2010年08月07日

Gallery Tai-ji「螺旋の構造 その3 サーマッラーのミナレット」

                          by ブログ編集室



 神を迎えるための神殿は、必ず人間が住むところよりも遙か高く、より天界に近く造られなくてはならなかったのだろうか─────


         
           「バベルの塔」:ポール・ギュスターヴ・ドレ


 旧約聖書の創世記に記されている「バベルの塔」は、古代メソポタミアの中心都市である「バビロン(”神の門”の意)」に存在したジッグラトという「礼拝塔」が伝説化されたものであると言われている。
 現在見ることのできるジッグラトの遺構はマヤ文明の神殿に似た四角錐型の階段式のものだが、想像図として画家たちが描いた「バベルの塔」は、必ずサーマッラーのミナレットのような螺旋の構造を持つ巨塔として描かれている。

 しかし、何故これらの神殿が「螺旋構造」でなくてはならなかったのか。天界と地上を結んだ「螺旋」というカタチには、どのような秘密が隠されているのだろうか─────


 螺旋と言えば、これほど明らかな螺旋を見せる建築物も、そう他に無いに違いない。
 サーマッラーのモスクに付随する、螺旋構造の様式を持つ美しいミナレット(礼拝塔)は、基壇を含めた高さが53mもあって、日干し煉瓦で作られた塔の外側に付けられた階段を上って頂上まで行くことができる。
 古代メソポタミア(Mesopotamia=ふたつの河の間にある土地)に於いては都市が神殿を中心に形成され、このような日干し煉瓦を用いて高く積み上げられた礼拝塔が多く存在していた。
 このミナレットは、西暦852年に完成したイラクの最も重要な遺跡のひとつであり、サーマッラーの考古学都市として2007年にユネスコの世界文化遺産にも登録されたが、登録と同時に、近年のイラク情勢に鑑みて《戦争による破壊の危機に晒されている世界遺産》のリストにも加えられた。現在、このような螺旋式の塔は、世界にわずか三つしか存在していない。


 サーマッラーは、9世紀のイランからチェニジアに至る広大な地域に、政治、経済、文化の重要な位置を占めた「アッバース朝」の首都となった都市で、イラクの首都バグダッドから北に130キロ、チグリス川の両岸にある。
 アッバース朝とは、イスラム帝国の第二の世襲王朝で、イスラム教の開祖ムハンマドの伯父アッバースの子孫が750年にバグダードを首都として建設した王朝であり、1258年にモンゴルの軍勢が侵入して滅亡するまで、五百年もの間、イスラム教独自の文化が開花した。
 アッパース朝ではアラブ人への特権は否定され、全ての回教徒に平等な権利が認められていた。イスラム教はペルシャ人など他民族にも広がり、広域交易と農業や科学の著しい発展によって王朝は繁栄し、首都バグダッドは産業革命以前における世界最大の都市となり、首都と各地の都市を結ぶバリード(駅逓制)の幹線道路は交易路としての機能を高め、それまでの世界史上に類を見ないネットワークを築いた大商業帝国となった。
 アッバース朝は、その後サーマッラーに首都を移し、その後約50年間首都として繁栄し、豪華な宮殿や巨大なモスクが建造されたという。

 

   【 参考資料 】

     
      サーマッラーにある「マルウィヤ・ミナレット」


     
      ユネスコ文化遺産(危機遺産)に登録された「サーマッラーの考古学都市」


   
       アッバース朝の最大勢力図(西暦850年当時)

tai_ji_office at 21:08コメント(4)Gallery Tai-ji(ギャラリー・タイジィ)  

コメント一覧

1. Posted by 円山 玄花   2010年08月09日 17:08
美しいものですね、サーマッラーのミナレット。
目にするだけで、一切の思考や感情が一瞬のうちに消えてなくなる思いです。
ぜひとも、実際に歩いてみたいものですね。

これまでにも、雪や水の結晶、180度のパノラマで展開された稲妻の連続、
山の頂から見たご来光など、見ただけで自分が変容するという機会が何回かありましたが、
いずれも、「ただそれが、”それ”そのものである」というところがそれらの共通項でした。
それが自分の中の「自分は”これ”でしかない」という中核に共鳴するために、
生まれてこのかた培ってきた知識や人格や主義主張など外側のものが、
きれいさっぱり洗い流されるのではないかと思うのです。

・・もしかして、宗教と建造物、そしてシンボルの関係には、
そのような要素も含まれているのかしらと勝手に想像してしまいます。(笑)

稽古に関して言えば、師父の散手を拝見していても、
身体はたくさん動いて見えるけれども、ただ”それ”でしかないという印象を強烈に受けます。

「螺旋」もカタチ、「架式」もカタチ。
螺旋の秘密は、今後どのようにして明らかにされていくのでしょうか?
 
2. Posted by トヨ   2010年08月09日 21:59
人間が天に届かせようとした塔が螺旋の構造というのは、
示唆的というか、実に面白い話ですね。

昔の人々は、直感的に、存在と構造と関係性、、
とでもいうような何かが観えていたのでしょうか。

太極拳やさまざまなものを通じ、自分を見つめることによって、
そういった過去の人々が観たモノと共通する何かが、自分の中から
浮かび上がってくるというのは、これもまた興味深いことだと思います。
だからこそ、もっともっと練習せねば!と思うわけですね。
 
3. Posted by まっつ   2010年08月09日 22:24
塔という様式に見られる螺旋構造には、
上方に伸びて、いと高きものに届かせようと、
遥か天空を志向する想いが感じられますね。

千年前にこの塔の威容を見た人々は、分別に長けた現代人よりも、
もっとダイレクトにこの螺旋の象徴する意味を感じられていたと想像します。
イスラムの建築は華美に奔らない幾何学的な美しさがあり、
見て見飽きません。
 
4. Posted by tetsu   2010年08月09日 23:05
不思議なものですね、国や文化が違っていても、螺旋の構造を持つ建物が存在し、
それらは精神文化に結びつくものであって・・・。
螺旋というのは身体や精神の在り方に深く関係してくるものなのでしょうね。
また、とても自然な構造なのかもしれませんね。
太極拳の動きも美しく、しかしわずかな動きの中にもものすごいパワーが内包されている
というのは螺旋の構造と何か関係があるのでしょうね。
 

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