2009年09月28日

連載小説「龍の道」 第28回




 第28回 臺 灣 (たいわん)(7)


「・・・それは、今から、わずか20年ほど前の話だ。
 終戦間近の、もう誰が見ても日本に余力など残っていないと思える時期に、日本の主な都市は、カーチス・ルメイ将軍の“日本焦土化作戦”によるB29の大空襲の攻撃を受け、日本の攻撃専用に開発したM69焼夷弾やナパーム弾で、武器を持たぬ50万人もの民間人が、まるで虫けらでも駆除するように、無差別に焼き殺されたのだ。

 焼夷弾は “悪魔の火” とも呼ばれる、ある意味では原爆よりもひどい爆弾だ。
 それは紙と木で出来た日本の家屋をあっという間に燃やし、周り中を火の海にして、人間をバーベキューにする。あまりにも空気の温度が高くなって、その炎自体に触れなくとも、衣服や髪の毛が自然に発火してしまう。
 彼らはそれを使って、日本の67個所の都市を爆撃した。

 東京大空襲では、特製の焼夷弾を搭載した325機のB29爆撃機が38万発の爆弾を落とし、ただの一夜にして10万人もの日本人が生きたまま焼き殺された。
 アメリカ軍は、関東大震災での被害を徹底的に調べ上げ、木造住宅が密集する東京の下町が火災の被害を最も受けやすいことに着目し、そこを攻撃目標の中心にした。
 火炎の高さは高度15,000mの成層圏にまで達し、摂氏一千度、風速25m以上の、台風並 みの熱風が東京中に吹き荒れた。
 そして、それが真珠湾での被害、軍人2,300人、民間人57人の死者に対する正当な報復攻撃だと、ルメイ将軍は公言して憚らなかった。
 アメリカ国内でも、日本の民間人への無差別攻撃は人道的に誤りであり、国際法にも違反するという声が高かったが、カーチス・ルメイは日本人が民間居住地区で軍需物質を製造していることを理由に、反対を押し切って、日本焦土化作戦を立案、無差別爆撃を強行した。

 マッカーサーをはじめ、無差別爆撃に反対する人たちは、戦略的にはもう日本にそのような攻撃をする必要はまったく無く、もはや上陸する必要さえないと言い切っていたが、ルメイ将軍は、反対を押し切って大空襲を強行したのだ。

 このルメイという男は、後のキューバ危機に於いては執拗にキューバ空爆をケネディ大統領に提案し、また、最近のベトナム戦争では空軍参謀長として北ベトナムの爆撃を担当し、『ベトナムを石器時代に戻してやる!』と豪語した大の戦争好きの人物で、数年前、副大統領候補に立候補した時にもハッキリと人種差別を主張していた。
 ・・結局、落選したがね。核ミサイルを数十基も配備していたキューバに空爆をしていたら、それこそ第三次大戦になっていただろう。


 ・・そして、日本の67の都市と主要五大都市を丸ごと焼け野原にした後に、さらに止めを刺すかのように、世界初の原子爆弾が、2度連続して投下され、広島だけで20万人もの犠牲者を出した。

 原爆投下の2ヶ月も前から、日本はすでに、ソビエトを通じて降伏の交渉を進め、スターリンに米英首脳への仲介を依頼していた。そして、連合国側も、それをきちんと承知していたのだ。

 ポツダム宣言を「拒否」したから、原爆を落とされた・・?
 それを受諾しなかった日本政府が悪い・・?

 そうではない・・! 
 事実は全く違っている・・!! 
 それこそが、予め予定され、造られた、一般人への認識の操作というものだ!

 たとえば、ポツダム宣言には、わざと天皇への扱いが不明確にされていた。
 宣言書にそう書いておけば、当時の日本が絶対に宣言を受諾することはない事を見越して、わざと不明確に書かれていたのだ。
 また、これはよく知られている話だが、ポツダム宣言を拒否したことについては「翻訳」の問題があった。
 ポツダム宣言が出た後、日本は閣議でゴタゴタしていたが、結局、記者会見が開かれることになり、そこで鈴木首相は「ノーコメント」と言った。
 しかし、英語禁制の時代で「ノーコメント」は使えない、そこで、それを取材した記者が「黙殺」という言葉に変えてしまった。ノーコメントと黙殺では意味が全く違うが、新聞記者は国民の戦意高揚を考えて、そう書いてしまった。
 ところが、この「黙殺」という日本語を、同盟通信は「ignore(無視)」と翻訳して打電し、さらに欧米のメディアがそれを「reject(拒否)」と歪めて報道した。
 これがアメリカが日本に原爆を落とす口実を与えることになったのだ。

