事を語っている。『遺体は黒の霊柩車で病院に到着しましたが、ジャクリーン夫人を始め、遺族の一行が柩と共に病院に到着したとき、私が居た霊安室のベッドには、すでに大統領の遺体が安置されていました。私は窓から彼らの到着を眺めていて、極めて奇異な感覚にとらわれました』」

「ええっ・・?」

「レントゲン技師のジェラルド・カスターも、こう言っているわ。『大統領の遺体がある霊安室で、私は撮影の準備をしていました。30分くらい経ってから霊柩車と共に到着したジャクリーン夫人が病院に入ってくるのを見ました。夫人が終始、夫を守るように付き添っていたあの柩は、いったい何だったのでしょうか?』」

「それは一体、どういうことなんだ?」

「考えられることは、ひとつ─────パークランド病院からベセスタ病院までの遺体搬送の過程で、柩がすり替えられたと言うことね」

「実際に、そんなことが有り得るのか?」

「テレビ中継された時の大統領の柩は青銅製で、霊柩車はグレー色だったわ。これは今でも確認できるはずよ」

「それじゃ、何のために・・・」

「大統領の遺体に細工をするためでしょうね。オズワルドが単独犯で、三発の銃弾を教科書ビルの6階から発射したように見せかけるための小細工をしたのよ」

「何ということだ・・これはもう間違いなく、念入りに仕組まれた陰謀だね」

「それに、実際に発射された銃弾は三発ではないし」

「と、いうと?」

「暗殺の現場を、偶然に8ミリフィルムで撮影していた民間人が居るの。その貴重な証拠となるフィルムは、撮影者のアブラハム・ザプルーダー氏の名を取ってザプルーダーフィルム(The Zapruder Film)と呼ばれているけれど、偶然暗殺の瞬間が撮影されたそのフィルムは、FBIとウォーレン委員会によって事件からずっと封印され続けてきた。ようやく去年、つまり1974年にそのフィルムが国立公文書館に移され、公開されたばかりよ」

「一般市民が撮ったフィルムでさえ、11年間も封印されていたと言うこと?」

「そう。だけどそのフィルムさえ、どんな手を加えられているかも知れないし・・」

「ヘレン、失礼かもしれないけど、もしかすると君のお父さん、CIAにも自由に出入りできるヴィルヌーヴ中佐は、ケネディ暗殺事件にも興味を持って独自に調査をしていたんじゃないのかい?」

「いい勘をしてるわね、そのとおりよ。ケネディを尊敬していた父は、あの事件が不審なことだらけなことに気付いて独自に調査をしていたのよ。そのためにイギリスやポーランド、キューバにまで行って、証拠を集めていたの」

「やっぱり・・・で、その成果は?」

「私がヒロタカを見舞いに行くと言ったら、ケネディの話もしてあげなさいと言って、この検死写真や他の資料を見せる許可を出してくれたのよ。だから私の知っていることなら何でも教えられるわ」

「それじゃ、検死写真の次の疑惑は何だろう?」

「さっきヒロタカが言ったこと。ケネディは前方から狙撃されたと証言した人が居るのよ。
 ユニオン・ターミナル鉄道の管理職、スターリング・M・ホーランドは、ちょうどその時に仕事で大統領の車の前方、フリーウエイの陸橋の上で信号の点検を行っていたの。
 発砲の音が聞こえた直後に、彼は左側の木立の下から立ち上る一筋の煙を見た。そして驚いてその辺りに向かって走ると、そこには12〜15人ほどの警官と私服警官らしき者が地面に向いてカラの薬莢(やっきょう)を探しているのが見えたというのよ」

「ウォーレン委員会も当然、その証言者の話を聴いたはずだね。それなのに、教科書ビルから三発撃ったオズワルドの単独犯とするとは─────」

「そのような証言は全て無視されたわ。それどころか証言者の多くは、その後事故や自殺でみんな死亡している」

「むむ・・・・」

「大勢の警官と私服警官らしき者が空薬莢を探していたというのも不審よね。大統領を警護する立場であれば、薬莢を探すヒマがあったら真っ先に犯人を捜して逮捕するべきでしょ」

