*第171回 〜 第180回

2016年04月15日

連載小説「龍の道」 第175回




第175回  SURVIVAL (7)



「オーケイ・・ヒロタカは、南北戦争を知ってる?」

「おいおい、いくら歴史&経済オンチのぼくでも、そのくらい知ってるさ!」

「それじゃ、南北戦争が起こった理由は?」

「教科書的な答えだけど、北部と南部では政治・経済・社会に大きな違いがあった。
 南部では黒人奴隷の労働力に依存した綿花のプランテーションが盛んで、欧州の綿工業の発展に伴って、英国を中心とする綿花の輸出が経済を支え、綿花の大農園の経営者たちが実質的に南部を支配していた。南部ではイギリスから工業製品を輸入する相互依存の関係が成立していたので、外国製品の関税を撤廃する自由貿易を望んでいた。
 一方北部では、米英戦争の後で急速な工業化と発展が進んでいた。新たな労働力を広く必要としていたので、奴隷制度とは相容れなかった。商工業を振興させるための関税整備を進め、イギリスを中心とする欧州製の工業製品の輸入よりも産業を育て、自国の優位性を確保するため、貿易を制限する保護貿易の立場を取っていた─────そのような相違から来る対立が大きかったんじゃないかな?」

「すごい、よく知ってるわね!、それじゃ、そのDixieland(ディキシーランド=南部)を代表する有名な物語、と言えば?」

「それはもう、何と言っても "Gone with the Wind(風と共に去りぬ)" に尽きるね。
 あの映画では、南北戦争という ”風” と共に、南部白人たちの貴族文化社会が消え去ってゆく姿が、壮大なスケールで描かれていた」

「There was a land of Cavaliers and Cotton Fields called the Old South.
 Here in this pretty world, Gallantry took its last bow.
 Here was the last ever to be seen of Knights and their Ladies Fair,
 of Master and of Slave.
 Look for it only in books, for it is no more than a dream remembered,
 a Civilization gone with the wind ………

 かつて騎士道の精神が花咲き、綿畑の広がる、南部と呼ばれる土地ありし
 勇ましく最後の弓が取られた、優美なる世界
 最後の奴隷制度のもと、雄々しき騎士たちと、華麗な淑女たちが生きた
 今はただ、はかなき夢の想い出と帰し、歴史として記されるのみ
 麗しき文化、風と共に去りぬ────────」

 ヘレンは遠くを見るように目を細め、朗々と詩を歌い上げた。

「映画の冒頭に流れる詩だね、初めてその映画を観たのは小学校一年生だった。意味もよく分らなかったけど、自己中心的で恐ろしく気の強い、南部の大綿花農園の令嬢スカーレットが、どのような艱難辛苦にも挫けず、南北戦争で焼け野原になっても、かつての黒人奴隷と一緒に綿花畑で泥にまみれて労働し生き抜こうとする、その途轍もない強さがよく印象に残っている─────大きくなって改めて何度も観て、改めてすごい映画だなと思って、南北戦争について図書館に調べに行ったっけ」

「なるほど、それで南北戦争に詳しいわけね?」

「はは・・まあ、そういうコト!」

「南部と北部の対立は、西部開拓と共に、新規に獲得した州を奪い合う形で進み、いわゆるミズーリ協定で北緯36度30分のラインを境に、北部の ”Free State(自由州)” と南部の ”Slave State(奴隷州)” が取り決められた。
 北部では、キリスト教の人道的見地から奴隷制度廃止の声が高かったところを、黒人奴隷の数奇な半生を描いた小説、 ”Uncle Tom's Cabin(アンクルトムの小屋)” が大きな反響を呼んだこともあって、奴隷解放への世論が一気に高まり、奴隷制を擁護する人たちは厳しい批判を浴びせられた。
 そして1860年、奴隷制度の是非をめぐって選挙が行われ、エイブラハム・リンカーンが第16代アメリカ合衆国大統領となった。この結果を不服とした南部はジェファーソン・デイヴィスを大統領とするアメリカ連合国(南部連合)を組織して、北部のアメリカ合衆国から分離独立した。その翌年、南部が北部のサムター要塞を攻撃して、ついに南北戦争の火蓋が切られた───────」

「奴隷制度だけじゃなく、経済政策や貿易政策でも、南北の対立はどんどん深まってきていたわけだね」

「元々リンカーンは奴隷制度には反対していなかったわ。奴隷制の拡大に反対する立場で、南部諸州の奴隷制は認めていたの。南北戦争は奴隷解放のための戦いではなく、南部が合衆国から ”分離独立” することを阻止するためのものだったのよ」

「一般的には、”奴隷解放のための戦い” というイメージが強いけどね」

「リンカーンが奴隷解放という大義名分を手に入れたのは ”奴隷解放宣言” からね。
 これによって、それまで南部を支持していたイギリスやフランスも、一挙にリンカーンを支持する側に回った。国際世論の支持と、ホームステッド法* による西部農民の大きな支持を得て、ついに南北戦争は北軍の勝利に終わったというわけ」

(註*:ホームステッド法=西部の未開発の土地65ヘクタールを無償で払い下げるという、独立自営農民を増やすための自営農地法。1862年リンカーンの署名で発効)

「大統領になったリンカーンが、”アンクルトムの小屋” の作者、ハリエット・ストウをホワイトハウスに招いたことがあって、初対面のリンカーンがいきなり、”貴女がこの大きな戦争を引き起こした小さなレディですね?” ・・と言ったらしい」

「あはは、いかにもユーモア溢れる人柄だったという、リンカーンらしいエピソードね」

「そして、南部連合が降伏した6日後、1865年4月14日金曜日午後10時13分、ワシントンのフォード劇場で、そのリンカーン大統領が暗殺される───────」

「そう、アメリカ史上初の、大統領暗殺事件!!」

「その暗殺は、一体誰によって、何のために行われたのか?」

「一般的には、シェークスピア劇の俳優で南部連合の支持者だったジョン・ブースが南北戦争の結果に不満を持ち、リンカーンを始めグラント将軍など多くの政府高官を殺害する計画を立てていたが、フォード劇場で観劇中の大統領を狙って、後ろの至近距離から小型銃デリンジャーで撃った、とされているわ。
 犯人のブースは、同志のルイス・パウエルに国務省長官の暗殺も命じていた。大統領と副大統領、そして国務長官の三人を暗殺することで合衆国を混乱させ、北部の政治体制を転覆させようとしていた、と言われているけど」

「なるほど。ケネディ暗殺事件のときは、オズワルドが果たして単独犯かどうかを疑われたけれど、リンカーン暗殺には、あまりそんな怪しさは無いのかな?」

「ケネディ暗殺には不審な点が山ほどあるわ───────真犯人もKGB説、カストロ説、CIA説、FBI説、ニクソン説など、じつに数多くの陰謀論説があるけれど、証拠物件の公開は1963年の事件発生から実に66年後の2029年という、あまりにも不自然な規制が掛けられているのよ。なぜか証拠資料の多くが紛失しているし、肝心のオズワルドが逮捕直後に暗殺されてしまったので、もう真相解明は難しいでしょうね」

「でも、リンカーン暗殺には込み入った陰謀論の入る余地がないと?」

「そう、ほとんど誰もが皆、そう考えているけれど─────」

「けれど・・・?」

「実際には、南北戦争というもの自体が、文字どおりの純粋な American Civil War(アメリカの内戦)ではなく、アメリカの分裂と弱体化のために、イギリスによって仕掛けられた戦争なのよ」

「ええっ?・・まさか、そんな!!」

「それは、かつてイギリスの重税に反発して、アメリカが独立戦争を起こした事にも関係するわ。まあ、天下のグレートブリテンに逆らうんだから、良い度胸をしているけどね」

「イギリスは、なぜ植民地のアメリカに重税を課したんだろう?」

「当時のイギリスは常にどこかと戦火を交えている状態が続いていて、巨額の戦費を借りていた ”Governor and Company of the Bank of England”(英国中央銀行)への利子を払いきれず、かといって国内での増税はそれ以上不可能だったので、植民地だったアメリカに重い課税を適用した、というコトよ」

「Bank of England か───── ”Governor” とは雇い主・管理者のこと、”Company” はもとは ”共にパンを食べる者” という意味で、商社・集団・共同出資の会社という言葉になったものだ。早い話が ”英国銀行を管理する商社” という意味だよね」

「そうね、Bank of England というと、いかにも英国政府の銀行という感じがするけど、実際には政府の力が及ばない、”中央銀行” という名の商社ということよね。Bank には、胴元(博打の寺銭を取る者)という含みもあるし・・」

「独立戦争ではグレートブリテンの植民地支配を否定して、アメリカを政治的独立へと導いたわけだね。1776年の独立宣言で13の英国植民地は13の州へと変わり、アメリカは晴れて合衆国となった。初代大統領はジョージ・ワシントン。1783年のパリ条約で、イギリスは正式に植民地アメリカの独立を認めた─────その程度なら知っているけど、それから約80年後に南北戦争を仕掛けたのが、そのイギリスだったとは!」

「ヒロタカが言ったとおり、新興工業が盛んだった北部は産業を保護するために外国製品に対し高い関税をかけていた。そして南部には国内製の製品を売って儲けていた。
 合衆国は自力で工業力を増して、どんどん大きくなってきていた。イギリスはそれに対して強い不満を持っていた。何しろ曾て自分の植民地から独立した連中だから、このまま放っておくと手に負えない大きな国家が誕生してしまう。アメリカがこれ以上大きくならないように、南部を擁護して分裂しておくべきだ─────イギリスはそう考えたんでしょうね」

「南北戦争は奴隷解放のためではなく、合衆国からの ”分離独立を阻止するため” の戦いだと言っていたね。北米大陸にひとつの大きな国を創ろうとしているのを、イギリスに邪魔されていたわけだ────────でも、戦争にかかる費用はどうしたんだろう?、イギリスはもう独立戦争で懲りていたんじゃないのかな?」

「南部連合は、イギリスのロスチャイルド家からお金を借りて、莫大な戦費を調達していたのよ。ロスチャイルドは、何と30%という高い利子を要求したのだそうよ!」

「それじゃ銀行家というよりも高利貸しだな・・それで、北部はどうやって調達したの?」

「北部も同様に、戦争の資金を維持するためにリンカーンが銀行に借りに行ったわ。ところが銀行家たちは24〜36%という、驚くべき高い利子を提示してきた─────」

「そして、結局は南部と同じようにお金を借りた、と?」

「いいえ、リンカーンは南部とは全く異なる方法を取ったのよ」

「おっ、一体何を思いついたのかな?」

「財務省に新しく紙幣を刷らせて、それを戦費にしたの」

「新たに紙幣を刷る?────さっきボクが言ってたことじゃないか!!」

「あはは、リンカーンと意見が一致したわね。この時に新しく造った紙幣は裏側が緑色だったので、今でもドル紙幣は ”Greenback(グリーンバック)” と言われているのよ。
 例えば20ドルのことをトゥエンティ・バックスなんて言って、一般的にはダラー(ドル)よりもバックスと言う方が多いんじゃないかしら?」

「それじゃ、そのグリーンバックスが、合衆国で初めて発行された紙幣ってこと?」

「そう、リンカーンは1862年に法貨条例を制定して通貨を発行し、そして今後はこれを永続的に合衆国の通貨発行システムにすると発表した。当時はまだ中央銀行が設立されておらず、通貨発給権が政府にあったから、政府が自由に通貨を造れたのよ」

「現在の ”FRB(連邦準備銀行)” のシステムとはまるで違っているね。政府が政治的な必要性に応じて自由に通貨を発行するという、よく考えれば何の不思議も無い、至極当然のことをリンカーンは堂々とやった、というわけだ」