 しかし、実はトルーマンはそれより遥か以前に原爆投下を決定していた。砂漠の実験ではデータが少ない。対ソ政策としても世界初の公開実験をする必要があると考えたのだ。
 つまり、アメリカは、どうしても原爆を使いたかった、ということになる。

 その証拠に、ヒロシマのわずか三日後に、長崎に原爆が投下された。
 こればかりは、アメリカ国内でも大問題になった!
 彼らは、わずか三日前に広島の惨状を目の当たりにしながら、何をためらうこともなく、一瞬で7万4千人もの命を奪う爆弾を、平然と、長崎に投下したのだ!!

 長崎は、キリスト教が日本に伝来して以来、カトリック信者の多い土地で、鎖国解消後の長崎開港で欧米人が居住区をつくり、その一角に教会が造られた。浦上天主堂と呼ばれるその教会は、完成までに二十年の歳月を要した、東洋一の大聖堂だった。

 その浦上天主堂が、原爆の爆心地になった。投下時には聖母被昇天の大祝日を間近に控えて、司祭や信者たちが教会で儀式を行っていたが、全員が死亡している。
 それはキリスト教の教会だ。異教徒の教会ではない。
 アメリカでは大統領も教会への礼拝を欠かさない国だ。しかし、彼らはそのキリスト教の大聖堂を標的として狙い、同じキリスト教徒に対して、たった一発でTNT火薬に換算して2万2千トンにも相当する、強力な原子爆弾を浴びせたのだ。

 ・・・これは、人類史上に残る、大量虐殺以外の何ものでもない。
 その大量虐殺が、日本の “侵略戦争” を食い止めるという名目で正当化され、平然と行われたのだ。

 しかし、その原爆を投下した “加害者” について、日本が言及したことは無い。
 日本が示しているのは、幾度となく原爆慰霊祭を迎えても、常に “被害者” としての姿勢だけだ。まるで、自分たちが犯した "過ち" とでも言わんばかりに。
 巧妙にでっち上げられた南京大虐殺を批判され、真珠湾攻撃を卑怯な奇襲と罵られ、東京裁判で世界の悪者にされても、あの原爆を2度も投下した非人道的な行為について日本が非難したことは一度も無い。それは何故なのか・・・?」


「日本への原爆投下は、日本を叩くこと以外にも、ソ連への牽制や、東南アジア諸国への示威の意味が大きかった。
 それはまた、新兵器による大規模な人体実験を目的とするものでもあった。
 事実、その証拠に、現在でもアメリカは、被爆者の子孫の転居先にまで、その追跡調査を続けている。それは21世紀になっても延々と続けられることだろう。

 もちろん人種差別という理由もある。哲学者のサルトルは、もし日本人が白人であれば、アメリカは決して原爆を落とさなかっただろう、と公言した。
 アインシュタインと共に、核兵器の廃絶を世界に宣言したバートランド・ラッセルは、原爆の投下は単にアメリカの非人道的行為に留まらず、白人全体の罪であり、日本を降伏させるための必要不可欠な行為とするのは、まったくもって白人の偽りに他ならない、と言明している」


 宏隆は、父や母から聞かされた、日本の敗戦前夜の話を思い出した。

「・・・それらのことは、僕もある程度は知っています。しかしそれは、話に聞いているということに過ぎませんし、学校の歴史の授業で学んだというだけのことです。
 また、実際の戦争体験をしたわけではないので、その実感もまったくありません・・」

「そうだ、そうやって、その体験は、その歴史は、次の世代には忘れられていく。
 そして、やがて当事者の記憶からも薄れ、あげくの果てには歪められた歴史が教育され、何も知らぬ者たちが自分の祖先が“悪いこと”をしたのだと自虐史観を持つようになり、その責任を国家や政府の所為にするようになる。
 それは、他国が侵略や併合をするのに絶好の条件が整った、正に理想的な国だ・・」

