2009年12月27日

Weekend Dinner 番外編 「 2009年の忘年会」

 月日が経つのは早いもので、今年もあっという間に忘年会の季節になった。
 例年は、どこか適当な店を会場にして忘年会を行うのだが、毎年その選択に苦労する。
 もちろん、ここ掛川がそれほど大きな街ではなく、近隣の都市にもコレならばという店が無い故なのだが、そんなスタッフの苦心を察して下さってか、今年は師父が自宅を会場に提供しても良いと言って下さり、師父宅で忘年会が行われることになった。

 門人達が、「今年は師父宅で忘年会!」と聞いて喜んだのはモチロンのことである。
 何しろ師父宅では、専属のシェフや板前、そむりえ、バリスタによって、正式弟子やお客様しか出席できない『ウィークエンド・ディナー』が多い時には毎週のように催され、そこで出される食事は半端ではない。それは私もご相伴に与(あずか)っているが、決して身内の贔屓目ではなく、かの「美味しんぼ」の親子も冷や汗をかくかもしれぬほど、その食事は「美味求真」に尽きるものだ。
 いや、単に美味なることに留まらず、そもそもヒトにとって食とは何か、喰うコトとは何ぞや、という根本的な問い掛けから始まって、より良き旬の食材、より相応しい食器、調理具、より相性の良い美酒を、と、文字どおり師父とスタッフが東奔西走しながら、そのつど御馳走を創造していこうという、太極武藝館の心意気であり、セレモニーなのである。
 だからこんな機会を、食いしん坊の多い門人たちが見逃すわけがなかった。

 果たして、忘年会の通知を出すや否や、あっと言う間に三十数名が参加希望を表明。
 そんなにウチのスペースに入るかなぁ・・と心配顔をされる師父をよそに、いえ、僕は廊下で構いません、あ、私は道場でも結構です、でも独りでは嫌です・・・と、何人もがユーモアを効かせて申し出てくれる。斯くしてスタッフは、約一ヶ月前からそのメニュー作りに入ったのだった。

 
 予定されたメニューは、

   1 ドンクのフランスパンのカナッペ三種
     (トマト、ブラックオリーブと生ハム、アンチョビとクリームチーズ)

   2 殻つきマカダミアナッツとトルティーヤ・チップス サルサソース添え
 
   3 玉葱と長ネギのキッシュ

   4 スペイン風・ライスサラダ

   5 神戸牛のしゃぶしゃぶ入り生春巻き 特製ナンプラーソース

   6 いろいろな温野菜のサラダ 自家製チーズのマヨネーズソース

   7 槍烏賊(やりいか)とグリンピースのソテー

   8 明石蛸のマリネ

   9 神戸牛のコロッケ

  10 神戸牛の牛すじの煮込み(大根と蒟蒻入り)

  11 インド風・スパイシー・エッグ

  12 紫キャベツの酢漬け キャラウエイシード入り

  13 タイ風・ラムボールのつくね揚げ
     パクチ入りナンプラーソース

  14 中華風・海老のチリソース和え

  15 スパゲッティ・ポモドーロ

  16 信州リンゴのコンポート

  17 ドリップ珈琲とベルギーチョコレート


 このメニューでは、普段のウィークエンド・ディナーと同じように、安全で新鮮な食材だけが厳選され、出来る限り国産で、無農薬、低農薬、危険な添加物が入っていないものばかりが用意された。
 例えば、マカダミアナッツはオーストラリアの完全無農薬・無添加のもの、ネギ、グリーンピース、紫キャベツなどの野菜は、信州で農家を営む門人から直送される無農薬のもの、スパイシーエッグには厳選された健康で安全な玉子、海老チリの海老は安全な国産の海老、信州リンゴはこれまた信州の門人から送られてきたリンゴ、そして炒め物や揚げ物の油から味噌、醤油、酢、味醂、塩、砂糖などの調味料まで、きちんと選ばれたものである。
 宴会で使われたお箸も、金魚鉢に五本も入れたら金魚が浮いて来るような、危険な中国製の割り箸なんぞ使えるものか!と、丁寧に作られた安全な国産の竹製のものが取り寄せられた。

 また、「神戸牛のしゃぶしゃぶ入り春巻き」「神戸牛のコロッケ」「神戸牛の牛すじの煮込み」の三種類の料理には、師父の生まれ故郷である神戸の御料牧場で育てられた、美味しくて安全で健康なとびきりの神戸ビーフが使われた。