「だいぶ経済のウラが分かってきたみたいね────────」

「そうだね、経済システムを誰が握っているのか、と言うことが国家にとって最も重要な問題なんだと思えてくる。そもそも、中央銀行が ”政府の銀行” であって、一体何が悪いのかという疑問が起こってくるよ」

「経済学者や専門家のアドバイザーたちは、政府が通貨を発行するようになると大問題だと声をそろえて主張するんだけれど、誰ひとりその根拠を明確に示せていないのよ」

「曰く、政府がお金を刷るとハイパーインフレになる、とか・・?」

「それは大ウソ。さっき話に出たけど、生産以上のお金を刷ったらインフレになるでしょうけれど、生産性の範囲を超えずにお金を刷れば、反対に経済が活性化していくのは分かりきっているわ。その辺りの見極めをしていく事こそ、政治家の手腕じゃないかしら?」

「─────だけど、イギリスが文句を言って来なかったの?」

「そのとおり!、当時の The Times** の社説に、こんなことが書かれているわ」

 ヘレンはアタッシュケースからファイルを取り出して、宏隆に見せた。

「わぉ、用意がいいんだなぁ。The Times・・ロンドンタイムズのことだね」

(註**:The Times は1785年創刊の世界最古の日刊新聞。ニューヨークタイムズなど他の新聞と区別するため、London Times、Times of London などと呼ばれる)

「入院して時間を持て余すだろうと思って、資料をたくさん持って来たのよ」

「お、そのアタッシュケースは、Zero Halliburton(ゼロハリバートン)?」

「そうよ、父の勧めで買ったの。これを持っていれば爆弾テロに遭遇しても身を護れるし、タイタニックに乗っていても大丈夫だって」

「あはは、でもその通りだよ。シークレットサービスが持つような防弾カバンだと飛行機にも乗れないけれど、ゼロなら過酷な使用にも耐える。ボクが初めて台湾に渡航したときも、そのトランクを持って行った」

「水にも浮くし、クルマで轢いても壊れない。アメリカ大統領が持つ ”Nuclear Football(核のフットボール)” 、核攻撃司令マニュアルの入った、あの重そうな黒いブリーフケースも、ゼロのカバンなのだそうよ」

「いつでも核攻撃ができるようにか、物騒な時代だな・・けれど、このロンドンタイムズの社説は、ぼーっとしている入院患者のアタマにはえらく難解だ」

「オーケー、ヒロタカは資料よりカバンの方に興味があるみたいだから、これは私が要約してあげるわ」

《 新しい紙幣の発行により、アメリカ政府は通貨をコストをかけずに供給することになる。そうなるとアメリカは債務を完済し、債務の無い政府となる。アメリカ政府は商業活動上、必要な全ての通貨を持つことになり、史上類の無い繁栄を謳歌することになって、すべての国の人材も富も、アメリカ合衆国に移動することになる。アメリカは打倒されるべき存在である。そうしなければ、やがてアメリカ政府は地上の全ての国家を破壊するだろう・・ 》

「うーむ・・リンカーンが政府の通貨を発給したことが、イギリスにとって如何に大問題だったかがよく伝わってくる。何と言ってもこれは、ヨーロッパに最も強い影響力を持つ、ロンドンタイムズの社説だからね!」

「それに、タイムズはただの新聞社じゃないわ。リンカーンの時代の経営者はジョン・ウォルター三世で、この社説を書いたのは恐らくジョン・ディレーン主筆。
 この時代は新しい輪転機が開発されて発行部数を大幅に伸ばし、機密情報を収集する能力も、ある意味では英国政府を超えて、”世界の都市には英国大使が二人駐在している” とまで言われていたの。経営者の片腕として能力を発揮していたディレーン主筆の思想は、常に全ての記事に貫かれ、ヨーロッパ全土に影響を及ぼしていたと言われているわ」

「・・大使が二人いるって、どういう意味?」

「女王陛下が派遣した大使と、もう一人はタイムズが派遣した大使────」

「わぉ、そりゃすごい!」

「実際に、イギリス政府は1856年、タイムズの報道によって初めて、クリミア戦争の申し入れをロシアが受諾したことを知ったほどだったらしいわ」

「それは、SIS(英国秘密情報部)も真っ青だね!」

「父からの情報だけど、最近の調査では、リンカーン暗殺の犯人であるジョン・ブースは、南部連合の国務長官だったユダ・ベンジャミン(Judah Philip Benjamin)に雇われていたという事が判明しているそうよ」

「やっぱり、犯人は誰かに雇われていたんだ!・・しかも、南部の国務長官?!」

「ユダ・ベンジャミンは、もとはイギリスのセファルディム(スペイン系ユダヤ人)で、生まれてすぐ両親と共にアメリカに渡り、やがて名高い弁護士となり、さらにルイジアナ州で奴隷を使った大農園を経営して大きな財を得て、南部連邦議会の上院議員から司法長官を経て、国務長官(外務大臣に相当)にまで伸し上がった人よ。
 けれどもリンカーン大統領暗殺後、彼こそが黒幕だという事を合衆国情報部がつきとめ、それを知ったユダはすべての書類を燃やし、偽名でイングランドへ逃亡した。当時アメリカから逃げ出した南部の閣僚で遂にアメリカに戻らなかったのは、このユダだけね。
 イギリスに渡ってからは、ロンドンのロスチャイルド家と深く親交を持ち、第40代首相ベンジャミン・ディズレリーの側近となり、王室顧問弁護士にも任命された・・」

「なるほど、この男が仕組んだ計画だったのか。黒幕でなければ書類を燃やす必要もないよね。それに英国王室も政府もロスチャイルドもユダの英国入りを歓迎し庇護しているんだから、リンカーン暗殺の背後にイギリスが存在したのは、ほぼ確実だろうね」

「そして、リンカーン暗殺の本当の理由も、だんだん見えてくる。
 最も大きな理由は、イギリスの銀行家たちの思惑を裏切り、リンカーンが法定通貨を発行したということでしょうね。南北戦争の後にも、引き続き法定通貨を発行し続けられると、銀行家たちの利益がとんでもなく損なわれてしまうわけだから。
 国際金融家たちは、南北両陣営に戦費を貸し付けることで莫大な利益を得ようとしていたのに、すっかり当てが外れてしまった、というコトよ─────」

「つまり、グリーンバックスは、政府が借金して発行した通貨ではないので、金融家たちはどうあがいてもタッチできない。それが悔しい、許せない、ということ?」

「冴えてるわね、そのとおり。国家の金融を支配するには、戦争によって生じた政府の負債が無くてはならない。政府の負債であれば彼らが自由に支配できるけれど、お金を刷られたらどうにも手が出せない、というワケ」

「でもなあ・・たかが政府が法定通貨を造ったくらいで、イギリスと国際金融家が組んで、アメリカ大統領の暗殺までやる、というのは普通は考え難いよね」

「だから、インボーロン、なんて言われるのよね・・OK!、疑問ならもう一度タイムズの社説を読んであげましょうか?」

「そうか─────社説には、”債務の無い政府が、類のない繁栄をすることになる” と書いてあったね。”そのような国は打倒されるべきだ” と。つまりアメリカ政府が『コストをかけずに通貨を供給すること』が気に入らないという事だ。自分たちの利益が無いところで世界が動くのは誤りだ、と言いたいわけだね?」

「Bingo!、現在のアメリカは ”Federal Reserve Bank(FRB=連邦準備銀行)” という、その名前からして奇妙で意味不明な民間金融資本100%の ”中央銀行” によって、ドルが発行されるたびに国民がその利子を払い続けている。つまり、これこそが『コストをかけて通貨を供給すること』なのよね!、そして、その理不尽なことが1913年以来ずっと行われているのに、国民は誰ひとりとして文句を言わない─────」

「法定通貨になりさえすれば、政府はその時々に国民の経済活動に応じて通貨を発行でき、結果として国家は繁栄することになるのになぁ・・問題はなぜ自国の通貨発行のために国民が利子を払う必要があるのか、という事だね。それに疑問を持つ人がもっと増えるべきだ。
民主主義が聞いて呆れるね。日本銀行を政府から独立した法人にさせて、資本の半分を所有している民間人というのも、実は彼ら国際金融家たちなんだろうか?」

「日本の銀行システムについては、またゆっくり勉強することにして───────
 リンカーン大統領が暗殺された1865年4月14日の金曜日は、キリスト教の Good Friday(聖金曜日=キリストの受難と死を記念する日)に当たっていた。これも単なる偶然とは思えないわね。シェイクスピアの役者で南部同盟のシンパという素人が、そこまで凝ったことをするかしら?」

「考え難いね。軍人やその道のプロならともかく・・背後に大きな黒幕が居て、入念に日を選んで、日付けにまで意味深長なメッセージを含ませた上で暗殺されたのだろうな。
・・ところで、リンカーンが暗殺されてからの金融家たちの動きは?」

「やはり暗殺の後には、中央銀行設立に向けて大きな動きがあったわ」

「おお、邪魔者は始末できたから、いよいよ本格的に金融家たちが動き始めたんだね!
そのあたりのことを、詳しく聞きたいな────────」



                    ( Stay tuned, to the next episode !! )





  *次回、連載小説「龍の道」 第176回の掲載は、5月1日(日)の予定です

taka_kasuga at 21:08コメント(27) この記事をクリップ!

2016年04月01日

連載小説「龍の道」 第174回




第174回  SURVIVAL (6)



「ヒロタカ!─────無事だったのね、よかった!!」

 ヘレンが今にも泣きそうな顔をして、ベッドのそばに来て抱きついた。

「ありがとう、見舞いに来てもらうほどの事じゃないんだけどね」

 デッキチェアのように、斜めにベッドを起こして靠(もた)れ、悠々と窓の雪景色を眺めながら朝の珈琲を飲んでいた宏隆は、まるで週末の神戸の自宅で寛いでいるような、のんびりした顔をしている。

「また暢気なことを言って・・凍えた川に落ちて、心臓マヒで死ぬところだったクセに!」

「あはは、まあ、ちょっとしたアセティシズム(苦行)のようなものだね」

「まったくもう!、それほど大変な目に遭って、どうしてそんなに平然としていられるのかしら?、ドクターは最低でも2週間の安静が必要だと言ってるわよ」

「もう平気だよ、まだ検査が残ってるんで、仕方なくこんな所に居るけれど」

「やれやれ・・この際、ついでに色々と診て貰うといいわよ。その頑固なアタマの中も、じっくり検査して貰ったらどう?」

「ははは、確かに─────だけど、病院のベッドでノンビリしている場合じゃない。こんな事までされちゃぁ、流石にもう黙ってはいられない」

「一緒に居れば、少し何かの対応ができたかもしれなかったけど。残念なことに、私は学年が違うので、同じ訓練に出られることは滅多にないから・・」

「いや、あれは誰も何もできないよ─────あのとき、川を渡る前から、誰かに観られているような気がしたんだ。どこか高い所から、ずっと誰かに監視されているような、そんな感じがして、イヤな予感がしていた」

「やっぱり、今までと同じように、キャンベル曹長とヤンの仕業なのかしら?」

「かもしれない。だけど、ぼくの命を狙うんだったら、こんな手の込んだ嫌がらせをせず、もっと手っ取り早い方法がいくらでもあるはずだが」

「だったら、どうしてそうしないのか、というところが疑問ね・・」

「そうだ、わざと生殺しにして喜んでいるような、そんな悪意さえ感じられる」

「いつか、パパが来て話してくれた時には、おそらくヒロタカの身に起こっていることは、 False Flag Operations(フォールス・フラッグ・オペレーション= ”偽の旗” 作戦)だと言っていたわ」