「・・・・・・」

「私たちばかりではなく、ほとんどのアジアの国々や台湾の国民の多くは日本に戦争責任があるとは考えていない。東京裁判など、戦勝国の茶番に過ぎないと私たちは思っている。
 東京裁判でまともなことを言ったのは、インドのパール判事くらいのものだ。
 その証拠に、あのマッカーサーでさえ、東京裁判を批判しているではないか・・

 真珠湾が奇襲攻撃・・? そもそもアメリカは、戦争する時に宣戦布告などしたことがあるのかね?、その事実をアメリカ国民は知っているのだろうか?
 それに、真珠湾を騙し討ちだと言うのなら、その2年前にドイツとソビエトが宣戦布告なしでポーランドに侵攻した事をどうして問題にしないのか? ポーランドでは5年間で全人口の20%が殺害されている・・・」

「結局、勝てば官軍・・ということでしょうか?」

「日本の格言だね? “勝てば官軍、負ければ賊軍” だったか・・・
 大東亜戦争・・・アメリカの言う太平洋戦争は、アジアを欧米の植民地政策から開放し、アジアに独自の経済圏を確立することを、その第一の目的としていた。
 日本は戦争に負けたが、結果として、今ではかつての日本が望んだ通りに、アジアは欧米支配からほとんど開放されつつある。これは、皮肉にも日本の勝利が証明されているということになる」

「・・・しかし、そのために、日本は “賊軍” となったのではないでしょうか?」

「その通りだ。そして、それにつけ込んで戦後の賠償金を主張する国もあるし、ロシアのように、ヒロシマのわずか2日後に日本に宣戦布告をし、ここぞとばかりに、日本が占領していた満州と樺太に上陸してくるような、卑怯極まりない奴らも居る・・・」

「もっと、勉強します・・・日本人でありながら、僕はまだ何も知らない・・・
 僕は、日本や世界のことを何も分かっていないようです」

「それがいい・・・・まずは、よく勉強しなさい。
 そして、もっと自分の国に、自分を育んでくれた母なる国に誇りを持つことだ」

「日本人は、世界にも類を見ない、とても優秀で知的な民族なのだ。台湾や韓国は日本の力がなければここまで復興しなかった。
 そして、世界を支配しようとしていた白人たち・・・欧米列強に対して、初めて牙を向いて果敢に立ち向かった、アジアの、最も勇気ある民族でもある・・・
 自分の国を大切にしなければならない。自分の祖先が生き、自分を育んでくれた文化や風土を大切にすることは、どこの民族でも人間の基本ではないだろうか」

「はい・・・・」

 張大人の話は、宏隆にもよく分かった。
 しかし、普段よく考えもしなかった話の内容を聞いて、少なからずショックを受けていた。

 そんな、意気消沈してしまった宏隆を見て、張大人が、

「ははは・・・成り行きとは言え、つい歴史の話しが過ぎたようだね。
 そう、話は戻るが、吾々の“家族”に参入することについては、どう思うかね?」

 ・・そう言って訊ねてくる。

「このように、歴史も、世界の現状も、何も知らないに等しい私が、ただ陳氏太極拳を学びたいと言うことだけで、組織に参入することなど、許されるのでしょうか・・?」

「そもそも、私たちと君とは、浅からぬ縁があるのだ・・・
 いや、縁というよりは、それはもう、必然と言えるかも知れない。
 君だけではなく、君の父君とも、私たちはすでにご縁がある。
 それに、君のような人間を、私たちは探していたのだよ。
 これからの時代は、君のような若者にこそ、活躍して貰わなくてはならない」

「先ほどからのお話を伺っていて、私の心の中に、強く主張し続けるものがあります。
 私のような、何も知らない若輩の人間でも、何かのお役に立ち、私の知らないことを教えていただけるのであれば・・・・此処に迎えて頂けるのであれば、皆さんとのご縁の大きさを信じて、ぜひ、お仲間に入れて頂きたいと思います」

「おお、そうか、そうか・・・
 うん、そういう気持ちがあるのなら、ことは手っ取り早い。
 早速、君を吾々の“家族”に迎えるための準備を始めることにしよう」

 張大人のその言葉を機に、宏隆は席から立ち上がって、少し椅子から離れ、張大人に向かって丁寧にお辞儀をして言った。

「張大人・・・大切なお話をして下さって、本当にありがとうございます。
 私は、人生経験の少ない、無知な若輩に過ぎませんが、皆さまのお仲間に入れて頂けることをとても嬉しく思います。今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます」