「本当にそうだね、いったい何のためにそんな事をやっていたんだろうか?」

「彼らにしてみれば、大統領が撃たれたという目前の事実よりも、それを撃った犯人が残したライフルの薬莢の始末の方が遥かに大事だ、ということになるわね」

「やはりグルだったと言うことか、ダラス警察も、CIAも、FBIも・・!!」

「それを具体的に示す数々の情報を、父は探してきた。例えば、警備に当たったダラス警察の、警察官から当日の様子を詳細に聴いて回ったの」

「それで──────?」

「それによると、まず白バイ隊員は当日の朝、『今日のパレードはCIAが取り仕切っているから警察は出しゃばることが出来ない、そのつもりでいてほしい』と警備隊長から指示されている。また、『何かあった場合はパークランド病院に行くように』という指示までされていて、隊員たちは皆とても不思議に思ったというのよ」

「確かに、それではまるで、パレード中に何かが起こると予告しているようなものだね」

「さらに事件後には真相を調査するためとして、シークレットサービスが白バイ隊を集めて銘々に質問したが、全員が見たとおりのことを答えると、実際に見た事ではなく『このように見えた』と証言するように強要されている。しかしその内容については、どの隊員も決して口を開かない。これは何年経っても変わらないので、よほど強く脅されて口を封じられているということよね」

「うーむ、何ということだ・・・」

「ウォーレン委員会では3発の銃弾が発射されたと断定したけれど、父がやっと入手した白バイ隊の無線交信記録テープ** には、白バイ隊員のヘルメットに付いているマイクがキャッチした銃声が5発聞こえるのよ。しかも、最後の2発はほとんど同時に発射されている。
 オズワルドが使ったと言われている、当時20ドルで通販で買えるようなイタリア製の払い下げライフルでは、たとえ熟練のスナイパーでもその間隔での連射は有り得ないわね」
(編註**:このテープは事件後16年間、誰にも検証できないように封印されていた)

「5発の銃弾が発射されている、というのは?」

「父の調査で分かったことよ。これを見てほしいのだけれど────────」

 ヘレンはケネディ大統領の暗殺現場である、メインストリートの354号線からわざわざ教科書ビルのある交差点に向かって入り、その交差点を急角度で曲がってエルムストリートに入るパレードのルートを示した地図を宏隆に見せた。

「ふーむ、なるほど・・・」

 宏隆は、しばらくの間その地図をまじまじと見ていたが、やがて

「これは、暗殺には最も適した場所と思えるね」

 そう言って、ヘレンのボールペンを取り上げ、そこに何本かの線を引いた。

「最初から教科書ビルばかりが注目されているけど、その隣にあるビルからでも、ほぼ同じ弾道で狙撃が可能だな。いや、却ってその方が撃ちやすいかも知れない。それに、進行方向右手にある丘の茂みは身を隠しながら撃つ絶好のポイントだし、道の前方にある陸橋からも容易に狙える」

「この道は、教科書ビルを通過すると、だんだん下り坂になっていくのよ」

「なら、なおさらのことだ。陸橋からはほぼ正面、撃ち下ろしの状態になるので弾道のドロップ(沈下)を気に掛ける必要もない。ただし、シークレットサービスや警備の警官からは丸見えだから、そこから堂々と撃つことは有り得ないはず。反対に警護のフリをして撃つなら、これほど簡単なことは無いけどね」

「ウォーレン委員会の結論は、5.7秒の間に3発の銃弾が教科書ビル6階に居たオズワルドのライフルから発射され、一発目は大統領の首を貫通、二発目は大統領の頭部に命中、三発目は外れて通行人の頬を掠ったとされているわね」

「ウォーレン委員会の、有名な Magic Bullet(魔法の銃弾)というのは?」

「大統領の背中から首を貫通した弾丸が空中で120度近く方向転換し、前席のコナリー知事の右の背中に再突入してわき腹から飛び出し、さらに再び空中で方向転換して、今度は右腕に入って骨を砕き、手首当たりから飛び出して、またしても方向を変えて知事の左足太腿に入ってようやく止まった、と結論付けたけれど─────誰も信じないわ」