「ぼくもずっとその事を考えていた。もしそうなら、ぼくをターゲットにしている奴らが、この一連の事件が北朝鮮絡みだと、そう思わせたい理由は一体何だろうか、ってね」

「こうなるともう、嫌がらせのレベルを超えて殺人未遂事件になるわね。そして、もし北朝鮮が動いているのでなければ、他に雇い主がいるということね」

「そう、キャンベル曹長やヤンも、彼らの依頼人が北朝鮮だと思い込まされているだけなのかもしれない、という話だったが・・」

「それについては、父が詳しく調査を始めているはずよ。ヒロタカのお父様とも情報交換すると言っていたし。お父様のビジネスでも ”日中国交正常化” 以来、不可解な事が多く起こっていると言うしね」

「つまり、個人をどうしようという話ではなく、政治がらみ、経済がらみ、という事かな。日本の資産家を巻き込んだ計画だと、あのとき言ってたね・・・そうそう、経済について、ヘレンから教えてもらうと良いとヴィルヌーヴ中佐に言われてたんだっけ」

「憶えていたのね。そう、それもただの経済学ではなくて、世界を動かしているファイナンシング(Financing=金融・財政学)についてよ!」

「金融、つまり ”お金の流れ” か・・ぼくの苦手な分野だな」

「世界を知るには、それが必要ね────────世界の歴史は、必ずしも国家単位で動いているものでは無いから。私たちは、教科書に書かれている通りに世界の歴史を観てしまっているけれど、じつは国家単位の意向の絡み合いで世界史が作られてきたわけではないのよ」

「ふぅん、世界の歴史とお金の流れが、何か関係があるってワケ?」

「関係があるどころじゃないわ、国家を運営するにも、戦争をするにも、莫大な資金が必要でしょ。その資金をどこから調達したか、誰が何のために出資したのか・・それを探っていかなくては、本当の歴史は見えてこないのよ」

「へぇー、そんな話、初めて聞いたなぁ・・」

「まったく、ほんとに暢気なんだから。これだからプレッピー(preppy=おぼっちゃま)は駄目ねぇ!」

「ムッ・・だって、武術修行に明け暮れる青春を送ってきたんだから、経済なんか学んでる暇なんかないよ。特に今なんか、経済学部でも文学部でもないのはモチロン、体育学部ですらない、言わば ”軍事学部” なんだから、なおさらだね」

「あはは、ただケンカに明け暮れてたんじゃないの?、まあ、これから学べばいいから安心しなさいよ─────そもそも、歴史というのはすべて、”金融=お金の流れ” で作られてきたと言えるのよ」

「むむぅ・・ケーザイ門外漢の初心者には、ちと分かりやすく言って欲しいな」

「たとえば、不思議なことに、世界中の正統派と言われる政治学者や歴史学者は、歴史の中の ”カネの流れ=金融” について、誰ひとりと言って良いほど詳しい研究をしていない。
 彼らが金融について学んでいない理由は、世界史研究において非常に重要なポイントとなる金融の側面について書かれた専門書が、この世にほとんど存在していないからなのよ」

「ふむ。確かにそれは不思議だな・・でも、どうして?」

「理由はとてもシンプルよ。本を出版するにもお金が要るでしょ、そのお金はどこから出てくるのか?・・それに、どれほど素晴らしい研究であっても、出版社がその内容を認めてくれなければ出版されることもない─────」

「・・と言うことはつまり、世界史における ”金融の側面” を書かれては不都合な人間たちがいて、その人たちが出版の可否を左右するような力まで持っているってこと?」

「ふむ、金銭オンチのプレッピーにしては物分かりが良いわね。それに、金融面について、本に書かれて困るのは、当然ながら金融関係の人間だってコトよ」

「でも、金融界が政治を動かしているなんて、ちょっと考えにくいな。そもそも人間って、そんなにお金を第一に考える動物なんだろうか?」

「人間が元々そうなのじゃなくって、ごく一部の人間がそうなのよ」

「むぅ・・・」

「分かりやすい例を挙げましょうか。ヒロタカは戦争はどうして起こると思う?」

「そりゃぁ、国家間の利害得失が原因でしょ。ドイツの国益とイギリスの国益が衝突すれば両国で争いが起こるのは当り前だし、戦争は国家の利益の衝突で起こるに決まってるよ」

「それは一般人のごく常識的な回答、普通の人は皆そう信じ込まされてきているわね」

「それじゃ、どうやって戦争が起こるっていうの?」

「確かに国益が衝突して戦争が起こることもあるわ。けれど、常にそうとは限らない。
 実際に、近代に起こった戦争は国家間の対立軸だけでは解けないものがたくさんあって、国益絡みではなく、戦争を起こすことで莫大な利益を得る者たちによって、巧みに国同士がコントロールされて起っているものがほとんどなのよ」

「それじゃ戦争は、誰かの思惑によって、誘導されて起こってきた、と?」

「そのとおり。教科書的な世界史観を持っていると、どうしても見落としてしまう重要なものがあるのよ」

「その重要なものって、いったい何なの?」

「この世界には ”国家意識” を持たない人たちが居る、ということ。そして、その人たちは非常に金融の操作に優れていて、自分たちが莫大な利益と絶大な権力を得るために、金融という手段を使って巧みに国際社会を操り、すべてを支配しようとしているのよ」

「ええっ、そんなことが?・・本当にそんなことがあるの?」

「残念ながら、もうだいぶ以前から着々とその力をつけてどんどん成長してきているわね。大小の戦争の度に、彼らは富と力をどんどん増やしてきた─────」

「おいおい・・それって小説か漫画か、007に出てくる悪の秘密組織スペクターみたいに、ちょっと怪しげな ”陰謀論” の世界の話みたいに聞こえるけど?」

「その ”陰謀論” という言葉自体も、戦争を起こしては利益を得てきた人間によって創られたものと言えるわね。何でも陰謀論にしてしまえば、誰もそれを真実だとは思わないから、むしろ好都合─────UFO、ロズウェル、宇宙人、アポロ計画、ケネディ暗殺、世界恐慌、ニクソンショック、et cetera・・・」

「うーん・・」

「そうそう、007のスペクターの首領プロフェルドだって、イアンフレミングの原作では、株取引で大儲けした資金で独自のスパイ組織をつくり、第二次大戦中は連合国と枢軸国の両陣営に情報を得ることで大成功し、世界征服を企む大犯罪組織を作り上げたということね。
 まるでどこかに、そのモデルが居るような書き方だけど───────ともかく問題は、誰が戦争を望み、誰が戦争によって利益を得てきたか、ということ。陰謀論として笑い飛ばすには、世界の現状は余りにも、それで解けるリアリティー(真実性)に満ちているのよ」

「じゃ、数々の陰謀論も、リアリティだと?」

「そもそも ”陰謀論” という言葉の発信地はアメリカよ。それは、知的な人が取り合うべきものでない、巷間(ちまた)で面白おかしく取り沙汰される信憑性の乏しいもの、とされてきているけれど、元々は Conspiracy Theory(共同謀議理論)。正確には ”権力者の" 共同謀議理論というべきかな。
 その始まりは1963年、ケネディ大統領の暗殺をきっかけに、アメリカの民主政治が一部の権力者たちに操られているのではないか、という疑問から始まって、そのような考え方が徐々に広まっていったのよ。それがいつの間にか、取るに足らない興味本位の説と定義されてしまっているけどね」

「そんな人間たちが暗躍していると仮定して、それを証明することはできるの?」

「今はようやく、徐々にだけれど、それらが明らかに彼らの仕組んだものだと、証明できつつあるわ。世界中で、ようやくそれが本格的に研究され始めているの」

「たとえば、どんな・・?」

「日本も、このアメリカも、ヨーロッパも含めて、これまでに起こった大きな戦争は、愛国主義者、自国を想うナショナリストたちが引き起こしたとされているけれど、ちょっと視点を変えて、よくそれを観てみれば、第一次大戦の後には国際連盟ができ、第二次世界大戦の後には国際連合ができている。つまり大きな戦争の後には、必ず ”世界を統一” しようとするような動きが見られるのよ」

「・・世界を、統一する?」

「一昨年の1973年にも、今までのフランス、西ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクの六カ国に加えて、イギリス、アイルランド、デンマークが欧州諸共同体に加盟したでしょ?、今後も加盟国はどんどん増えて、ヨーロッパの共同体はどんどん巨きくなって行くに違いないわ」

「それって、ヨーロッパの経済発展上、結構なことじゃないの?」

「ちょっと見はね─────欧州全体が寄り添って協力し合い、経済を復興して行こうとしているように見えるし、実際にそれ迄にはなかったメリットもたくさん在る。でも問題は、それらヨーロッパ各国の ”上” に、この共同体があるということ」

「共同体なんだから、そういうカタチになるのは仕方がないんじゃ・・?」

「各国の ”上位” にその共同体が位置するという事は、それによって各国の主権が制限され、加盟国には通貨の発給権も関税の自主設定権も無いということ。これが広がってより大きなムーブメントになれば、今後のヨーロッパには ”国境のない国際主義” という、新しい構図が生まれることになるのよ。そのうちきっと、通貨も統一されるようになるでしょうね」

「でも、国境がなくなって、誰もが平和に、貧富の差なく、安全快適に生活が出来るんだったら、それはとても結構なコトだと思えるけどな・・」

「失礼だけど、それはとても単純な人間の言うセリフね!」

「むっ・・なんだか、宗少尉みたいな言い方をするなぁ」

「まあ聴きなさい────その共同体では、いかに ”経済統合” を進めていくかが最重要課題となっているのよ。加盟国間における政策や法制度の違いが貿易の自由化を妨げ、国際市場での競争の障害となっているとして、欧州経済共同体での ”単一市場” を目指す構想が、すでに持ち上がっているの。単一市場には多くのメリットがあると言いたいワケね」

「タンイツシジョー・・?」

「国際通商市場には、共同市場(Common Market)と単一市場(Single Market)があって、共同市場は加盟国間の経済的な国境を取り除き、自由な貿易を認め、資本や労働など、生産要素の移動なども自由に認める・・というもの。
 共同市場をより発展させたものとする単一市場では、市場統合に必要な各国の法制の調和を図り、労働分担が進んだ結果、生産性が向上する。各国間接税の接近が達成され、加盟国内の中小零細企業の起業や融資の獲得、容易な市場参入制度、生産要素の移転の自由などが保障されたために、さらに生産性が向上する・・というものなの」

「むむぅ・・そういっぺんに専門用語をずらずら並べられると、本当に頭痛がしてくるな。でも、物事には必ずデメリットもあるはずだよね?」

「そのとおりよ。単一市場に移行すると国際的な競争が増加するので、そのために国内経済の様々な部門で悪影響が生じてくるわね。政府から市場の保護や補助金を受けて存続できていた企業は、加盟国内の業績の良い同業他社と、生き残りを懸けた競争を余儀なくされることになるわ。失敗すれば倒産して社員たちが失業し、より強い他国の企業が生き残ることになる、というワケ」

「うーん、入院検査中のアタマだと、意味不明、理解不能の内容が多いな・・病院のマズい珈琲を一杯飲んだくらいじゃ、とてもついていけない。凍えた川で泳ぐ方がよっぽど楽に思えてくる」

「それじゃ、ちょっと話題を変えましょうか────────」

「どんな話題?」

「ヒロタカの好きそうな、”暗殺” なんかどう?」

「どうしてボクが、暗殺を好きなんだよ!」

「はは、秘密結社のスパイなんだから、暗殺くらいでビビってたらモノにならないわよ!」

「ぼくはスパイじゃないってば!」

「それじゃ、話すのをやめる?」

「い、いや・・聴いてみたいけど」

「ほら、ごらんなさい、興味があるンじゃないの!」

「そりゃあ、この国は大統領が暗殺されるような物騒なところだからね、誰だって興味はありますよ。まあ日本でも、山田長政や坂本龍馬、伊藤博文なんかも暗殺されたけど」

「それじゃぁ、暗殺の話をしましょう────────まず、日本でもアメリカでも、どこの国でも ”中央銀行” というものがあって、通貨を発給しているわよね」

「あたり前田のクラッカーだよ。物々交換や石貨の時代から、通貨は価値の尺度や支払い、交換手段とか財や権力の蓄積に使われてきたんだから・・・でも、暗殺と銀行が、いったい何の関係があるっての?」