「おお、立派な挨拶だ。
 父君も立派な人だが、本当に君は良い家庭で、良い教育を受けたのだね。
 もう近ごろでは、台湾でもそんな挨拶の出来る若者は滅多に居なくなった・・・」

「ありがとうございます・・」

「・・では、準備が整い次第、連絡をしよう。
 王くんは勿論のことだが、君を王くんに引き合わせたK先生にも来て頂かなくてはいけない。準備が整うまで一週間は掛かるだろうから、その間、この陳にいろいろと案内してもらったり、教わったりすると良い。今日はこのままホテルに戻って、ゆっくり休みなさい。
 そうそう、圓山大飯店は、お気に召したかな・・・?」

「・・はい、申し遅れましたが、立派なお部屋をご用意していただき、本当にありがとうございます。台湾滞在中は、陳さんに就いて、色々と勉強させて頂こうと思います、どうぞ宜しくお願いします」

 そう礼を言って、陳さんの方にも頭を下げ、もう一度、張大人にあらためて深くお辞儀をして、その場を立ち去ろうとしたが、

「あの・・・張大人・・・もうひとつお訊きしても良いでしょうか?」

 何かを思い出したように、宏隆が言う。

「・・おお、何なりと訊きなさい」

 孫の話を聞いてやる祖父のように、優しい顔をして張大人が頷く。

「僕が、正式に家族になったら・・・
 皆さんのように、すぐに武器を取って戦うことになるのでしょうか?」

「いやいや、そうではない・・・私たちの家族にならなくては、君に陳氏太極拳を正式に伝承することは出来ない、ということなのだ。
 決して君に、組織の “戦闘要員” になれ、と言っているのではないよ、ははは・・・」

「そうですか・・・・」

「うむ、安心したかね?」

「いいえ、そうではなく・・・
 戦闘要員でなければ、武器や戦闘の訓練を受けられないのかと思いまして・・・」

「ん?・・・・・
 それは、つまり、望んでその訓練を受けたい・・と言っているのかね?」

「そうです。人間としての尊厳や、家族や、祖国を守れるように・・・
 いざという時のために、せめて、そのような訓練だけは受けておきたいと思うのです。
 先ほどのお話をうかがってから、だんだんその気持ちが強くなってきました」

「・・おお、それは良い考えだ、是非そうしなさい!
 戦闘に関することは、この陳に、何でも教えてもらうと良い。 
 彼は、こう見えても・・・・」

 ・・・しかし、そう言いかけた張大人の言葉を遮るように、

「はい、知っています・・・
 元、台湾海軍中尉で、秘密結社・玄洋會の、戦闘部隊の教練・・でしたね!」

 と、宏隆が陳さんの方を見ながら先にそう言ったので、張大人と陳さんは思わず顔を見合わせ、大きな声を上げて、笑った。


                                 (つづく)

taka_kasuga at 21:32コメント(1)連載小説:龍の道 | *第21回 〜 第30回 

コメント一覧

1. Posted by マガサス   2009年10月07日 12:42
私たちが学んできた歴史は「日本が悪い」という前提に立った歴史観が幅を効かせていました。
日教組が支援する鳩山政権では、それが益々エスカレートすることでしょう。
こうして、あらためて敗戦前夜の事情を読むと、西欧列強に楯突いた日本を葬るために未曾有の大空襲を行い、トドメの原爆を人類初の実験とソ連への牽制として行ったことが窺えます。

アジアで日本を悪く言うのは、決まって中国、韓国、北朝鮮の三国ですが、よく調べてみると、それ以外の国では日本の侵略戦争だったなどと言う所はほとんど無いに等しい。
近ごろのNHKの偏向放送ではやたらと「日本が悪い」ということにしたい番組が目立ちますが、自国のことを悪く言う公共放送など、世界のどこを探しても有り得ず、こんな放送局に高い受信料を払うこと自体が間違っていると思えます。(私は払ったことがありません)

「龍の道」では、文化大革命の大弾圧に屈せず、生き残った人たちが自由と平和を求めて団結した人たちに主人公が関わっていく展開を見せていますが、これを機に、私たち読者もあらためて自分の国の歴史をきちんと顧みる必要がありそうです。

次回(明日!)からは、新しい展開のありそうな気配の「龍の道」・・・
うーむ、待ちきれぬ次回!!(C)
 

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