「ははは、そんなバカなことは有り得ないな。銃の所持を認める国で、それを信じる国民なんか一人もいないと思うよ。ところで、ヴィルヌーヴ中佐の見解は?」

「約十秒の間に五発の弾丸が発射され、一発目は教科書ビルから。ただし6階よりも低い階から発射され、ケネディ大統領の背中から首へ撃ち抜かれた。二発目は恐らく右手のグラシィーノール(Grassy Knoll)の丘の茂みから発射、標識の看板を貫いてコナリー知事の手首と足に当たる。三発目は教科書ビルからの狙撃。銃弾はコナリー知事の背中に当たった。四発目はパレード進行方向である前方の陸橋(距離約43m)からの狙撃で、ケネディの右頭部を撃ち抜いた。五発目は教科書ビルの2階から撃たれ、外れて見物人の右顔面を掠った」

「ということは、狙撃犯は複数存在した、というわけだね」

「狙撃犯は少なくとも三人居たことになるわね。三種類の銃で、三人が狙撃した────────これが父が調査した結論よ」

「すごいね、狙撃した銃が三種類だったことまで分かるの?」

「三発目だけが、教科書ビルで発見されたものと同じ、イタリア製 Carcano(カルカノ)ライフル。教科書ビルに遺されたものは日本製の四倍率スコープが付けられていたけれど、本当に凶器として使用された物かどうかは分からないわ。他の四発の銃弾は別の性能の良い軍用ライフルと思われるわね。銃声を科学分析することは今日はそれほど難しくはないのよ。当時とは比べものにならないほど技術が上がっているからね」

「オズワルドが狙撃に使ったというカルカノは、どんなライフルなの?」

「カルカノM91/38はボルトアクション式のライフルで、一発撃つたびに毎回ボルトレバーを上げ、手前に引いて排莢(はいきょう=薬莢の排出)し、再びボルトを前方に押すことで次の弾丸を弾倉から薬室へ送り、ボルトを倒す事で射撃準備が完了、再び照準を見て狙う、という作業を繰り返す、というワケ」

「それは時間が掛かりそうだ。連射に向かない手間のかかるライフルをわざわざ暗殺に使うバカも居ないと思うが・・」

「このライフルは、たぶんヒロタカなら十秒間に三発は撃てるわ。でも毎回照準で狙いを定め直して動く標的を撃つには二発が限度。まして5.7秒に三発は絶対に不可能ね」

「個人的な恨みならともかく、政治的な意図の暗殺は、単独で行われることは有り得ない。狙撃手・観測手・通信手の3名、あるいは狙撃手と観測手兼通信手の、最低でも2名のユニットで構成され、失敗に備えてそれが複数配置されているはずだ。
 ケネディ暗殺事件では、わずか10秒の間に五発の弾丸が発射されている。それは完全にチームプレイを意味している。現地に指揮官がいて、大統領のパレードの様子を逐一観察し、無線で全員に報告しながら、狙撃手との距離を正確に出しつつ、複数ポイントに潜んだ狙撃手に、狙え、撃て、と命じていたはずだ。それに、この時代には小型高性能の無線システムなど無いので、比較的大きなトランシーバーを持った人間たちが現場のフィルムに多く映っているはずだよ」

「まず、”アンブレラマン”、と呼ばれている不思議な人物の存在。当日のダラスは快晴だったのに、黒い傘をさして立っている怪しげな男の姿が映っているわ。
 目撃者によると、その男は大統領の車が近付いてきたときに、傘を開いて頭上に高く掲げて時計回りに回し、ちょうどその時にリムジンが少し速度を落として大統領が狙撃された。すると彼は傘をたたみ、何事もなかったように落ちついてその場を離れて行ったというの。
 さらにアンブレラマンの前方にも一人の男が居て、まるで何かの合図をするように、じっと手を挙げていた・・・」

「すぐ目の前で大統領が撃たれても平然としているのは、それが犯人側の人間だからだね。
いずれにしても、これだけのチームプレイを成功させるには、シークレットサービスや警察にも数多くの協力者が居なければ無理だろうな」

「シークレットサービスは普通、リムジンの後ろに彼らが護衛に立つ台があって、大統領が狙撃されないようにそこに立つわけだけれど、この時そこには誰も居ず、リムジンの横にも誰も居なかった。それどころか、当日大統領警護を命じられたシークレットサービスのメンバーが前夜遅くまで酒を飲んでいたことが発覚し、FBI長官が激怒したと言うわね」

「さて、真犯人は、だれだ──────────?」


                    ( Stay tuned, to the next episode !! )




  *次回、連載小説「龍の道」 第182回の掲載は、8月1日(月)の予定です

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