 因みに、この「牛すじの煮込み」は、師父がウデを振るわれた ”お手製” である。
 この一年間頑張った門人たちのためにと、多忙なお仕事の合間を縫って、大変な手間暇を掛けて作って下さったこの手料理は、まず5キロもの牛すじを神戸から取り寄せ、下茹でだけでも三時間をかけ、一口大に整えた牛すじを蒟蒻と大根を合わせて炒め、さらに五時間ほど煮る。今回は味が良く染みるようにと、計三日間を費やして仕込まれたものであった。

 この際、その作り方を取材したのでお伝えしておきたい。
 まず、神戸牛の「牛すじ肉」を神戸の精肉店から取り寄せることから始まる。
 普通、すじ肉というのは扱いに手間暇が掛かり、安価ではあるけれど面倒なので、下町の居酒屋などでしかお目に掛かれない。しかし、すじ肉はすじ肉でも、コレは「神戸牛」のすじ肉である。滅多に手に入らないその希少な食材に、神戸生まれの師父が目を付けられたのであった。
 計5キロものすじ肉は、やはりプロの客(おでん屋、焼きそば屋、お好み焼き屋など)からの注文がある手前、一度には送ってもらえなかったので、入荷する毎に少しずつ武藝館用に取り置きをして頂き、一週間を掛けてようやく集められた。

 その貴重なスジ肉は、普通の牛肉とは違って、まるでミルクのような香りがする。  
 この香りには驚かされた。やはり新興産業の「掛川牛」などとは比べモノにならない。
 この牛すじを、大きな寸胴(ズンドウ)鍋で下茹でをする。普通の家には、直径37センチ10リッターの寸胴鍋など有ろうはずもないが、何と師父宅にはそれが二つもあるのだから驚きである。
 下茹でだけで3〜4時間かかるが、この時点で既にたまらなく良い匂いが部屋中、建物中に漂っている。隣家のイヌがヨダレを垂らして鳴きはしないかと思えるほど美味しそうな匂いなのだ。その下茹では、無農薬・有機栽培の米から取れた糠(ヌカ)をたっぷりと入れ、ひたすら中火でコトコトと煮る。

 ようやく下茹でが終わると、その「牛すじ」をザルに上げて丁寧にヌカや余分な脂、よごれなどを水洗いで取り除き、食べやすい大きさに整えて切る。
 予め用意しておいた大根とコンニャクをその「牛すじ」と一緒に炒め、出汁(だし)を入れてコトコトと、さらに3〜4時間ほど中火で煮る。その間、アクを取りながらひたすら鍋の中身と対話する。そして出汁が少なくなってきたら、三温糖と醤油と清酒を入れ、味と色を整えながら、さらにコトコトと、汁が少なくなるまで煮る。最後に味見をして、仕上げに味醂を入れて照りを出し、味醂のアルコールが飛べば出来上がり。

 師父お手製の「煮込み」は、今年の忘年会の目玉であり、門人たちにも予告してあったので、皆がとても楽しみにしていた。当日には見事に煮込まれた「大根とコンニャク入り神戸ビーフの牛すじ」が門人たちの前に出され、皆はもちろん大喜びで、寸胴鍋の中身があっという間にカラになったのは言うまでもない。


 お馴染みのヒデコ・シェフが作る料理も、三日前から準備が始まった。食材などの買い物や取り寄せのことを考えると、一週間から十日ぐらい前から準備が始まっている。
 それに、誰もが食器が足りないことに気がついた。三十数人分の食器など、普通の家に揃っているワケがない。師父宅には年始の挨拶や師父や玄花后嗣の誕生パーティなどで大勢が集まることがあるが、それでもせいぜい二十人程度、今後のことも考え、不足分は急いで調達することになった。

 セッティングも大ゴトであった。
 何しろ三十数名の人数である。レストランじゃあるまいし、普通の家ではそれだけの人数を招待できるはずもない。
 しかし、幸いにも師父宅の居間は二十数畳あり、隣に続き部屋の和室も六畳ある。しかしそれだけではまだ足りないので、居間の隣にある二十数畳のオフィスの手前側半分のうち十数畳分を解放することにしていただいた。これで何とかなるカモ・・・・と思う。
 暖かい季節なら、十五畳のテラスを開放すれば気持ちが良いんだろうけどなぁ・・とスタッフの誰かがポツリと言ったが、あいにく当日は北陸や信州で雪が降ってきた寒い夜となった。ブルル・・階段で良いと言った門人も、テラスは遠慮するに違いない。

