2011年02月05日

門人随想 「今日も稽古で日が暮れる」 その7

    「 不可思議な力 」       by 太郎冠者 (拳学研究会所属)


 武藝館語録 ────────────

 『ヒントは何処にでも転がっている。ただし、ヒントと一緒に転がっていてはダメだ!』

 
 人間の意識というのは面白いもので、一度何かについて考え探し始めると、いろいろなところでアンテナを張り続けている。
 たとえそれが意識的であろうと無意識的であろうと・・・感覚的には、突然それに気づくということが多いので、無意識的といえるのかもしれない。
 ただしそのためには、意識的に探し続けなければいけない。
 
 さて、いつだったか書いた直立二足歩行について、その続きを少し考えてみることにする。
 人間が直立二足歩行をする上で、欠かすことの出来ない必要不可欠な力がある。
 重力である。
 
 地球上でいう重力とは、地球と自身の質量同士が引き合う引力と、地球の自転による遠心力との合力のことをいう。
 
 重力は、およそ9.8m/s2の加速度として作用をする。一秒間に物体を秒速9.8メートルずつ加速していく力だ。
 武藝館では、落下しない、踏まない、蹴らない、という指導が徹底的に行われている。
 なぜそうなのかというと、実に簡単なことで、落下するとものすごく遅いのだ。重力による落下で、人間の身体を十分に加速させるには、人間同士が闘う場では、時間も距離もあまりに少ない。
 
 話はそれるが、重力という力は、現代の科学でもいまだによくわかっていない未知の力だ。
 体験的に、重力を感じたことがない人間は地球上にはいない。しかしなぜそうなるのか、どのような作用によってそれが起こっているのかが未だにわかっていないのだ。
 
 重力について考えるとき、僕はいつも勁力について思いをはせる。
 勁力という不可思議な力は、たぶん普通に暮らしている人や、長年格闘技などを経験してきた人は、そんな力が存在するなどということを、全く考えられないと思う。想像がつかない範疇の出来事なのではないだろうか。
 
 少なくとも自分は、実際に勁力を体験したときは、こんな現象が実際に存在するなんて!、と世界観が180度変わってしまうほど驚いたものだ。
 
 勁力もまた、科学的には説明がつかないけれど、実際に存在する力だ。
 
 これは、重力と非常に似ているのではないだろうか?
 

 ニュートンの法則しかり。
 重力に関して記述された方程式や、重力がどのように働くかというノウハウは、確かに存在している。
 しかし、その本質は未だに謎である。
 だけど、誰もが体験的にそれを知っている。
 
 勁力は、太極拳でいえば各種の練功などによって、どのように習得し、使っていくかというノウハウが、確かに存在している。
 しかし、その本質は未だに謎である。 
 だけど、誰もが体験的にそれを知る・・・ことができる!
 

 ここでもうひとつ、師父がよく口にされる「武藝館語録」を紹介したい。
 
 『太極拳は、箸が持てる程度の身体能力があって、
  クルマの免許を取得できる能力のある人間だったら誰にでも習得できる!』
 
 たとえば近い将来、人間が月で生活できるようになったとしよう。
 そこで生まれ育った人はおそらく、地球では月の6倍もの重力が働いているということは、頭で知っても体験的には理解できないだろう。
 しかし、地球にいけば一発でそれを理解することが出来る。
 
 勁力も同様に、味わったことがなく伝え聞いただけでは、よくわからないものに感じるだろう。だけど、勁力を一発味わえば(笑)、その力の存在を理解することが出来る。

 似ている、と書いたが、重力と勁力の違いは、それを味わったことがある人が多いか少ないかなのではないだろうか。
 
 一度味わえば、それが確かに在るということを、身体で知ることが出来るのだ。
 あとは、それを自らのものにしていく努力が始まっていく・・・。
 

 話がそれた。直立二足歩行について書くつもりだったのだが。
 
 これは決して、タブーに触れそうな話題になるのを意図的にそらしたとか、そういうことではないので、悪しからず。
 
 この言い訳をまた使うことになるとは・・・
 宇宙は循環しているので仕方がないだろう。言い訳だが。


                                  (了)

disciples at 15:12コメント(6)今日も稽古で日が暮れる  

コメント一覧

1. Posted by まっつ   2011年02月06日 10:11
重力と勁力の類似とはユニークな視点ですね。
経験的に観測される重力の一般性質を考えてみると・・・

・自身の質量に比例した相互作用力を生じる。
・距離の逆自乗に比例して全方位に働く。
・時間と空間を歪める。
・有効な遮蔽手段が無い。
・直接には観測出来ない(媒介する素粒子が未知である)。

などなど、確かに重力の性質にはニヤリとする要素が多数ありますね。

ニュートンさんが重力(万有引力)の理解を一般化したのは、
たかだか3世紀半前の事ですし、
人と人が引き合う力は未だ科学的に解明されていません。
そして勁力もまた然り・・・
語りえないけれど、確かに存在する力・・・
だからこそ、誰もが最先端の探求者となり得ます。
とても面白いと思います。
 