「クラッカー?・・まあ、最後まで話を聞いてよ。それじゃ各国の中央銀行は、誰が、何のために経営しているか知ってる?」

「誰って、そりゃ中央銀行ってのは ”通貨の番人” と言われるくらいだから、政府が管理してその国で使われる銀行券、つまり通貨や紙幣を発行している所に決まってるじゃないの」

「あはは、残念でした!、やっぱりケーザイにウトいお坊ちゃまは、勉強不足ねぇ〜」

「・・え、違うのかい?」

「世界中にある中央銀行のほとんどは、民間銀行か、民間の資金が入った銀行なのよ!」

「み、民間銀行─────?」

「そう、あなたの国の ”日本銀行(ニチギン)” は銀行法に基づく大蔵省所轄の認可法人で、公的資本と民間資本によって存立し、政府が資本の55%、残り45%を政府以外が出資して成立している。出資者には一般の株式に相当する出資証券が発行されているのよ」

「ああ、そう言えば・・かつて習ったような記憶が、かすかに・・・」

「でも、誰でも不思議に思うわよね。そもそも民間の中央銀行というものが必要なのか?、中央銀行が政府の銀行であって、何がいけないというのか?、これは世界七不思議のひとつに挙げるべき、大変なミステリーよ!!」

「えーっと・・たしか、政府が税収不足になると、国債を発行して借金をするよね」

「あら、そんなコトを知ってたの、偉いわね〜!」

「ば、馬鹿にすんなよ、ボクだってそんなに経済の成績は悪くなかったんだ」

「けれど、ニチギンの半分が民間出資だって、知らなかったわよネ!」

「くっ・・ちょっと忘れてただけだよ。ともかく、その場合、多額の国債発行はキケンだと議論されるのが普通なんだよね」

「そのとおりよ」

「でも、それがずっと疑問だったんだ。よく考えたら、政府が負債を解消するには、政府が通貨を印刷すれば良いだけの話じゃないのか、って思えるんだよ」

「すごいっ!、21世紀に通用する ”経済通” のスパイになれるわよ!」

「でも、そこで政府が通貨を発給すると、ハイパーインフレーションになってしまう、というのが経済界の常識らしい」

「もちろん、生産以上のお金を刷ったらインフレになるのは当り前。でも、生産性の範囲を超えずにお金を刷れば、反対に経済が活性化していくはずよ。その辺りを政府がきちんと見極めて、政府の信用で通貨を発給する、これが本来の、経済のあるべき姿でしょうね」

「けれども、僕たちは ”民間銀行” が発給した通貨を、公的なものだと思い込んで、なんの疑問もなく使っている─────」

「イザという時に政府が通貨を印刷できないようなシステムの中で、民間業者が独占的に発効した紙切れが流通して、それを国民がありがたく使っているのだから、常識的に考えるとおかしな話よね」

「アメリカでは、その辺りはどうなっているの?」

「アメリカでは、紙幣の発行は連邦政府が FRB(Federal Reserve Bank=連邦準備銀行)から借金をする形で行われているのよ。借金だから利子がつくわね。要するに、紙幣を発行するたびに、国民の税金から民間銀行に多額の利子が支払われるということ」

「国から利子を取る・・?」

「Federal(連邦)と名前が付いているから、つい国民は、連邦政府の機関であるかのようにイメージしてしまうけれど、 FRB(連邦準備銀行)の株式は民間金融機関が所有していて、連邦議会による監査なども一切行われていないのよ」

「アメリカ合衆国政府は、連邦準備銀行の株式を持っていないの?」

「政府は FRBの株式を一切所有していないわ。管轄される個別の金融機関が株式所有義務を負い、個人や非金融機関が株式を所有することもできない─────まあ、銀行は利子を取ることによって業務が成立するのだろうけれど、よくよく考えてみると、利子を付けるというのもおかしな話よね?」

「そうだね、国家のために作られた民間銀行が、国から利子を取るっていうのは、どういうコトなんだろうか?──────もともと通貨というのは物々交換から始まった。つまり、通貨のシステムは、単なる交換手段に過ぎなかったはずだ。そこに利子を付けるという考え方、そのシステムは、いったいどこの誰が考えついたんだろうか?」

「それはね、国家の ”通貨の発給権” を握ることこそ、民族や国境の壁を超えて人間を支配できることだ、と考えたアタマの良い連中よ──────その連中こそが、銀行というシステムを創った張本人。現在のように、本来の交換手段という役割で通貨が経済を支えているのではなく、通貨自体で経済をはかり、まるで通貨そのものが経済の目的のようになってしまっているのは、すべてその考え方から始まったものかもしれないわ」

「ううむ、世界が、そんなことになっているとは────────」

「そして、ここでようやく ”暗殺” の話になってくるのよ」

「よし、姿勢を正して拝聴しましょう」



                    ( Stay tuned, to the next episode !! )





  *次回、連載小説「龍の道」 第175回の掲載は、4月15日(金)の予定です

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2016年03月15日

連載小説「龍の道」 第173回




第173回  SURVIVAL (5)



 ミシリ・・・と、不気味な音がして、足もとの氷が少しひび割れてへこんだ。

「おっとっと・・危ない!、危ないぞ!」

「気をつけろよ!、俺たちもカトーの二の舞になってしまう!」

「・・お、おう!」

 大人の体重を支えるには、氷の厚さが最低でも8センチは必要だ。
 これがもし湖であれば、この気温なら充分な厚さがあるのだろうが、あいにくこの川は冬でも水量が豊富で、氷の厚さが一定でないことに加えて、水面と氷の間に所々隙間ができている。重い荷物を背負った多くの人間が通った後でもあり、荷重の疲労で氷面のそこら中が軋(きし)んできている。やはり強度的にも、かなり脆くなっていたのだ。

 そこへもってきて、さっきの爆発したような大きな衝撃で、まるで信州諏訪湖の御神渡り(おみわたり)のように、一瞬で氷に亀裂が走り、同時に下流側の氷が大きく割れて崩れ、一瞬で宏隆が川に呑み込まれていったのである。

 だが、その一刻を争う状況のなかで、懸命に捜索を続けていると────────

「お、おい・・何だ、あれは?」

「おおっ・・・!?」

 誰かがそう言い、それを目にした誰もが、吾が眼を疑ってその場に立ち尽した。

 さっき宏隆が落ちた氷の割れ目から、小さく蛇行した川を20メートルほど下った辺りの、雪を被った大きな岩の向こうに、まるで類人猿か、雪男のような、得体の知れない何ものかが、足もとの雪を盛んに搔き上げながら、狂乱して踊っている・・・

 そんな光景が、懸命に宏隆を捜索している者たちの眼に、突然に飛び込んできたのだ。

「むぅ・・真っ白だが、たぶん人間だとは思う・・」

「獣みたいに、すっ裸じゃないか!」

「この寒空の下で、なぜ素っ裸で狂ったように踊っているんだ?」

「そもそも、あれは人間か・・?」

「モノノケの類いかもしれないぞ」

「イエティ(雪男)が住んでるのは、このアラスカだったか?」

「そんなもの居るもんか、ただの妄想だろ」

「いや、ロシアやヒマラヤにイエティが居る確率は95%だと、権威ある学会で正式に発表されたばかりだ」

「あいつが、そのイエティか?」

「よし、俺がライフルで威嚇射撃してみる────────」

「よせよ、銃を下ろせ、もし人間だったらどうするんだ!」

 人は誰も、自分の常識で測れないものに触れたときには、何も為す術がない。思考回路が正常には働かず、それがどのような事であるかを認識するまでには、かなりの時間を要するものである。

「か、カトー!!・・お前たち、何をボーッとしている、あれはカトーだ!」

 初めにそう言ったのは、一緒に捜索をしていた訓練教官であった。

「か・・・カトー?」

「そうだ、分からないのか、あれはカトーだ!!」

「カトーだって?・・あの裸の、白い猿みたいなヤツが?」

「ええい、急がんかぁ!、馬鹿を言うヒマがあったら早く行って助けるんだっ!!」

「イ、イエッサー!!」

 教官の怒鳴り声に、皆がようやく正気に返ったように、その狂ったように踊っている人間のところへ急ぎ、すぐに教官がホイッスルを吹き鳴らして、宏隆の発見を他の者に伝えた。

 慌てるほどに、氷に足を取られて思うように進めないが、やがて近づくにつれて、それが確かに宏隆であることが、誰の目にも明らかになってくる。

 けれども、仲間たちがその姿を、猿や物の怪と見紛うのも無理はない。
 素っ裸のまま、「ウォオオオオーッッ・・!」と、人間らしからぬ声で叫びながら、訓練のように手を挙げて飛び跳ね、さらにその場で腿を挙げ疾走する格好をしては、また急にしゃがみ込み、氷上に積もった雪を、水垢離(みずごり)でもするように体中に浴びせかけ、懸命にこすりつける、ということを繰り返しているのである。

「お、おい・・カトー!?」

 恐る恐る近づいて行くが、さっきライフルを構えた者は、銃口こそ向けていないが、まだそれを胸元に抱えたままだ。

「そこに居るのは、カトーか?」

「あ・・ああ・・そうだ・・・・」

「おお、助かったんだな!、良かった、無事でよかった!!」

「しかし、お前、そんな格好で、いったい何を─────?」

「・・ひ、火だ・・・火は熾きているか?!」

 凍えて口がよく回らないのか、よく聴き取れないが、確かにそう言った。
 真っ青な顔と唇が、水の中が如何に冷たかったかを物語っている。

「おう、火は向こう岸に用意されている、自分で歩けるか?」

「・・だ、大丈夫だ─────!」

 短くそう言うと、急いで足もとのバックパックから靴下を出して履き、その格好のまま銃とバッグを肩に掛け、手にブーツをぶら提げ、岸辺の火を目指してヨタヨタと小走りに歩き始め、皆も宏隆をかばうように一緒に走って行く。
 凍えた体で、走る姿も不格好に見えるが、ほどなく岸にたどり着き、アルバのすぐ横へ、火にかじり付くように崩れ込んだ。

「ヒロタカ!・・・無事だったのね、ヒロタカ!!」

 アルバが抱きついて、ぽろぽろと嬉し涙を流すが、

「で、でも・・なんて格好なの・・・?」

 ふとそれに気づいて、思わず目を背けた。

「・・あ、アルバ、無事だったんだな・・よ、よかった!」

 まだ喘(あえ)ぐほど息が切れて、ろくに言葉もしゃべれない。
 女性兵士たちが、震えている宏隆の肩に厚いオリーブ色の毛布をかけ、取り囲むように体を寄せ、背中を擦って温めてやる。こんな時には、人の体温ほど温かいものは無い。