 お酒も、素晴らしかった。
 普段から武藝館の「そむりえ」として活躍して、ブログの「ウィークエンド・ディナー」を担当し、お客様や正式弟子のディナーに最適なお酒を選んでくれる「そむりえ・まっつ」さんが、この忘年会でも素晴らしい働きをしてくれた。
 当日の一週間前には、ヒデコ・シェフの料理に合わせたワインを厳選して準備、その数はシャンパン4本、赤白のワインが12本用意された。加えて、スタッフが用意したオーストラリアワインも赤白合わせて6リッターあったが、これは何とか使わずに済んだので、スタッフのお正月用に取っておくことにした。(わーい!)
 また、師父特製の「牛すじの煮込み」には、宮古島の泡盛「久遠(くおん)」が合わせて出された。「久遠」は、W.E.ディナーでもご紹介したことのある、極上の泡盛である。長期熟成のその味わいは、深いけれども澄み切っていて、宮古島の、あの青い海を想わせる。

 子供たちや、運転して帰る人など、お酒を飲めない人のためには、国内外の安全なジュースやジュースだけのカクテルを用意し、他にも安全で味わい深い台湾製のウーロン茶やジャスミン茶も準備しておいた。これらのお茶はもちろん茶葉から出され、ペットボトルのウーロン茶などは間違っても出されない。

 料理やお酒の楽しみと共に、毎年忘年会で恒例となった「ビンゴ・ゲーム」もこの会場で行われた。
 今年の景品は「師父の発勁写真(額装)」と「太極武藝館のリバーシブル・フリース」が各一点ずつ目玉商品となり、他には中国茶用のマグカップ、中国製香炉、ブルースリー・トランプ、安全な陶器製の中国箸、ブルースリーのキーホルダー、幸運を呼び悪運を滅ぼす陰陽二組の八卦鏡、財布に入れるとお金の貯まる御札、身に付けていると良縁が来る御札・・等々、参加者の二人に一人は必ず当たる、多くの景品が用意された。

 このビンゴ・ゲームでは、同時にビンゴになった人がダーツの的に矢を投げ、点数の多い人がそれを取得するという初めての試みが取り入れられ、皆大いに盛り上がった。
 しかし、どのようなカタチになっても、強い人は毎年必ず絶対的にツヨイ。もう何年も、同じ人が決まって景品をゲットしていく光景には、人間の強さというものをつくづく考えさせられる。

 忘年会には、遠方からも門人たちが馳せ参じる。
 今年は群馬、長野、岐阜の各県から何人もの人が泊まり掛けで来てくれた。もちろん翌日は稽古をしてから帰宅するつもりだ。そういえば、岐阜県の北部から週に2〜3回通ってきていたAさんなどは、入門して二ヶ月後に掛川に引っ越してきて、今ではもう研究会クラスに入っているから、何とも驚きである。

 今年は正式弟子の清水龍玄さんの乾杯の音頭で宴が始まったが、突然指名されたにも拘わらず、龍玄さんのお話は、長年師父の許で厳しい稽古をされてきた人に違(たが)わぬ、心に響くスピーチであった。

 そして、毎年恒例となった「師父のお言葉」では、まず門人の皆さんが各々の立場で一年間たゆまず精進したことを喜ばれ、

 『私は正式弟子も一般門人も、指導することに於いては全く区別をしていない、
  今後ますます高度になっていく稽古をしっかり取っていって欲しい』

 と仰った。
 そして、今回の宴のために活躍をしたスタッフの苦労をねぎらわれ、

 『この宴の準備を、文字通りの「御馳走」として幾日も走り回って安全な食材を集め、
  花を飾り、セッティングをし、何時間分も音楽を選んで何枚ものCDを作り、
  門人の皆さんたちの一年間を締めくくるに相応しいものにしてくれたことに
  心から感謝をしています』

 と仰った。
 いつも思うのだが、太極武藝館の門人は、みんな本当の家族のようだ。
 もとは見知らぬ他人ばかりが集まっているはずなのに、昨日入門したような人が、もう今日はその家族の輪の中に入っている。これは師を頂点としたピラミッド型の構成ではなく、師を中心とした球が、まるで宇宙のように、どんどん大きく広がっていくようなものなのだと、つくづく思える。


 さて、無事に忘年会が終わると、年末から新年はスタッフが全員で師父と共に過ごし、次なる行事は正月二日からの「お年始」である。

 また大勢の門人たちが、自分も玄門太極武藝館の門人の一人であることに誇りを持って、新春を機に、気持ちも新たに、師父とその喜びを分かち合いにやって来る。
 師父は訪れた門人たちと気さくに杯を交わされ、心づくしの手料理と美酒に舌鼓を打ちながら、今年はどんな稽古をしようか、指導にもっとこんな工夫は出来ないか、昨年はこんな事が新たに分かった、と、皆で太極拳や武術の話題に花を咲かせる。