2. Posted by マガサス   2011年02月09日 00:05
確かに勁力は科学的には説明がつきませんね。
あんな小さな力で、それこそ生卵の割れない程度の力でヒョイとやられて吹っ飛ぶなんて、
聞いただけで、見ただけで、誰が信じるでしょうか。
何しろ、実際にその勁を受けてさえも、「信じられないっ!!」って言うんですからね。
もっとスゴイのは、発勁をしたようには決して見えないのに、相手がグウッって伸びてしまう。
つまり、ヒョイと手を出した程度の動きでしかないのに、相手は悶絶する。
それも何とか空手とか、何とか拳、何とか拳法という所にいた師範代クラスの人たちが
そうなのですから、勁力というのはどこまで不可思議な力なのでしょうか。

しかし、科学的に説明はつかないけれども、その勁力をどうすれば修得できるかは説明される。
勁力の仕組みや、勁力のための練功、勁力というものの見方や、勁力の理解の仕方は、
この道場ではイヤというほど、耳にタコが出来るほど、ありがたくって涙が出ちゃうほど、
噛んで含めて煮直すようにして門人全員に分け隔て無く与えて頂けるのであります。
 
3. Posted by 太郎冠者   2011年02月10日 19:27
☆まっつさん
重力というのは本当に摩訶不思議なチカラで、引かれるもの
がありますね。・・・重力だけに。

聖書では「はじめに光があった」ということらしいですが、
最近の宇宙論の研究によると、光=電磁波が生じる前にはすでに
重力というチカラがどうも存在していたらしい、とのことです。

物質があるから重力が生じるのか、あるいは、重力があればこそ、物質があるのか。
わからないことだらけですね。
 
4. Posted by 太郎冠者   2011年02月10日 19:35
☆マガサスさん
本当に、勁力というのは不思議なチカラで、常にこちらの想像を超えたところにあるように
感じます。

先日の稽古でも、師父に向かっていったはずの自分のからだが、あらぬ方向に向いてしまうので、
「あらっ」と、ぼくの口から自然に言葉がこぼれました。
散々体験させてもらっていて、コレですからね。
映像などで見ただけでは(逆に映像だからこそ、でしょうか)、やらせに見えてしまっても仕方がないというものです。

ただ、体験させてもらったおかげで、世の中には不思議なものがあって、自分の知らない世界がまだまだあるのだということだけは、知ることができたわけです。
あとは、それを「知った」自分に対して正直になることが必要で、それでいて自分を挟まない。
他者や環境などではなくて、自分からこそ、最大限に自由にならなければいけないのかもしれません。

そうすれば、勁力の仕組みや、太極拳の体系や構造といったものが、次第に理解できてくる・・・のかもしれません。
 
5. Posted by マルコビッチ   2011年02月11日 14:40
太郎冠者さん、お久しぶりです!
重力といえば、以前 ”無重力状態の時は思考が止まる” と何かで耳にしたことがあります。
一度体験してみたいのですが・・・
そう言えば、勁力で飛ばされる瞬間も思考が止まっているような気がするんですが・・・
これは重力とは関係ないでしょうね!
歩法や対練の稽古でも、考えていると動きが遅くなったり、止まったりしますよね!
またまたそう言えば、これはTVで見たのですが、ロケットで宇宙飛行する際の、
確かスピードに対する G の事だったか、重力の事だったかと思うのですが、(すみません!
ずーっと前のことでうろ覚えなのですが・・・どなたかご存じでしたら教えてください。)
とにかく、そのロケットに乗っている人たちが奇声をを発して、大笑いしているんです!!
何か私たちが勁力で飛ばされている時と、よーく似ていたことは覚えています。
いろいろ考えると不思議な事だらけですが、体験すると、理由は解らなくてもリアルに
自分の中に入ってくるというのが面白いところですね!!
 
6. Posted by 太郎冠者   2011年02月15日 01:25
☆マルコビッチさん、コメントをありがとうございます。
宇宙飛行士といえば、長い間、無重力空間で生活をしていると、骨を構成するカルシウムが溶け出して弱くなってしまうそうです。
重力下では、特に腰痛などの方には重力は二足歩行の天敵、というように思われているようですが、実際はそうではなくて、歩くために必要不可欠なチカラであるらしいです。

余談ですが、宇宙船内での無重力は、実際には重力と遠心力が吊り合って無重力のように感じているので、正確に言うと無重量空間である、ということらしいです。
この、チカラがつりあうことでバランスがとれ、浮いた状態になる、というのは、武術的にはどういったことなのか?
そう考えると、面白くもあります。

>勁力で飛ばされる瞬間も思考が止まっているような気がする
上のことと合わせると、・・・『本当に』思考が止まってるのかもしれませんね。急激な変化に、身体がついていかないのかもしれません。あるいは、もっと別の作用なのか。

>ロケットに乗っている人たちが奇声を発して、大笑いしている
それは初耳ですね。なんでしょう。。。ジェットコースター乗ったときと同じなのかな?(笑)
 

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