 やがて、さっきの教官もやってきて、

「カトー、大したもんだな、お前は・・・他の者なら、きっと助からなかっただろう」

 火を抱くように暖を取っている宏隆を、しげしげと眺めて言った。

「気温もだいぶ下がってきた。体が乾いたらすぐに服を着るんだ─────若いレディたちの前でもあることだし、な・・」

「あ・・イ、イエス・・イエッサー!」

 言われてようやく、自分の格好に気づき、慌てて防水バッグに入った衣類を取り出した。ハワードが自分のコマンドセーターを脱いで宏隆に着せてやる。

「ありがとう、ハワード」

「ヘイ、無事でよかったな!」

 ハワードが宏隆の肩をポンと叩いて、笑った。
 大きな薪が次々と火に加えられ、見るうちに炎が大きくなる。

「さっきの行動も見事だった。周りからは、かなり奇妙な光景に見えただろうが・・」

 その暖かな火を囲みながら、教官が笑って言う。
 まだ宏隆の可笑しな格好が目に焼き付いているので、皆がどっと笑った。

「君たちもよく聞いておけ────────もし冷たい水に落ちて、すぐに体を拭くものが無かったら、そこらの雪を体中に掛けるのが正しい。細かいパウダースノーは素早く水分を吸収してタオルの役割をしてくれる。雪の中を転げ回ってもいい。水から上がってすぐに対処をしなければ、体温が奪われ、危険な状態に陥る。冷えた血液が心臓に流れ込めば、心臓はすぐに止まってしまうのだ。
 水分をきちんと取り去って火にあたれば、体は効率よく温まってくる。濡れた服を着たままや、生乾きでは体に付着した水分がだんだん凍って、低体温症になる。
 だが、そんなテクニックはROTCの訓練レベルでは教えていない。そんなことを知っている者は、シベリアや北朝鮮といった寒冷地への出動が予定される、ネイビーシールズなどの特殊部隊くらいのものだ」

「──────────────」

 皆がシーンとした。
 宏隆は、そ知らぬ顔をして背中を丸め、縮こまるように火にあたっている。

「バディを助けるために、自分の腰のロープを切った行為も大したものだ。自分の重さでアルバまで水中に引きずり込まれると判断したのだろうが、決して誰にでも咄嗟に出来るものではない」

「けれど、あの冷たい水に落ちてよく助かったな。どうやって上がって来られたんだ?」

 ハワードが宏隆に訊ねた。

 アルバが温かい紅茶をくれたおかげか、ようやく身体の震えも収まって、呼吸も穏やかになり、青ざめていた顔色に少し紅みがもどってきている。

「よく覚えていない、ただ夢中だった・・運が良かったんだよ」

「いや、いくら夢中でやっても、運だけでは決して助かるものではない───────」

 厳しい表情をして、教官が皆の顔を見渡した。

「君たちも知っているだろうが、マイナス20度以下の気温で冷たい水に落ちれば、脳がパニックを起こし、瞬時に呼吸困難になる。普通ならわずか数秒でショック状態に陥り、血流が早まり、一瞬で脈拍が200以上に上がって、窒息感に襲われ、心臓が停止する危機が刻々と迫る。そして、余りの水の冷たさに、どんどん血行が悪くなり、体中の筋肉が固まり始め、意識を失い、やがて間もなく心臓が停止するのだ」

「そう言えば、心臓も筋肉だったよな・・」

 皆がそう言って顔を見合わせた。

「それらを最小限に防ぎ、無事に生還するためには、筋肉が極度に緊張しないよう、過呼吸にならぬよう、意識的に自分をコントロールできるだけの強靭な精神力と緻密な身体能力が必要になる」

「軍隊の訓練を受ければ、そんなことが咄嗟にできるようになるんでしょうか?」

 ハワードが神妙な顔をして教官に訊ねた。

「いや、相当な訓練を積んでいなければ、まず無理だろうな。この私も、かつてベトナムの Ap-Bac*(アプバク)に赴いたヘリボーン特殊部隊だったが、もしカトーと同じ状況に立たされたら、こうして無事に火に当たれたかどうかは分からない」

 (註*:Ap Bac(Battle of Ap Bac=アプバクの戦闘)は、1963年1月に南ベトナム軍とベトコンの間で起った戦闘。米軍のヘリ5機が撃墜、9機に損害が与えられ、応援に駆けつけたM113装甲車も3両破壊された。2,000人の米兵がわずか200人のベトコンに敗北した戦闘であり、これを機にベトナム戦争に米軍が本格投入された)

「ワォ・・・・!」

 落水してからの宏隆の行動が、かなり高度なものであることを知って、皆が驚いた。

 そして、この教官がベトナム戦争の特殊部隊上がりという事にも驚かされた。
 教官の胸のエンブレムには、EVANS(エヴァンス)と書かれている。
 階級章は2LT(Second Lieutenant=少尉)─────つまり、この人こそが、大学の講義でも時おり話に出てくる歴戦の勇者、Arthur Evans(アーサー・エヴァンス)少尉その人なのだと、ようやく誰もが思い知ったのである。


「それじゃ、なぜカトーは助かったんですか?」

「まず、アルバを助けるために、命綱であるバディラインをナイフで切った。もう後戻りは出来ない・・しかし、寒さでどんどん体内の酸素が奪われていく。極端に低い水温では涙や目の粘液まで凍って目が開けられなくなる。眼だけじゃない、その冷たさに、手も足も、指の感覚も、日常の全ての感覚がどんどん奪われていくのだ。
 だが運良く、今の季節は川の流れが緩やかだ。濡れても体温が奪われにくい軍服を着ていることも幸いしただろう。落ちてから数十メートルをゆっくり流されながら、時おり水と氷の間の空気を吸い、できるだけ氷の薄いところを見つけると、ナイフで割って上がり、すぐにビショ濡れの服を脱いで、体中に粉雪を掛けて水分を飛ばして体を乾かした。もちろん自分より先に、着替えや食料の入ったバックパックやライフルを水中から放り上げることも忘れなかった」

「な、なんて奴だ・・・」

「まるで敵地から脱出する、特殊部隊の兵士みたいだな」

「・・でも、どうやって水の中から氷の薄いところが分かるのですか?」

 ひとりの兵士が教官に訊ねた。

「水中から見れば、より明るいところが氷の薄い個所だ、そこが脱出ポイントになる」

「あ、なるほど・・」

「おそらくカトーは、なかなかアルバが引き上げられないのを見ながら、皆が立っている足もとの氷が割れそうな事に気づいた。自分がロープで繫がっているために、アルバを助けられないのだと理解して、ここで大勢が落水すればきっと犠牲者が出ると思った。
 瞬時にそう判断して、腰のロープを切ってアルバを無事に引き上げさせ、自分はわざと流されることで、この状況から脱出する機会を伺おうとしたのだ。
 だが、助かるための時間は非常に短く限られている。あとは勇気と、強靭な意識だけがものを言う────────どうだ、私の推理は間違っているかな、ソルジャー*・カトー?」

(註*:ソルジャー=Soldier とは兵士・軍人のことで、上官が兵卒を呼ぶ際に、士気を高めたり、一兵卒を戦士・軍人として尊重する意味を込めて使われる。日本語でも、上官からただ加藤と呼ばれるのと、加藤隊員、と呼ばれることの違いのようなものである)

「・・・・・・・・」

「す、すごい・・・!!」

 黙りこくっている宏隆の前で、皆が顔を見合わせた。

「だが、自分を冷静に見守れる厳しい訓練をしてきていなければ、決してこんな真似はできない。訓練での優れた射撃の腕といい、教官を倒せるほどの格闘の腕といい、水から上がってからも、常に手指を動かし続けていることと言い───────カトー、お前はここ以外の所でも、かなり特殊な訓練を積んできているな?!」

 エヴァンス少尉は、この訓練センターの教官として、兵士たちの成績をすべて把握している。宏隆が何をやっても優秀な成績であることも、この訓練に来る前から承知していた。

「い、いえ、そんな・・ただ夢中で、本能でそうしただけです!」

「ははは、本能だけで出来たとしたら、とても人間のレベルではなく、野獣なみの本能ということになるが・・・まあいい、誰にでも秘密はある。言いたくない事もあるだろうから、敢えてそれ以上は聞くまい。ともかく助かったのだ、よくやったな、カトー!」

「い、イエス─────サンキュー、サー!」

 皆が宏隆に向かって大きな拍手をした。

「おい、手指を動かし続けるって、何のことだ・・?」

 誰かが隣にいる兵士に訊ねた。

「たぶん、冷たい水から上がっても、着替えたり火を熾したり出来るように、常に手をきちんと使えるようにしておく為だろう。そう言えば、スナイパーの任務に就く者は、どんな時でも銃を撃てるように、それを怠らないと聞いたことがある」

「ワォ、すげえ・・・!」

 士官を養成するための訓練過程とは言え、ほとんどが一般人として大学にやってきた兵士たちは、少尉から宏隆のとった行動を詳しく解説されて、ひたすら感心するしかない。

「それよりも、氷がなぜ割れたのか、その原因を究明しなくてはならないな。あの割れ方は尋常ではなかった。まるで意図的に、そのタイミングで破壊されたようにも思える。
 お前はフェアバンクスの行軍中にも滝に落ちたそうだが、それとは関係がないのか・・・何か思い当たることは無いか?」

「いえ、滝に落ちたのは自分の不注意が原因です。さっきは確かに、氷の下で何かが爆発したような鈍い音が聞こえましたが」

 無論、ここでその理由を明かすわけにはいかない。宏隆は大学に報告したように、自分の不注意であると教官に告げた。

「そうだな、オレもそんなふうに聞こえた。何にしても、今回のアクシデントは我々で徹底調査する。この NWTC(Northern Warfare Training Center:米陸軍北方軍事行動訓練センター)が全面的に動き、場合によっては軍の調査部も動くはずだ。だから君たちは安心してほしい。カトーとアルバは、落ちついたら本格的な事情聴取をされると思うが」

「イエッサー!!」

 宏隆が川に落ちてすぐに、エヴァンス少尉が無線で呼んだのであろう。向こうの山陰からヘリコプターが姿を現し、着陸地点を確認するように一度大きく旋回して、ほど近い川原に降り立った。
 言うまでもなく、真冬のアラスカで凍った川に落ちたアルバと宏隆の身体に異常がないかどうか、訓練センターに戻って詳しくメディカルチェックをするためである。

「よく診てもらえよ。いくらタフでも、冷水に落ちたショックで、心臓が相当なダメージを受けているはずだ。普通なら間違いなく死んでいるところだからな」

「Thank you sir. I apologize for worrying you.(ありがとうございます。ご心配をおかけしました)」

「アルバも大変だったが良い経験をしたな。幸い腰から下が水に浸かっただけで済んだが、医者からメンタルセラピーを勧められるかもしれない。気になることがあったらセラピーを受けた方がいい」

「私は大丈夫ですが、ヒロタカが心配です─────」

「ははは、キミが看病してやったら、カトーもすぐに良くなるさ」

「あ・・・はい・・」

 ヘルメットに Medic(メディック=看護兵)の赤い十字の腕章を着けた者たちが、ヘリから降りて急いでやって来る。少尉が簡明に説明をし、すぐに宏隆は担架に乗せられ、アルバは横から腕を抱えられて、ヘリに向かった。

「大事にしろよ、カトー!」

「お前は英雄だ、きっと勲章ものだぞ!」

 皆がそれぞれに手を振って見送る。

「Thanks !!・・Sorry for worrying you all.(ありがとう、皆にも心配かけたね)」

 宏隆もそう応えて、笑顔でヘリに乗り込んだ。


 だが、その同じころ──────────

 さっき、カンジキウサギが飛び出した森の中で、また白い影が動いた。

 川原から見上げても、向こう岸の小高い山の、森の斜面に積もった雪にしか見えないが、氷が割れて、落水した宏隆が自力で生還し、暖を取ってヘリに乗るまでのその顛末を、その白い雪に紛れて、静かに観ていた者たちが居るのである。


「───Anyway, He's a die-hard soldier.(ともかく、ヤツは筋金入りの兵士だな)」

 ひとりが、そうつぶやいた。

「Yeah, He's a man that wouldn't die even if you tried to kill him.(ああ、殺しても死なないとは、ああいう男のことを言うのだろうよ)」