 太極武藝館には、相変わらず遠くから通ってくる人が後を絶たない。今年はアメリカから遥々入門を希望して来られた人まで居られた。遠方から通う人がその初志を貫くのは大変なことだが、やり抜く人は何があってもやり抜くものである。現に、信州から6時間かけて通い続けている門人は、ついに正式弟子にまでなった。

 来年も、きっと、たくさんの人たちが武藝館の門を叩き、また新しい家族や、心を分かち合える友人がたくさん増えるのだろうなと思う。今年も、その喜びを噛み締めながら年末を迎えられたことを心から嬉しく思う。


                                  (了)

tai_ji_office at 19:50コメント(6)ウィークエンド・ディナー  

コメント一覧

1. Posted by 耕   2009年12月30日 13:16
練拳 Diary をはじめ、本当に興味深く拝読させていただきながら、コメントがなかなかつけられないのも、ここで書かれてあることのなにひとつ近づけない現状なので果てしない感じになって沈んでいました(^^;)。
沈んでいても仕方がないのでまた頑張ります。
今年もありがとうございました。
 
2. Posted by tetsu   2009年12月31日 00:17
忘年会の折には大変お世話になりました。
料理一つをとってみても、スタッフの皆様の動き一つをとっても、全てに心が行き渡っており、とても感動いたしました。一年を締めくくるにあたって武藝館の忘年会に参加できたことを大変喜ばしく思います。
来年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。
 
3. Posted by とび猿   2009年12月31日 01:13
先日は貴重な時間を過ごさせて頂き、ありがとうございました。
本年(といっても、まだありますが)を締め括り、また、その先へと向かう、とても有意義で貴重な時間を過ごすことができました。
このような宴では、普段、なかなか顔を合わせたり、話をする機会のない門人と、美味しい料理を食べ、グラスを傾けながら、ゆっくりと語り合うことができるので、大変勉強になります。

本年は、素晴らしい料理とお酒に、目を見張る・・・ほどの余裕も無いほどの勢いで、食事に夢中になってしまいました。
師父、御手づから作って下さった「牛すじの煮込み」は何ともいえぬほど美味しく、お出汁まで一滴も残さず頂きました。
全てを来年への活力としていきたいと思います。

皆様、まことにありがとうございました。
 
4. Posted by 円山 玄花   2009年12月31日 02:00
☆耕さん
コメントをありがとうございます。
忘年会の記事は、私が書いたものではないのですが、
耕さんが来てくださったので、ご挨拶に飛んで参りました。

私たちがブログを開設してから、早くも一年が経ちました。
この一年間、ブログを温かく見守って頂き、本当にありがとうございました。

本年の「練拳ダイアリー」は、先月の「腰相撲その6」を以て終わりますが、
現在、年頭に向けて新しい内容を考えているところです。
何分拙い文章で甚だ恐縮ですが、太極拳を通じて今後も変わらぬおつき合いを頂戴できれば、
これほど嬉しいことはありません。
来年も、どうぞよろしくお願いいたします。
 
5. Posted by トヨ   2009年12月31日 03:54
武藝館で頂く食事やお酒は、普段の生活の中で、重要なはずなのに見落としてしまいがちな、
食・・・命を頂くということを見つめること、そして心のこもった食事の美味しさを学ばせていただける、大変すばらしい機会で、
今回の忘年会でも「本物の味」をたっぷりと堪能させて頂きました。

・・・おいしかったなァ。

唯一心残りがあるとすれば、ビンゴゲームで賞品をゲットできなかったことです。
邪気を吸い取るという凹面鏡をコッソリ狙っていたのですが。
これは恐らく自分には必要なかったのだ、と解釈することにします^^;

楽しい時間を、本当にありがとうございました。
 
6. Posted by まっつ   2009年12月31日 21:12
今年の忘年会は関わられた方々の心尽くしの籠もった実に楽しい宴でした。
そむりえも役目(取材)を忘れて思い切り楽しませて頂きました(汗)。

今回、宴に供したワイン達は、
会のスピリッツに合わせてヴァン・ナチュール(自然派ワイン)で揃えました。
沢山呑んでも次の日に残らない、なんともありがたいワイン達でした。

どのお料理も素晴らしく、
1年を締めくくるに相応しい、素晴らしい時間を堪能させて頂きました。
「ご馳走」を揃えるために東奔西走された師父とスタッフの皆様に心から御礼申し上げます。

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