 憎々しげに、もうひとりがそう言う。

「さて、これから、どうする・・?」

「もう十分だろう。依頼された約束は取り敢えず果たせたのだから、あとは証拠を残さないようにすることだ」

「そうだな、爆破した氷は春になるまで捜査のしようがないから、たとえFBIでも証拠は見つけられない。問題は、すでにカトー本人に感付かれていることだ。今回も我々の仕業だと思ったに違いない。個人的には、この際あいつを葬ってしまいたいところだが」

「やめておけ─────奴は見てのとおり、タフでスゴ腕だ、下手をすると返り討ちに遭うかもしれないし、そのせいで吾々の正体が知れたら、もっと大変なことになる」

「それもそうだが・・・」

「いいか、くれぐれも勝手に手を出すなよ」

「ああ、わかってるさ」

「さあ行くぞ、彼らがヘリの方を向いている間に・・・」
 
 そう囁き合うと、白い影たちは、森に棲む動物たちよりも密やかに、そっと雪の木陰を後にした。



                    ( Stay tuned, to the next episode !! )





  *次回、連載小説「龍の道」 第174回の掲載は、4月1日(金)の予定です

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2016年03月01日

連載小説「龍の道」 第172回




第172回  SURVIVAL (4)



 何かを予感する、というのはとても不思議なものだ。
 何の根拠もないのに、ふと何かが起こりそうな気がする。
 それが本当にその通りになるか、ならないか、良いことか、悪いことかはともかく、生き物はもともと、そのような予知能力を持ち合わせているのかもしれない。

 だが、いまの宏隆には、なぜか悪い方に物事が起こるような気がしてならなかった。


「ヘイ、バディ(相棒)!、どうかしたの─────?」

 いつもと少し様子の違う宏隆に、アルバが明るく声をかけた。

「え、なにが・・?」

「むずかしい顔をして、あちこち見渡しているから。グリズリー(灰色熊)の姿でも見かけたのかと思って」

「ははは、グリズリーは、今ごろ寝てるんじゃないか?」

「そうか、テディベアは冬眠中だったわね!、でも、何か考えていたでしょ?」

「ああ、クマよりも、もっとタチの悪いのが居ないかと思ってね」

「えっ、それって、オオカミか何かのこと?」

「いや、たぶん思い過ごしだ。心配いらない、気にしないでくれ─────」


 ちょうどそのとき、向こう岸にある、北側の小高い山かげに、雪と見紛(まが)うような真っ白な固まりが少し動いたが─────アルバの方に向いていた宏隆は、ちょうど真後ろになるその動きに気づくはずもなかった。

「どうかしたのか、カトー?、君たちのペアが渡河をする番だぞ!!」

 珍しくもたもたしている宏隆を見兼ねて、リーダーが声をかける。

「ああ、済まない、すぐに出発するよ、ハワード!」

 何でもない、という顔で微笑み、宏隆から先に、ゆっくりと氷の上を歩き始めた。


 氷が張った上に薄く雪に覆われた川は、狭いところでも50メートルほどの幅がある。 
 アラスカの厳冬期の気温で造られた氷は、私たちから見れば如何にも分厚く平坦なイメージがあるが、歩いていると意外にもゴツゴツと大小の起伏があって、体重をかけるたびに所々でミシミシと、今にも割れて砕けてしまいそうに脆(もろ)く心細い音を立てる。

(これが割れて川に落ちたら、さぞかし冷たいだろうな─────)

 こんな場合には、きっと誰もがそう思うことを、宏隆もふと考えた。

 ”薄氷を踏む”、という言葉がある。特に北極圏でマイカー代わりに犬ぞりに乗る人なら、誰でも身につまされている言葉だ。
 彼らの世界では「薄い氷」は惨事や死を意味している。いったん氷を踏み抜いてそこに落ちてしまったら、数分以内に戻れなければ死に至ってしまうし、たとえ戻れたとしても、上手く処置が出来なければ、その後大変な事になることを誰もが知っている。
 氷の下に落水することは、普通では全く想像もつかないほど危険なことで、寒冷地を訪れる者は、決してそれを甘く見てはならない。

 具体的には、どうなるのか───────

 突然、氷点下の水に落ちると、人間はまず、その冷たさのショックで思わず反射的に息を呑むので、肺の中に冷水を吸い込んでしまい、結果的に溺れることになる。たとえそうならなくても、その水の余りの冷たさに心不全になる可能性が大きい。
 幸運にもそれらが起こらなかった場合も、わずか数分もすれば全身が麻痺し始めて、身体の感覚が薄れて消え始め、氷の上に這い上がってくるだけの力が出なくなる。
 いわゆる ”低体温症” というものである。

 理論上は、体温が25℃を下回らない限り、人間はぎりぎりの所で何とかまだ生きているらしい。20℃になるといよいよ生命が脅かされてしまうそうだが、実際には34℃まで体温が下がると意識障害が始まり、33℃になると運動機能障害が起こり、筋肉が通常どおりに使えなくなってくる。このような低体温症による死亡を ”凍死” と呼んでいる。


 ちなみに、ヒトの体温は約37℃付近という絶妙な温度に保たれ、一日の変化もほぼ1℃以内に収まるよう、脳によって調整され続けている。恒温動物である人間は、自分のエネルギーのうち、実に75%以上がこの「体温維持」のために使われているのだ。

 人が ”寒い” と感じるときには、まずその情報は脳の自律神経中枢のある視床下部に伝えられ、そこで温度に対する情報処理が行われる。寒くて体温が下がりそうだという判断が下れば、それを回避する司令が神経を通って皮膚に伝えられ、皮膚の血管を細くして皮膚から逃げる熱を少なく留めようとする。寒いときに顔色が悪く見えるのは皮膚に運ばれていた血液の量が減少しているからである。
 同様に、身体が震えるのは筋肉を動かして体温を上げようとする働きが起こる。反対に暑いときには汗を出して皮膚の表面を濡らし、熱を放熱して体温を下げようとするのだ。

 では、なぜ体温は37℃近くに保たれているのかというと、それは現在の科学でもまだよく解っていないが、ひとつ確かなことは、体温がそれ以上でもそれ以下でも、生命維持に必要な体内の ”酵素” の働きが正常に行われなくなる、ということである。

 例えば、よく知られるカタラーゼは活性酸素を分解して酵素と水に変え、唾液にあるアミラーゼは消化を助けている。膵臓で作られるリバーゼは、中性脂肪の分解を促進させているが、これら生命維持に欠かせない酵素が最も活動的になれるのが37℃付近なのである。
 体温が下がれば酵素が働きにくくなり、身体機能は低下してしまう。体温が1度下がれば代謝が1割も下がるのだ。
 温度と酵素の関係は早い話がパンと酵母の関係と一緒で、小麦の糖質を分解して炭酸ガスを発生しパンを膨らませるという作業が、一定の温度以下では出来ないのと同じである。そう言えばパンの二次発酵は38度、麹も38度、乳酸菌や納豆菌も40度位であった。




 川の上を、ビュービューと冷たい風が駆け抜け始め、所々に白い雪煙が舞った。

 凍った川や湖を渡るときには、あらかじめ氷の厚さを測って確認しておくのが常識だと教わっていた。普段の訓練では必ずチーム毎にそれを実行させ、自分たちの眼で確認させているものだが、なぜか今回は誰もやっていない。

 それに本当は、出来るかぎり氷の上を渡るべきではない。どうしても氷の上を歩かなくてはならないような状況─────たとえば余りに広すぎて回避できない湖を渡る必要があれば、足許に細心の注意を払わなくてはならないし、単独行でなければ、必ず今の宏隆たちのように、バディラインと呼ばれる、長さ5〜10mほどのロープを互いの腰に着け、万一の落水に備えて、共倒れにならぬように、少し離れて歩くようにしなければならない。


「アルバ─────大丈夫かい?」

「大丈夫よ、気にしないで、どんどん進んで!」

 だが、凍った水の上に粉雪をまぶした、非常によく滑る氷の上を恐る恐る歩くので、足取りは遅々として進まない。

 ようやく川の中ほどまで来たときに、宏隆はそこで少し立ち止まり、後ろのアルバの様子に変化のないことを確認し、大きく空を見上げながら、この谿を囲んでいる周りの山々をゆっくり見渡した。

 ROTC(予備役将校訓練課程)の講義では、どの位の厚さの氷なら凍結した川や湖を安全に渡れるのか、重さと氷の厚さの関係を詳しく知りたいと、教授たちが訓練兵士たちからよく質問を受ける、という。
 だが、そもそも氷は大自然の気まぐれで出来上がっているものであり、氷の大きさ、生成時の温度、そこに掛かる重さ(載荷)の履歴、現在の氷の温度、その破壊形態が圧縮か引っ張りか、などによっても氷の強度は違ってくるので、単に掛かる質量と氷の厚さの関係を一般論として述べるのは不可能であるらしい。

 オックスフォード大学出版局の『ICE PHYSICS(氷の物理学)』という本には、低温であるほど氷の強度は大きくなり、マイナス10℃の氷は、0℃のときの2倍近くも強度を持つ、と書かれている。
 ならば、気温がマイナス20℃を下回るアラスカの川は、かなりの強度を持つに違いないと思えるが、それは素人考えで、氷はその中に含まれる微細なクラック(裂け目、ひび割れ)によって、たとえ温度が極端に低くても強度が非常にもろくなる、とも書かれている。
 実際に厚さ5cmでも人が乗って割れない氷もあれば、20cmでも割れてしまう場合もあるのだから、一概には言えない。

 凍った水の上を行くには、まず氷と水面の間に隙間がないかどうかを確かめることが必要である。隙間があれば当然割れやすくなる。また、今回のように上に雪を被っている場合には、被った雪が凍っているのか、或いは水面それ自体が凍っているのかをよく確かめなくてはならない。雪の下の氷は意外と薄い場合があるので注意が必要である。
 また、そのときの気温が上昇しつつあるのか、下降しつつあるのかによっても氷の強度が違ってくるし、雪解け水が流れている時期であれば、水圧が上向きに掛かるので、氷が割れやすくなる。

 やはり、先ずは氷に穴を開けて厚さと密度を確認し、自分の足で確かめながら、一歩ずつ慎重に渡るしかない。そして、万一落水したときにどうすべきかを、あらかじめ充分に頭に叩き込んでおかなくてはならない。



 さっき、何やら白い固まりの動いた向こうの山で、また鳥が啼いた。

(む──────?)

 何となく、胸騒ぎを感じて、宏隆は再び立ち止まって、顔を上げた。

 なだらかな斜面の森から鳥が2〜3羽が飛び立ち、またもとの樹の陰に戻ってゆく。
 その樹の下で、すぐにカンジキウサギが跳ねて斜面を登り始めたので、その如何にも平和そうな姿を見た宏隆は、少し安心をした。

(ウサギだったのか・・近ごろ少し神経質になり過ぎかな?)

 カンジキウサギは、アラスカやカナダに生息する、雪上歩行に便利な大きなカンジキのような後ろ足を持った、体長40〜50センチのウサギである。
 だが、もし宏隆が、カンジキウサギは夜行性で、針葉樹の深い森を好み、冬は雪の中や薮の中に潜んで滅多に姿を見せない習性があるということを知っていたら、この時にもっと警戒を強めていたに違いなかった───────

 
 渡河も真ん中を過ぎる頃、ようやく氷は軋(きし)まなくなり、安心して川を渡れるだけの氷の厚さが、歩く足もとに感じられてきた。

(そうか、半分から向こうは常に山の陰で、手前の日なた側よりも冷え込むので、氷がしっかりしているってワケだな!)

 それに気づいて納得し、実際に安心してしっかり足を下ろせるようになってきたので、

「だいぶ氷が厚くなってきたね、たぶん、もう割れる心配はないかもしれない」

「そうね、やっと軋む音がしなくなってきた!」

 アルバも同じことを感じている。

 向こう岸がすぐ見えている距離で、これほど長く歩くとはだれも思えない。実際、すでに驚くほど時間が掛かっている。

「よし、あとひと息だな、頑張って進もうか───────」

「そうね!」

 だが、アルバがそう答えた途端・・・・・


「バンッ──────────────ッッ !!」


 地に隠(こも)るような重く鈍い、何かが爆発したような音が渓じゅうに谺(こだま)して、さっきカンジキウサギが出てきた森から、額の紅い何十羽という数のベニヒワが一斉に飛び立った。

 そして、その音と同時に、凍って雪に覆われた川に水しぶきが高々と上がり、川を横切るように上流側の氷が大きく割れて、川の真ん中近くを歩いていた二人のうち、宏隆が、あっという間に氷の下に呑まれて落ちた。


「うわぁあああ─────っっ !!」

「きゃぁあああっっっっ─────── !!」


 宏隆が川に落ちたので、アルバの腰に巻いたロープが引っ張られ、彼女も勢いよく氷の上を滑って落ちかけたが、辛うじて割れ残った氷の淵ぎりぎりに、精一杯腕を伸ばして留まっている。

 アルバはすぐに小さなナイフを取り出し、アイゼンのように氷に押し立ててアンカーにして、それ以上水中に引き摺られないよう自分を支えながら、水に浸かった足腰を懸命に氷の上に出そうとしているが、滑ってうまく上がれない。重い荷物を背負っているし、壁面も無いので、プールから上がるようなわけにはいかないのだ。

 だが、宏隆はまだ水の中だ──────────

「ヒロタカっ!、ヒロタカぁああっ!・・・だ、誰か!・・早くヒロタカを!!」

 その恰好のままで、アルバが必死に大声で叫ぶ。

 一刻をあらそう、というのは、このような事態をいうに違いない。
 だが、その声を聞くまでもなく、もうすでにチーム全員が、足下の氷の厚さなど全く気にせずに、そこに向かって急いで走っている。
 この気温で氷の張った水中に落水すれば、体はわずか数秒でショック状体を起こし、もしそのまま流れに呑まれてしまえば、たちどころに意識を失い心臓が停止してしまうと、誰もが極地サバイバルの講義で教わって知っているからであった。

「・・よし、アルバ、これに掴まるんだ!」

 ハワードがロープを渡し、少し離れたところからアルバを引き始める。

 これは懸命なやり方だ。近くから直接手を差し伸べることは非常に危険を伴う。
 救助される側は助けられたい一心で必死に手を掴んで、救助する者を引きずり込んだり、あまり近ければ、引き上げようとしたその拍子に氷が割れて、さらなる事故を生むことも考えられるからだ。

 まして、この場合はアルバの後ろに、宏隆が繫がっているはずであった。

「よし、いいぞ、その調子だ──────────」

 他のチームの隊員たちも駆けつけて、一緒に引き上げる。

「お互いに近くに立つな!、足を強く踏むな!、氷が割れてしまうぞ!」

「もう少しだ・・・おい、後ろにカトーは見えるか?!」

「いや、まだ見えない─────」

「早く!・・・早くしないと、ヒロタカが死んでしまう!!」

「慌てるな、アルバ。氷が割れたらもっと大事になって元も子もなくなる。助けている俺たちも同じように危険なんだ!」

 だが、そう言われた途端、

「あ・・・?」

 アルバが短くそう言って、叫ぶのをやめた。

 水中から腰を強く引っぱり続けていた負荷が、ふと消えて無くなったのだ。

 両方の岸辺から多くの兵士が駆けつけ、容易にアルバを引き上げたが、宏隆と結んでいたはずのバディラインを手繰っても、ロープの先には何もない。

「こ、これを見ろ・・・」

 誰かがその先端を見て、目を丸くした。

「バッサリと、ナイフで切られているぞ───────」

「なんて奴だ・・・」

 誰もが同じように、宏隆が取った行為を理解した。

「ヒロタカ・・わ、私を水中に引っ張り込まないように・・私を助けるために、自分でロープを切ったのね!!」

 リーダーの手から奪うように取り、その鋭い切り口をしげしげと見つめて、ボロボロと涙をこぼして泣きじゃくった。

「誰か、アルバをすぐに着替えさせろ!─────いや、ここでいい、岸に戻っている時間は無い、素早く水気をタオルで吸い取って、乾いた服を着せて温かいものを飲ませるんだ!」

 リーダーの、この判断も正しい。時間が経てば経つほど凍傷への危険は大きくなる。
 大体、こんな時はお互いに恥ずかしがる人間など居ないし、恥ずかしがる余裕があるものでもない。それに凍傷の恐ろしさは誰もが散々講義で教わっている。誰だって両足を切断することになるよりも、人前で裸になる方が良いに決まっている。

 その場ですぐに女性兵士たちがタオルを出し合い、アルバを取り囲むように、てきぱきと服を脱がせ、体を拭いて新しい衣類に着せ替えた。気が利く者が居て、岸ではもう火が熾き始めている。


「他の者はカトーを探せ!、氷の上の雪をどけて、下を透かして見るんだ、急げ!」

「カトーは居たか?・・見つけたら大声で知らせろ!」

「徐々に、もっと下流の方へ向かって探していくんだ、急げ!」

 皆が氷の上に膝を着いて、積もった雪を手で払いながら、その下に人が見えないかどうかを探してまわるが、まだどこにも宏隆らしい影は見えない。



                    ( Stay tuned, to the next episode !! )





  *次回、連載小説「龍の道」 第173回の掲載は、3月15日(火)の予定です

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2016年02月15日

連載小説「龍の道」 第171回




第171回  SURVIVAL (3)



 寒風が吹き付ける雪の尾根道を、ひたすら歩く。

 スノーシュー(かんじき)を履いているので、とても歩きにくい。昔からある日本のかんじきはたいてい丸形で、ほど良い幅になっているのだが、西洋式、いや米軍式は大型で前後にも長く、歩きづらい事この上ない。

 山岳地帯に於ける歩くペースは普通、山麓の平地でおよそ4kmに1時間、20度の勾配の登りでは1kmに約1時間を要する。急斜面や積雪時には、さらに距離あたりの所要時間が増え、歩行が厳しくなるのは言うまでもない。

 かなり標高が上がってきて、気温もそれに伴って低下してきている。
 気温は、高度が100メートル増すごとに0.6℃ずつ下がり、風が吹けば風速1メートルごとに体感温度が1度ずつ下がる。
 防寒と汗のバランスも難しい。重いライフルとバックパックを担いで、時おり深い雪に足を取られながら、何も遮るものの無い尾根を歩いていると、体は温かいのだが、汗をかいているという感じがあまりしない。厄介なことに、知らないうちに搔いている汗が凍傷をもたらす原因となってしまう。

 現在では、ゴアテックスのような防水透湿ウエアや、軍用のインナーフリースなど、通気性の良い便利なものが開発されて、兵士は寒冷地でも随分快適に過ごせるようになっているが、この物語の時代には、ひたすら自分で知恵を尽くしてそれを工夫するしかなかった。

 いや、実は良いウエアが開発された現代でも、結局のところ兵士個人が各々に工夫をして快適さや安全性を求めていくしかない。どのような優れたウエアでもツールでも、自動的に快適さを与えてくれるわけではないのだ。
 例えば、ゴアテックススは防水透湿の優れた機能を持つが、その謳い文句の通り「透湿」であって「透水」ではない。つまり、搔いた汗の「蒸れ」は外に出してくれても「水分」まで出してくれるわけではない。汗を搔いても肌着までサラサラと快適に保ってくれるわけではないのだ。高価で有名な物だから、ミルスペック(Military Specification=軍用品質規格品)だから、と言って過信するのはとても危険なことである。

 衣服を含めて、道具は常に使う人の工夫によって活きもすれば無駄にもなる。乾いたマッチが一箱あれば充分に火を熾せる、という保障があるわけではないように、所詮は状況に応じて人間が道具を知的に巧みに使いこなし、それに合わせていくしかないのである。


「─────よし、テイクファイブ(5分間の休憩)だ。もう此処からは下り路だ、予定より時間が掛かってしまったから、水分補給をしたらすぐに出発するぞ!」

 チームリーダーがそう命じて、皆バックパックを背中から下ろし、そこに腰掛けて水を飲みながら、ひと息つき始める。
 
「あら、ヒロタカの水筒から湯気が立っている・・」

「ああ、出かける時に白湯を入れてきたんだ。水筒の上からウールの靴下を履かせておいたから、まだほんのり温かい。もちろん、洗い立ての靴下だけどね、あはは・・」

「グッドアイディアね、私もそうすれば良かった!」

「よかったらひと口飲んでごらん、アルバ」

「うーん、美味しい。ただのお湯がこんなに美味しいなんて・・やっぱり、温かいものを飲むとホッとするわ」

「日本には煎茶道というのがあって、一煎目に出し立てのお茶を飲み、二煎目に熟(こな)れた、少し苦みのあるお茶を頂く、そして三杯目にはただの白湯を頂くんだ。つまり、お茶を味わった後で、そのお茶を淹れた元の水を味わうというわけ。その白湯はとても甘く感じられて、良い水があったからこそ、美味しいお茶が味わえたということに気づかされる」

「まあ!、とても深い文化なのね、日本は・・紅茶文化を誇るイギリスでも、お茶を淹れた水を白湯にして味わうことまではしないわ!!」

「文化の違いかな─────まあ、冷たい水を飲むと体温を下げてしまうから、こんな時は白湯の方がお勧めだ」

「あ、アイタタタ・・・!!」

「どうしたの?」

「ふくらはぎと、腿の外側が痙(つ)ってきちゃった!」

「どれ、足を出してごらん。痛いのはここかな?」

「痛っ!・・そう、そこがツレて・・」

「よし、こうしてマッサージしておけば大丈夫だから・・」

 ふくらはぎと大腿部の、ほんの二、三個所だが、重要なポイントを指で押してやる。

「ほら、歩いてごらん───────」

「あ、ウソみたい・・さっきより、すごく楽になったわ!」

「水を飲む時には、ついでにこの ”塩つぶ” も食べておくといい。岩塩にはミネラルがたくさん含まれているから、足が痙りにくくなるし、疲れもだいぶ違ってくるよ」

「ありがとう、何でも良く知っているのね」

「血糖値を上げるキャンディも良いけれど、休憩時にはミネラルを多く含んだ黒砂糖を取るのも良い」

 バックパックの中から、ビニールにくるんだ黒い固まりを出して見せる。

「Unrefined Suger(黒砂糖)?─────どうしてそんな物まで持っているの?」

「ははは、ボーイスカウトで教わったんだよ」

「Rock Candy(氷砂糖)は持って来たけど、黒砂糖は想いつかなかったわ」

「日本でも登山に非常食として氷砂糖を持って行く人が多い。簡単に血糖値が上がって、形も食べやすくて便利だからね。もっとも、熱帯や亜熱帯のような気温の高い地域では、溶けてしまって役に立たなくなってしまうけれど」

「それじゃ、サウスパシフィックで無人島に漂着した時に、氷砂糖を持っていてもダメね」

「そんな時は氷砂糖にスターチ(片栗粉)をまぶしてビニール袋に入れておけばいい。要はなんでも工夫次第、あきらめずにアタマを使おうとすることが大事だね」

「すごい・・とても勉強になるわ!、ヒロタカって一体何者なの?」

「あはは・・さてと、もう此処からは下りだけど、山は下りの方が体力を消耗する。下り坂は歩き方にもコツがいるんだ」

「それを教えてくれる?」

「いいよ、下りではボクの後ろから従(つ)いておいで」

「ありがとう、何だか助けてもらってばかりね」

「そんなことないさ、バディが助け合うのはお互い様だ。こんな状況では、ぼくがアルバに助けてもらう事も、いつだって起こり得るんだよ」

「とてもそうは思えないけれど─────でも、そうなったら恩返しをするわね!」

「ははは、ありがとう」

「さあ、みんな、出発するぞ────────!!」

 尾根づたいのルートを逸れて、遠く眼下に見える谿を目指す。
 谿と言っても、もちろん雪で埋もれていて、水は見えない。ただ山稜がふたつの岬のように伸びているその谷間に、真冬の今でも、雪の下には滔々とした流れが絶えずにあるのだろうと思える。

 雪が被っていなければ、もっと歩き難いかもしれないような、かなりの急坂である。

「わっ・・・!!」

 案の定、半マイル(約800m)も歩かないうちに、後ろでアルバが転げた。

「大丈夫かい?」

 手を貸すが、なかなか起き上がれない。

「ええ、大丈夫─────こんな所を歩くのは初めてだから、上手く行かないわ!」

 アルバがそう言うのも無理はない。
 30kgの重さのバックパックと、4kgのライフルを背負った状態で、雪の山を下るのは並大抵なことではない。それが急な斜面なら、なおさらのことである。
  
 下りでは登りの2倍もの負荷が、一歩ずつ着地時に掛かってくる。
 重い荷物を担いでいれば、その分だけ脚への衝撃力が増えることは言うまでもない。

 登りでは心肺系機能に大きな負担がかかるが、筋肉へのダメージは小さいので、健康な若者なら、訓練への気負いだけでも登ることは出来てしまう。しかし、下りでは心肺系へのダメージは少ないが、筋肉への負担が大きくなるので、登りのときの疲労の蓄積も手伝って、足がもつれたり、滑って転びやすくなったりするのである。

「スキーをしたことはあるかい?」

「友だちとカナダに行って、二回ほど滑ったことがあるけれど」

「それじゃ、その時のことを思い出すんだ。まず、怖がらずに斜面に対して出来るだけ身体を垂直に立てようとする」

「こんな斜面で?・・遊びのスキーならともかく、この荷物を担いでいては無理だわ」

「正確に垂直にするというのじゃなくて、そうしようとする意識があればいいんだよ」

「そうか、OK──────」

「そして、頭のてっぺんからカカトの少し前のあたり、向こう脛の真下までを一直線に保とうとする─────足を出す時には必ず後ろ足に重心を置いて、きちんと片足に乗ることを心掛けながら、なるべく小さな歩幅で歩くんだ」

「後ろ足に、重心を置くの?」

「そうだ、階段を下りる時のようにね─────前足が着地する時に、まだきちんと後ろ足に乗っているようにする。前足が完全に地面をとらえてから、重心を前足に移すんだ」

「階段を下りるようにか・・なるほどね」

「普通の人は、階段を下りる時に、ほんの僅かだが飛び降りてしまっている。これは骨格構造を上手く使えていない所為なんだが・・ここで詳しく教えているヒマはないので、ともかく前足がきちんと捉えられるまで、後ろ足に重心を置いて歩くことを心掛けてごらん」

「ありがとう、やってみるわ!」 


 太極武藝館の門人なら誰でも、階段を使った歩法の訓練を経験しているはずだ。
 上り下りで使われる身体の状態、正しい構造の変化を、階段という、平地とは異なる状況で学ぶわけである。

 上手に上り下りが出来る人と出来ない人との違いは、ひたすら「重心の位置」にある。
 そしてその重心は、ただ単に位置をずらして出来たものではなく、「構造」として造られたものであるがゆえに、武術として ”使える” ものになる。

 ここで宏隆が言うように、特に下りでは、まだ完全に前足が着かない状態で ”飛び降りた” 状態になってしまい、衝撃力も大きい。また、前足が完全に着地した時に、同時に後ろ足の踵が上がってしまっている。これは「身体が使えていない」ことを意味している。正しく身体を使える人は、重心がかなり前にある状態で、後ろ足の踵が浮かないまま、前足をきれいに着地することができる。

 また、上りの場合でも、前足を着けた時に、まだ身体が後ろに残っている人は、そこからヨッコラショと前足の腿で思い切り踏んで身体を上に持ち上げなくてはならない。
 身体を高度に使える人は、まるで平地を歩いているように階段を上り下りでき、体の上下左右のブレもほとんど見られず、筋肉への負荷もはるかに少なくて済む。

 ”武術的な身体” を求めるのであれば、まず手軽な階段の上り下りで、自分の身体構造のレベルをチェックしてみると良い。


「アルバ、なかなか良いぞ。もう転びそうにもないね!」

「とても楽よ。ちょっとポイントを守るだけで、こんなに歩きやすいなんて─────それに、疲れが増えるどころか、さっきまでの疲れが取れて行くみたい」

「それは良かった、身体が動きやすくなったのでそう感じるんだろうね。もうすぐ谿に出るはずだ、その調子で頑張って行こう!」

 標高が下がるにつれて、気温が少しずつ暖かく感じられる。
 極寒地で生存するためには、まず少しでも低い所を目指すことが必要となる。高いところでじっと耐えていても危機は回避できない。標高が下がればそれだけ気温は上昇し、温度計に見られる気温の差よりも、ずっと暖かく感じられるものである。

 因みに、エアコンのダイキン工業が2002年に実施した1万人アンケート調査によれば、日本人が最も心地良いと感じる温度は18.2℃、湿度は42.1%なのだそうだ。
 この訓練に使われているアラスカの山岳地帯は、気温がマイナス20度近く、湿度は80%前後なので、お世辞にも快適とは言い難いが、同じ寒さでも、真冬の札幌とフェアバンクス近辺では、フェアバンクスの方が気温で15〜20℃低く、湿度で20〜30%ほど高い。
 それでも、人間が居住する土地の中で、夏場は気温が30度以上あるというのに、冬は通常マイナス50℃前後、最も寒い時にはマイナス70℃以下、つまり年間の寒暖差が80〜100℃にもなるという、途轍もない自然環境にあるシベリアなどとは比べものにならないが。


「ここからは、渡河だな────────」

 ゴツゴツした岩だらけの斜面を下りきって、ようやく平地らしいところに出た時、チームの誰かが、ぽつりと言った。
 表面が白く雪に覆われた、凍りついた川面が目の前に広がっている。
 地図で見て想像していたよりもかなり幅が広いが、水が見えないので、あまり渡河というイメージは湧いてこない。

 先行していた他のチームが、そこで後発のチームを待ち合わせている。幾つかのチームごとに、皆で教官の注意を聴いてから渡河をするという段取りなのだ。
 宏隆たちの前には、すでにふたつのチームが到着していた。

「いいか、よく聴いてほしい─────!!」

 訓練教官の軍曹が、兵士たちを見下ろせる岩の上に立って訓戒を垂れる。

「これは君たちの生命に直接関わってくる事だ。決して大自然を、アラスカの冬を甘く見てはならない」

 みな静まり返って耳を傾ける。もちろん、自然を甘く見ている者など、ここには誰も居るはずもないのだが、それでもなお、大自然の厳しさは人間の常識を超えて襲いかかり、突如危機として立ちはだかるので、耳にタコが出来るほど注意を促し続けても、それが過ぎるということはない。

「凍った河を渡る時は、バディと二人一組で、互いに腰にロープを繋いで渡る。そうすることで、万が一、氷の下に落水した時にも安心だ。バックパックには防水機能が無いので、中の着替えが濡れないように、防水のプラスチック(ビニール)バッグに入れておくよう指示してあるが、念のためもう一度それを確認しておくように。そして注意深く、向こう岸まで渡るんだ」

「イエッサー!」

「寒さは生命をおびやかす敵だ。厳しい寒冷地で任務を果たし、敵と自然環境に打ち勝って生き残るためには、寒さに支配される前に、その影響を最小限に留める必要がある。
 重要なことは、生命を脅かすような兆候に気づき、そうならない為の行動を起こすということだ。アラスカ大学でのサバイバル講義を思い出せ。そこでは低体温症や凍傷にならない事などの、ありとあらゆる知恵が学べたはずだ。それらが頭に入っているかどうか、訓練でそのとおりに行動できるかで、危機に遭遇した時の生存が決まる。分かったか?!」

「イエッサー!!」


 寒いからといって震えていたり、手足が凍えて動かないようでは戦えず、とても軍人は務まらない。だが、軍人と言えども同じ人間で、寒ければ凍えもするし低体温症にもなる。

 ではなぜ軍人が極寒のアラスカやシベリアの訓練で平然としているのかと言うと、その寒さに如何に対処すれば良いかを、正しい知識として知っているからである。

『サバイバルは ”知識” である』とは、太極武藝館で誰もが教わることだが、士官候補生の兵士たちが学んでいることも何も特別なことではなく、基本は非常にシンプルな ”知識” なのである。


 たとえば、「低体温症」を避けるための ”知識” とは───────

 体温が奪われないようにするには、まず体温が奪われる原因を知っておくことだ。
 その原因は五つある。すなわち「放熱・伝導・対流・蒸発・呼吸」である。

 狭い部屋の中に居ると、やがて部屋の温度や湿度が上がってくる。人々が大勢で動いている場所では、すぐに室温が上がってくる。それは私たちが周囲の空気を暖めているからであって、私たちが熱を失った分、室温が上がるのである。それを「放熱」という。

 また、雪や氷のようなものに触れた時には手が冷たくなり、長い時間プールや海に浸かっていれば体が冷える。懐炉(かいろ)に触れたり、湯たんぽを抱いていれば手や体が温かくなり、発熱した時に氷嚢で頭を冷やすのも同じ理屈である。これを「伝導」という。

 「対流」とは、液体や気体を通じて熱が移動することをいう。風が吹けば寒く感じるし、風呂に入れば体が温まり、扇風機やエアコンのように、空気を通じて涼しさや暖かさを得る事もそれに当たる。

 「蒸発」は、汗をかくことによって体内の熱が気化熱として体外に放出された結果、熱を失うことである。また、人間は「呼吸」することによって冷たい空気を体内に取り込み、水分と共に体外に放出することで熱を失い続けている。

 低体温症の主な原因となるのは、言うまでもなく低い気温によるわけだが、風や水によってその影響は益々大きくなる。風速が1メートル増す毎に体感温度は1度ずつ低くなるし、水は空気の五十倍も体温を奪うので、川や海の水、滝や波の飛沫を浴びないようにするのはもちろん、汗をかかないように努めることも大切なことである。汗が冷えてだんだん凍ってくるような状況では、急速に体温が奪われ始める。

 身体で体温が真っ先に奪われるのは四肢だ。それは常に周囲の環境に晒され、最も多くの血液が体表を流れる場所だからである。また体温の30%は頭部と首から失われる。この部分を保護すれば体温が失われ難くなるし、反対にそこを空気に晒すようにすれば涼しさを得られるわけである。


「さあ、前のチームが出発し始めたぞ。我々も順に河を渡ろう────────」

 チームリーダーのハワードが、少し緊張した顔をして言った。

「こういう寒冷地では、氷の厚さが相当あるに違いないと思えてしまうけれど、実は寒さが厳しい所ほど氷の厚さが一定ではなく、同じ川や湖でも、場所によって厚かったり薄かったりする。だから充分に注意しなくてはいけないんだ」 

「分かったわ、でも、あなたとバディを組んでいれば安心ね!」

「ははは、お互いさまだよ、アルバ」

 他のチームが二人ひと組で、寒風が吹き始めた広い川面を、順に渡って行く。
 表は薄く雪で覆われているので、その下に幾許(いくばく)かの厚さの氷があり、さらにその下には、人知れず滔々と流れ続けている水があるようには、とても思えない。

「さあ、次は我々の番だ。僕が先に行こう────────」 

 しかし、そう言った途端、宏隆は何か嫌な予感がして、思わず周りを見渡した。



                    ( Stay tuned, to the next episode !! )



  *次回、連載小説「龍の道」 第172回の掲載は、3月1日(火)の予定です


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